2015年1月14日水曜日

クーリングダウンを考える

練習前にウォーミングアップをやることで、

筋温を高めたり腱の弾性や内臓を~というのはなんとなく理解されていることでしょう。

やらないよりもやった方が確実にパフォーマンスが上がります。

寝坊してアップが不足したら自己ベストが出た、

そういう話もよく耳にしますけれども、、

それらは普段のアップがおかしいのか、

その記録が出た大会までの練習が良かったのか、

などなど考えられるパターンは様々です。

その一方で、

クーリングダウンの話に関しては、

翌日の疲労を抑えるという話は聞きますけれども、

何で?

という疑問に答えるようなものがありません。

一昔前までは乳酸が疲労物質であるからという意見が多く、

クーリングダウンは乳酸値を素早く減少させることを目的としてあれこれと実験が行われてきました。

まぁ近年では乳酸が疲労物質ではないとされていますので、

そうした実験の意味が見えなくなってしまいました。

乳酸話はこちらをどうぞ
http://tf-ver3.blogspot.jp/2014/11/blog-post.html

乳酸値は1時間もしたら通常の値に戻りますので、

一日にレースが数本ある場合ではなければ、

特に気にするようなこともありません。

むしろ、エネルギーの回復や筋疲労や脳疲労を取り除くのが大事になることでしょうが、

それは今後の研究課題になっていくと思われます。

さて、当初の目的であるクーリングダウンを考えるということですが、

取りあえず検索して出てきました数件の例をご覧ください。

その1

 http://www.nissan-stadium.jp/nsaa/special09.php

・クーリングダウンを怠ると、乳酸が体内に蓄積します。これが、翌日に疲労感を感じてしまったりする原因でもあり、これが継続してしまうと慢性疲労になってしまいます。
・クーリングダウンによって、損傷の回復を早めることはできますが、怠ってしまうと筋肉痛が発生し、長引いてしまいます
・交感神経をゆっくり休めるためのクーリングダウンを怠ると、気持ちだけやる気満々の状態が継続してしまい、他のことに集中できなかったりします。

その2

https://www.qupio.jp/1609?category=exercise


◆クーリングダウンの効能

〈1〉運動やスポーツ直後の心肺的リスクを軽減
〈2〉筋肉の疲労回復を促進
・運動を急に止めずに、ジョギングなどで少しの間軽い負荷をかけることは、筋肉中に溜まる疲労物質を取り除くためにも有効といわれています。 さらに、ストレッチによって筋肉の柔軟性を取り戻せば、損傷した筋肉の回復を早め、筋肉痛を予防・軽減することができます。

その3

http://www.know-dt.com/Bodypart/pretrain/060_cdown.html


激しい運動を行うと、人間の体内には乳酸という疲労物質がたまってきます。だから運動を急に停止すると、この乳酸が筋肉などの組織にたまったままなかなか処理されなくなってしまうのです。

その4


練習や試合直後、激しい運動を突然ストップすると筋(特に脚を中心に)に血液が貯留してしまうため、クーリングダウンを行わずに練習を終了してしまうと、筋内に乳酸(疲労物質)が蓄積し、疲労回復を妨げてしまいます。乳酸は筋の収縮を制限し、筋の動きを悪くするので、速やかな除去が必要です。そこで、クーリングダウンを行い、血液循環を活発にすることで、効果的に乳酸を除去することが必要です

以下略。

検索上位のものを選んでみましたが、

”疲労物質である乳酸を取り除くため”

