2015年1月6日火曜日

速く走るということに対する考察材料を一つ

特に前置きもなくデータをご覧ください。


2013年のインターハイにおける桐生選手(洛南高校→東洋大学) の疾走速度に関するデータをグラフ化したものです。

10m  5.22
20m  9.55
30m  10.63
40m  10.97
50m  11.27
60m  11.30
70m  11.30
80m  11.25
90m  11.08
100m 10.82

こんな速度で進んでいます。もう一つ、2011年の世界選手権優勝のBlake選手の速度変化。

10m  5.35     
20m  9.76
30m  10.84
40m  11.32
50m  11.62
60m  11.74
70m  11.71
80m  11.63
90m  11.49
100m 11.29

二か所に分けて数字を打ち出したので数値での比較が分かりにくい。

その点は気にせずに先へと。

桐生選手の最高速度は11.30m/s、
ブレイク選手の最高速度は11.74m/s。

トップスピードが速い選手の方がゴールタイムも速いというのはよく言われる話ではありますが、

では他の点ではどうか?

比較して頂ければ分かる通り、どの時点においてもブレイク選手の速度の方が速いですね。

グラフで見るとこんな感じです。


トップスピードがブレイク選手よりも低い点と、最後の失速もブレイク選手と同様に起っている、

そういった点が理解できるかと思います。

こうした点を理解してはいるかと思われますが、

どの距離においても言える簡単な話が、以下のグラフにすると分かり良いかと思います。


画像が少々小さくなりますが、

距離と速度の関係を塗りつぶした図になります。

なんとなく見ても分かるかと思いますが、

この面積が大きい人ほど速く走っているということになります。


こんなグラフの方が分かりやすいですね。

茶色の部分が桐生選手で青色の部分がブレイク選手。

この面積差をいかにして無くすかが勝つためには大事になります。

トップスピードで負ける点や後半の失速が見られるので、

前半部分だけでも上回れば差を縮めることは可能ですね。

ただ、これをやるのは短距離種目では難しいです。

どうしても加速に時間が掛かりますし、

無理して出力を高めることで力んだりして余計な失速につながりますので。


一方で中長距離種目においては、

最初の立ち上がりが異様に速くて、

後半になるに連れて落ちていく傾向にあります。

それをグラフにしようかと思いましたが面倒なのでまたの機会に。

ダラダラと書き連ねていますが言いたい事はトップスピードだけを意識してはダメである、

ということです。

後半の失速を防ぐのも大事ですし、

トップスピードまでの立ち上がりの速さも大事です。

いかにスピード曲線の面積を大きくするか、

これも意識して頂きたいと思うところです。

トップスピードが遅いから後半落ちるということではありませんので。

それは単に最初が速すぎるだけです。

速く走るにはペース配分というものがとても大事になります。

ラストスパートが出来ないという質問や相談をよく見かけますが、

それはそこまでのペースが速すぎるだけです。

正しい理解をして適切な練習を行う。

これが強くなるためには大事です。

2015年1月4日日曜日

ストレッチによって失われた最大トルクはどれくらいで回復するのか


Stretching-induced deficit of maximal isometric torque is restored within 10 minutes.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23615480

 2014 Jan;28(1):147-53


近年、静的ストレッチによって出力が低下するという意見が出る一方で、


出力低下はないという意見もあって議論が多いストレッチですが、

本論文ではストレッチで失われた出力がどれくらいで回復するかを調べています。



長時間のストレッチは現場ではやらないという主張が聞かれますが、

実際に調べてみると一部位につき30秒以上のストレッチをしている人は多いです。

ベストなパフォーマンス発揮を考えるのなら、

議論の多い状態の静的ストレッチは見直すべきでしょう。

もちろん、本論文のようにすぐに戻るという主張もありますので、

そちらを取り入れて時間を掛けてやるのもありでしょう。

自分にとってベストな形でのトレーニングを。

2015年1月2日金曜日

筋肉における遺伝子発現の性差


Skeletal muscle gene expression in response to resistance exercise: sex specific regulation.


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21106073

 2010 Nov 24;11:659  全文読めます

男女においてトレーニング効果が同じかどうなのかという話は多くありますが、

この論文ではレジスタンストレーニング後の遺伝子発現という点を調べています。

結論としては男女差があるので、

トレーニングは負荷その他に男女で異なったアプローチが必要になりますよ、

ということで。

当たり前と言えばそれまでですが、

意外と忘れてしまう点ですので。

発現が少ないのなら多くしないとダメですし、

負荷とケガのリスクなんかを考慮しないといけませんし。

同じ練習だけでは強くなれないので、

しっかりと考える必要がありますね

2014年11月24日月曜日

取りあえず答え合わせ

本来やるべき仕事へのやる気が出ないので、

じっくりと添削を入れてみましょう。

先日あったtweetです。

”筋肉痛の原因は筋繊維の破損です。自分の筋肉ができるパフォーマンスの限度を超えると、筋繊維が破壊されて炎症が起きます。これが筋肉痛です。 筋繊維の破損が起こることにより、より強い筋繊維が作られます。筋肉痛は成長の印とも言えます。筋肉痛のときはタンパク質を多めに。”

 さんのtweetより


まず「筋肉痛の原因」です。

これは現在のところ明確な話が出ていません。

昔は筋肉の損傷と言われていましたし、

エキセントリックな運動をやると筋肉痛になるので良いと言われたりもしました。

しかし、近年出された論文からは筋線維に損傷がなくても筋肉痛が出るといった症例がいくつか報告されています。

こうした点から筋線維の損傷も一つの要因ではあろうが、痛みの根本ではない可能性が示されました。

そうした中で出てきたのがブラジキニンのような発痛物質です。

神経系へ痛みを伝える物質が生じる事が筋肉痛の原因では?

