2021年9月12日日曜日

インスリン様成長因子とパフォーマンスの関連

 Insulin-like Growth Factor Axis Genetic Score and Sports Excellence
Ben-Zaken et.al
Journal of Strength and Conditioning Research: September 2021

 運動能力を向上させる可能性のある遺伝子を特定することは非常に難しく、将来のスポーツ選手の成功を予測するというのは推測の域を出ていない。プロスポーツ選手の遺伝子と運動能力に関する報告のほとんどが、IGF1の変動に焦点を当てていた。インスリン様成長因子(IGF)は筋肉の成長、分化、および機能に重要な役割を果たしており、高いIGF1レベルは短距離走に有利であり、エリートパフォーマンスに関係する可能性が示唆される。ランナーとは対照的に、IGF多型は水泳のパフォーマンスとは関連していなかった。
本研究では、イスラエルのエリートランナーと水泳選手を対象に、遺伝子スコアの高低を調査した。
 優れた能力を発揮するには遺伝的要因が必要であることはよく知られているが、環境と遺伝との関係や相互作用から生じる様々な要因があることも知られている。パフォーマンスのばらつきに関連する遺伝子を特定しようとする場合、成功にわずかしか貢献しないことも理解しておく必要がある。エリートアスリートを見分けるために遺伝子スコアツールが開発されているが、これまでの研究では循環型IGF-Iもフィットネスと相関することが示されている。IGF遺伝子スコアは、国内レベルの陸上競技選手とトップレベルの陸上競技選手(国際大会、世界選手権、欧州選手権、オリンピックの優勝者)で比較。ランナーとは対照的に、IGF多型は水泳のパフォーマンス向上と関連していなかったため、ランナーと水泳選手の間で、IGF1遺伝子スコアを比較した。

・イスラエルのスポーツ選手では、対照群に比べてTT遺伝子型の頻度が高いことが示されました(4.8%)。TT多型保有者は持久系とパワー系の両方のアスリートであったが、持久系アスリートは国内レベルの選手であり、パワー系アスリートは国際大会やオリンピックのトップレベルの選手であった
・典型的なパワースポーツの中でも、IGF1多型はストレングス競技よりもむしろスピードスポーツ競技に重要である
・IGF2(rs680)GG遺伝子型は、重量挙げ選手と比較してスプリンターで有意に高く、スピードスポーツには有益だが、ストレングススポーツには有益ではないことが示唆される。IGF2(rs680)多型がスピードパフォーマンスに及ぼす可能性のある有益な影響は、必ずしも循環IGF2への影響からではなく、IGF1レベルへの影響を介している可能性がある
・MSTN(ミオスタチン)遺伝子は骨格筋細胞にほぼ独占的に発現しており、循環IGF1レベルの抑制効果を介して筋成長の負の制御因子として機能している

・ランニングと水泳は、生理学的・代謝的特性が似ているが異なる遺伝子多型を持っている可能性がある。特定のIGF1多型は、陸上の短距離系の種目に有利であると考えられ、特定のIGF軸遺伝子スコアは、トップレベルの短距離走者と国内レベルの短距離走者を区別する可能性がある

興味深い点としてはトップ選手であれば必ず高いIGFを誇るわけではなく、競技に応じて違いがあるというところですね。水泳と陸上競技では持久力という観点などで似ていると言われたりするわけですが、遺伝子的な面では異なっているかもと考えられるのであると、これまでに様々な研究で行われている持久力の測定といったものも分けて考える必要があるのでは、と思いました。水泳における持久力が高い選手、陸上競技における持久力が高い選手は異なると考えられるのであれば、水泳選手の走ったり自転車によるトレーニングでは効果が出にくい選手もいるのでは、といった感じです。