というのがほとんどです。

この10年間でこの理屈は完全に通用しなくなりましたので、

さてクーリングダウンをやる理由は何であると考えるべきか。

まず血流をいきなり下げると身体によろしくないというのはあります。

が、これはクーリングダウンというよりは走った直後に座り込んだりしない方が良い、

そういった話であろうと思います。

次に筋肉痛の話ですが、

これに関しては昔は筋肉痛の原因は乳酸であるとされていましたが、

近年では否定されております。

大手製薬会社さんは未だに筋肉痛の原因は乳酸と言っておりますが、

根拠を示された所はございません。

タンパク質を摂取することで抑制できますし、

そもそもに筋肉痛の原因というものが今一つよく分かっていない現状では、

何とも言えません。

あとはメンタルといった話が出ていますが、

その辺りはジョグでのクーリングダウン以外でも出来るだろうと思うところです。

ということで、

乳酸値を下げる以外の話がどこにも出てきません。

論文を検索したところで、

日本国内の論文には乳酸値を絡めた話ばかりですので、

どれも使えそうにありません。

むしろ、

トレーニングによる効果というのは運動中に生じた代謝物質によるものと考えられる点からすると、

運動後にクーリングダウンをするのは代謝物質を流すことになり、

効果を下げる理由となると推測する事が可能です。

近年の例でいえば、

成長ホルモンが多く分泌する状態は乳酸値が高い状態、

そういった事が言われています(PGC-1αなど詳細略)

ですので、代謝物質が多くある状態から素早く抜け出そうとするクーリングダウンには利点があまり無いと言えます。

もちろん、

軽く動くことで血流が良くなって代謝が進んで筋の疲労が弱められるといったことも言えますので、

高い負荷のトレーニングを続けてやるためには大事であるとも考えられます。

ですが、

これに対しては冷却法などによって同等の効果が観察されています。

それならば家に帰って食事をしっかりと摂取した方が効果が高い可能性も言えます。

その後にアイシングなどのケアを実施することで、

高いパフォーマンスを維持する事は可能です。

むしろ、

素早いエネルギーやたんぱく質の補給は、

以降の日々へと影響を与えるので、

クーリングダウンを丁寧に行う時間を選択するよりも、

トレーニング効果に影響すると推測される代謝物質を体内に残した状態で、

食事などで補給を行う方が賢明な選択であろうと考えられます。

もちろん、

翌日にレースがあるという場合や、

その日にもう一本レースがあるという場合は異なる事も考えられますが、

疲労というのはダメージとエネルギーの減少という可能性が高くなっている今、

普段のクーリングダウンを見直すのは大事かと思われます。

実際、

運動直後にタンパク質を摂取する事が回復を高め、

トレーニング効果を高くするという話は多いです。

一方で、運動直後にクーリングダウンをすると回復が高まり、

トレーニング効果を高くするという話はほとんど聞きません。

それであるならば、

家に帰って食事をして回復を促進し、

風呂に入って血行を良くして(疲労物質と呼ばれるものがあるのならこれで流せるでしょう)、

気になる点があるのならケアをする方が良いでしょう。

冬場の寒い時期にダラダラとストレッチをしたりするのが回復に良いかという質問に、

胸を張って絶対に大事と答えられる人はあまりいないと思いますし。

そして翌日に疲労感があったら、

練習の負荷を変更してケガを予防すれば良いでしょう。

毎日完璧な状態で練習に挑める人はいません。

そこをダウンによって完璧な状態が作れるという発想はあるかと思いますが、

そうすると今度はエネルギーの回復が遅れますし。

考えれば考えるほどに、

クーリングダウンという言葉が意味を伴っていない気がしますが、

如何でしょうか。

2015年1月6日火曜日

速く走るということに対する考察材料を一つ

特に前置きもなくデータをご覧ください。


2013年のインターハイにおける桐生選手(洛南高校→東洋大学) の疾走速度に関するデータをグラフ化したものです。

10m  5.22
20m  9.55
30m  10.63
40m  10.97
50m  11.27
60m  11.30
70m  11.30
80m  11.25
90m  11.08
100m 10.82

こんな速度で進んでいます。もう一つ、2011年の世界選手権優勝のBlake選手の速度変化。

10m  5.35     
20m  9.76
30m  10.84
40m  11.32
50m  11.62
60m  11.74
70m  11.71
80m  11.63
90m  11.49
100m 11.29

二か所に分けて数字を打ち出したので数値での比較が分かりにくい。

その点は気にせずに先へと。

桐生選手の最高速度は11.30m/s、
ブレイク選手の最高速度は11.74m/s。

トップスピードが速い選手の方がゴールタイムも速いというのはよく言われる話ではありますが、

では他の点ではどうか?