といった話ですね。

現在ではこの方向で話が進んでいますが、

疲労の原因と同じく筋肉痛の原因もいくつかの要因があると思った方が良いでしょう。

これが原因!!といった表現は難しいかと。

続きまして

”自分の筋肉ができるパフォーマンスの限度を超えると筋線維が破壊”

という文章。

限度を超えないでも低負荷で繰り返していれば筋線維に微細な傷がつくことはありますね、

最大限度を超えるということは1RMですよね。

そんなトレーニングをしている人はまずいません。

でもって筋線維が破壊となると、

これは筋肉痛ではなく筋の損傷であり、

筋挫傷や筋断裂といったケガの範疇になってくるかと思います。

文章には注意しましょう。

その次にあります

”筋繊維の破損が起こることにより、より強い筋繊維が作られます”

これですね。

すでに述べたように筋線維が破損したらケガです。故障です。

わずかな傷でも筋肉痛が起こると言われているんですけど、

破損なんていうレベルになったらもう大変です。

即座に病院に行きましょう。

で、

より強い筋線維が作られるという表現ですが、

筋肥大は加圧トレーニングやスロートレーニングの研究結果から、

筋線維に微細な傷がつくような事がなくても生じていますので、

以前に言われていたような筋線維がどうこうといったものは不要です。

より強い筋線維となるにはかなりの日数が必要となりますし、

現状の科学ではこれを観察するのはまだ無理とされています。

筋肉内にある水が主な理由ですね。

水が増えたのか筋肉が増えたのかの観察が非常に難しいので。

ということで、

これを断言すると未来から来た人が話をしていることになってしまいます。

”筋肉痛は成長の印とも言えます”

ここまで来たら想像は出来るかと思いますが、

成長とか何も関係ありません。

体内で代謝物質が作られた事を感じるのみです。

何が起こっているかはよく分かりません。

もちろん痛みを伝えることで運動を制御しようとしている事などが推測されますが、

やはり詳しくは分かりません。

最後になりましたが、

”筋肉痛のときはタンパク質を多めに。”

これに関しては間違いとも言い切れませんが、

運動後に素早く摂取するのが大事ですね。

最近では直後では無くても良いという主張も見られますが、

運動直後や睡眠前のタンパク質摂取は効果があるというデータはありますので。

特にロイシンの摂取は重要みたいですね。

tweet主の言われるような筋の損傷が起こるようなトレーニングをした後なら、

修復するためにもタンパク質は直後に摂取すべきでしょうし。

なお量に関しても様々なデータがありますが、

一度に20g以上の摂取(人によっては体重×0.24g)をしても大きな効果はない、

そうしたものがありますので。

この辺りも近年は新たなサプリメントの登場などによって、

多くの議論やツッコミが起こっている状態ですね。

tweet主のプロフィールには”スポーツ科学の視点から~”とありますが、

残念ながら時代遅れになってしまったスポーツ科学でのお話のようです。

ということで、

筋肉痛はよく分からないというお話でした。

2014年11月6日木曜日

エナジードリンクは効果があるのか

Effects of red bull energy drink on repeated sprint performance in women athletes.

Amino Acids. 2012 May;42(5):1803-8.

Astorino TA1, Matera AJ, Basinger J, Evans M, Schurman T, Marquez R.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21461905

255mlのレッドブルを女性アスリートに飲ませると効果があるのか、

それを調べた実験が上のものです。結論を言えば効果が無いというオチです。



一方で、




Effects of a Caffeine-Containing Energy Drink on Simulated Soccer Performance
  • Published: February 14, 2012
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0031380

Juan Del Coso,Víctor E. Muñoz-Fernández,Gloria Muñoz,Valentín E. Fernández-Elías,
Juan F. Ortega,Nassim Hamouti,José C. Barbero,Jesús Muñoz-Guerra

http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0031380


レッドブルを630ml近く飲んで体重kgあたり3mgのカフェインを摂取するようにして効果を調べたら、

サッカーのパフォーマンスは向上したという結果になっております。

なおレッドブルのカフェイン量は 32mg / 100ml となっています。

250mlのものを3本飲んだら効果が出る可能性があります。

なお、ACSM(アメリカスポーツ医学会)が出しているレポートでは、


大量に摂取すると効果はあるとされています。

ただ、明確にパフォーマンスを向上させるのか、という点は微妙ですので禁止物質には指定されていません。