2016年10月29日土曜日

第29回日本トレーニング科学会大会初日

第29回日本トレーニング科学会大会初日のちょっとした感想、コメント。

シンポジウム2の「芸術性が求められる身体美とトレーニング」では、

バレエ・シンクロ・新体操という三つの競技の経験者の方のお話がありましたが、

練習の話から感覚の話まで、

なるほどという点もあれば、どの競技でも感覚的には同じ面があるんだな、

と思う点もありまして、なかなか面白かったです。

シンクロの芳賀さんの話の中で、

1日中練習をしたりするので、少ない人でも4000kcalとか食べます、

というのは想像を超えていました。

体脂肪は16~18%といったところだそうです。

ポスター発表で気になったものは、

アキレス腱がくっきりとしている形態の人はパフォーマンスが高い、

高強度運動後は筋損傷に伴う浮腫が羽状角を変化させる?

腱膜のstiffnessが高いと筋腱複合体の機能が高まる可能性、

児童期スプリンターの大腰筋、大腿四頭筋、内転筋群の筋横断面積は疾走速度と回転数に有意な相関関係がある、

一過性の350mlビール摂取は動脈壁硬化度を低下させる、

若年女性アスリートでは全日本レベル以上の群の方が自らの月経周期を把握している割合が高い、

芝生と土での疾走を比較すると芝生の方が発揮する力が高くなっている、

といった所でした。

これ以外にも多くの発表があり、

会頭の桜井智野風先生(桐蔭横浜大学)からは

「学部生も発表できる学会なので、先生方、お願いします」

というコメントもありました。

若手の皆様のちょっとした疑問と実験してみようという行動力と発想を見て、

また新たな気付きなど生まれてくると思いますので、

興味のある方は是非とも研究と発表に挑戦してみて頂ければ。

情報交換会でバレエダンサーの志賀育恵さんが、

「数字化するのが好きなんだなと思いました」

というコメントをされていたように、

科学的に考えるというのは定量化、数字化して比較するのが大事になります。

同じことを繰り返した時に再現できるのか、という点からも数字には拘ります。

そうした細かい縛りを徹底している結果、

見えなくなってしまっているものもあると思いますので、

若手の皆様の縛りの無い状態で、

こんなのをやってみましたという気軽な感じでの研究、発表が増えるのは良いことだろうな、

と私も思います。

100m走を10回走ってもらってまったく同じ条件での試行が何回あるか。

気温、風力、風向き、フォーム、疲労etc...

そうしたものを平均して見えなくなるものもありますので、

データではこうですが、見た感じではこんなことも言えそうな気がします、

という意見を持ち、様々な示唆をして頂ければ、と。

2016年10月18日火曜日

感想 「超一流になるのは才能か努力か?」

超一流になるのは才能か努力か? [ K.アンダース・エリクソン ]

原題は

Peak: Secrets from the New Science of Expertise

という本です。

フロリダ州立大学心理学部教授のアンダース・エリクソンによって書かれ、

2015年の10月に英語版が出版され、2016年7月に日本語訳版が出版されています。

さて、この本で書かれている内容としましては、

序章に「絶対音感は生まれつきのものなのか?」

第八章に「生まれながらの天才はいるのか?」

という興味深いタイトルがあり、さらには、

第四章に「能力の差はどうやって生まれるのか?」

第五章に「なぜ経験は役に立たないのか?」

と興味深い項目があります。

当然ながら筆者の思っていること、考えていることが中心に述べられていますので、

それは違うんじゃないの?と思う点もありますが、

なるほどなぁ、という点も多くあります。

例えば記憶力などに関する話としては、

”適切な訓練によって向上する場合がほとんど”

ということが言われています。

これには実験の結果なども示されていますので納得いくものは多く、

練習に対する意識やフィードバックの重要性なども書かれています。

このフィードバックで取り組みの差が見られるが、

それによって伸びる人と伸びない人の差が生まれている、

などというのが考えられると。

帯には「練習を楽しいと感じていてはトッププレーヤーになれない」

というものが書かれていますが、

多くのトッププレーヤーは楽しくない練習をこなしている。

楽しい段階を飛び出して厳しいもの、難しいものに取り組んで、

それを解決しようと繰り返す人が伸びていく、

といった話も。

同じことをやっているように見えても差が生まれるのは、

やはり小さな点の気づきだと思われますが、

こうした差に関しては指導者・教師・コーチの関与などで減らすこともできるので、

指導者選びは大事である、とのこと。

指導者にも得手不得手があるし、指導者にも限界があるので、

習うことをすべて習得したら新たな指導者に習うことでさらに次の限界に挑戦できる。

この限界に挑んで常に次に進んでいくことが成長には大事である、

と筆者は述べています。

また、一万時間の法則というのは響きが良いから一万時間を目指そうとするが、

本質としてはその中身が重要であり、

ただ一万時間をこなせばよいわけではない。

とても当たり前の話ではありますが、

この辺りも意識しないと簡単に忘れてしまう。

その点を補うためには環境が大事である。

一緒に練習する相手などがいることで乗り越えられる。

チームスポーツには同じ練習をさせられるために伸びきれないという問題があるが、

その問題を認識して自分で補うようなことができる選手が成長する。

新人の医者と経験を積んだ医者ではほとんど能力に差がない。

それは新人の方が最新の知識を学んだりしていることや、

新たな知識を積極的に吸収しようとする結果、

急激に成長をして限界に挑戦していない経験を積んだ医者に並んでしまう、

などなど。

天才というのは努力をしているから天才なのだ、という話になりますが、

そうなるとスポーツ関連だと何もしていないのに走るのが速いやつは何なんだ?

と思いますよね。

彼らは身体的な特徴として生まれ持った高い能力がある可能性もありますが、

本人が自覚していない所で、遊びの中などで身体を鍛えてきた可能性などもある、

ということをこの筆者は言いたいのだろうな、

と思います。

なかなか面白い内容でしたので、

お時間ありましたらぜひどうぞ。