比較して頂ければ分かる通り、どの時点においてもブレイク選手の速度の方が速いですね。

グラフで見るとこんな感じです。


トップスピードがブレイク選手よりも低い点と、最後の失速もブレイク選手と同様に起っている、

そういった点が理解できるかと思います。

こうした点を理解してはいるかと思われますが、

どの距離においても言える簡単な話が、以下のグラフにすると分かり良いかと思います。


画像が少々小さくなりますが、

距離と速度の関係を塗りつぶした図になります。

なんとなく見ても分かるかと思いますが、

この面積が大きい人ほど速く走っているということになります。


こんなグラフの方が分かりやすいですね。

茶色の部分が桐生選手で青色の部分がブレイク選手。

この面積差をいかにして無くすかが勝つためには大事になります。

トップスピードで負ける点や後半の失速が見られるので、

前半部分だけでも上回れば差を縮めることは可能ですね。

ただ、これをやるのは短距離種目では難しいです。

どうしても加速に時間が掛かりますし、

無理して出力を高めることで力んだりして余計な失速につながりますので。


一方で中長距離種目においては、

最初の立ち上がりが異様に速くて、

後半になるに連れて落ちていく傾向にあります。

それをグラフにしようかと思いましたが面倒なのでまたの機会に。

ダラダラと書き連ねていますが言いたい事はトップスピードだけを意識してはダメである、

ということです。

後半の失速を防ぐのも大事ですし、

トップスピードまでの立ち上がりの速さも大事です。

いかにスピード曲線の面積を大きくするか、

これも意識して頂きたいと思うところです。

トップスピードが遅いから後半落ちるということではありませんので。

それは単に最初が速すぎるだけです。

速く走るにはペース配分というものがとても大事になります。

ラストスパートが出来ないという質問や相談をよく見かけますが、

それはそこまでのペースが速すぎるだけです。

正しい理解をして適切な練習を行う。

これが強くなるためには大事です。

2015年1月4日日曜日

ストレッチによって失われた最大トルクはどれくらいで回復するのか


Stretching-induced deficit of maximal isometric torque is restored within 10 minutes.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23615480

 2014 Jan;28(1):147-53


近年、静的ストレッチによって出力が低下するという意見が出る一方で、


出力低下はないという意見もあって議論が多いストレッチですが、

本論文ではストレッチで失われた出力がどれくらいで回復するかを調べています。



長時間のストレッチは現場ではやらないという主張が聞かれますが、

実際に調べてみると一部位につき30秒以上のストレッチをしている人は多いです。

ベストなパフォーマンス発揮を考えるのなら、

議論の多い状態の静的ストレッチは見直すべきでしょう。

もちろん、本論文のようにすぐに戻るという主張もありますので、

そちらを取り入れて時間を掛けてやるのもありでしょう。

自分にとってベストな形でのトレーニングを。

2015年1月2日金曜日

筋肉における遺伝子発現の性差


Skeletal muscle gene expression in response to resistance exercise: sex specific regulation.


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21106073

 2010 Nov 24;11:659  全文読めます

男女においてトレーニング効果が同じかどうなのかという話は多くありますが、

この論文ではレジスタンストレーニング後の遺伝子発現という点を調べています。

結論としては男女差があるので、

トレーニングは負荷その他に男女で異なったアプローチが必要になりますよ、

ということで。

当たり前と言えばそれまでですが、

意外と忘れてしまう点ですので。

発現が少ないのなら多くしないとダメですし、

負荷とケガのリスクなんかを考慮しないといけませんし。

同じ練習だけでは強くなれないので、

しっかりと考える必要がありますね