2026年8月18日火曜日

メッシの代わりに周りが走っているという話は本当か①

まずは アルゼンチンvsアルジェリアのスタッツ。
FIFAのデータを参照し、CHATGPTを活用して数値化しているので、ちょっとおかしい点があるかもしれないですが、目視である程度確認した結果としては大きなズレはないはずです。
Zone 1: 0-7 km/h (m)
Zone 2: 7-15 km/h (m)
Zone 3: 15-20 km/h (m)
Zone 4: 20-25 km/h (m)
Zone 5: 25+ km/h (m)
これがFIFAの定義する速度帯になっています。
で、アルゼンチン-アルジェリアをした数値が以下の通り。
Total    : -931.8
Zone 1: 3918.9
Zone 2: -2294.9
Zone 3: -2098.7
Zone 4: -794
Zone 5: 337.1

2018年のワールドカップを対象にして分析をした研究がありまして、そちらのabstractを参考にしてみると、

Physical activities according to playing positions, match outcome, and halves during the 2018 Soccer World Cup
ALEXIS UGALDE-RAMÍREZ
Journal of Physical Education and Sport Published online: December 30, 2020
DOI:10.7752/jpes.2020.06490

・本研究の目的は、2018年サッカーワールドカップにおいて、ポジション、試合結果、および前後半の違いに応じて、身体活動(physical activities)を比較すること
・FIFAによって報告されたデータを使用した。試合に少なくとも90分間出場した選手のみを対象
・合計866件の観測データ(observations)について、以下の8種類の身体活動を分析した。
総移動距離(total distance covered)(m/min)
立位(standing)(7 km/h未満)における移動距離(m/min)
歩行(walking)(7–15 km/h)における移動距離(m/min)
ジョギング(jogging)(15–20 km/h)における移動距離(m/min)
ランニング(running)(20–25 km/h)における移動距離(m/min)
高速走(high-speed running)(25 km/h超)における移動距離(m/min)
最大速度(maximal speed)(km/h)
1試合あたりのスプリント回数(quantity of sprints per match)
5つのポジション
センターディフェンダー(CD)
サイドバック/フルバック(FB)
セントラルミッドフィールダー(CM)
ワイドミッドフィールダー(WM)
センターフォワード(CF)
3つの試合結果
勝利(won)
敗戦(lost)
引き分け(drew)
2つのハーフ
前半(first half)
後半(second half)

・勝利したチームのWMは、引き分けたチームや敗戦したチームのWMよりも、高速走(high-speed running、Zone5)においてより長い距離を移動していた
・WMとFBは、前半・後半の両方において25 km/hを超える速度域で、より長い距離を移動
・CDの最大速度は、チームが勝利した場合には、敗戦したチームのCDと比較して低かった
・勝利したチームの選手は、前半・後半の両方において、7 km/h未満の速度域でより長い距離を移動
・7–15 km/hおよび15–20 km/hの強度における移動距離は、すべてのポジションで後半に減少
・チームが引き分けまたは敗戦した場合、選手は後半に25 km/hを超える速度域で移動する距離が少なくなった
・サイドのポジションにいる選手が行う高速走は、チームのパフォーマンスを区別する要因となる可能性がある

この論文だけだとイマイチなので2014年の分析も見てみましょう。
Technical and physical analysis of the 2014 FIFA World Cup Brazil: winners vs. losers
Michael C Rumpf et.al
Sports Med Phys Fitness. 2017 Oct;57(10):1338-1343. doi: 10.23736/S0022-4707.16.06440-9. Epub 2016 May 11
・勝者と敗者が明確に決定した42試合を対象
・勝利したチームが有意に高い値(P<0.05)だったもの→得点数、セットプレーからの得点数、枠内シュート1本あたりの得点、枠内シュート数、シュート正確性(shot accuracy)、受けたイエローカードの数の少なさ
・シュート正確性(shot accuracy)が勝利を予測する最も優れた指標であった
・身体的パフォーマンスに関するパラメータについては、勝利チームと敗戦チームとの間に有意な差は認められなかった
・オープンプレーからの得点効率だけでなく、セットプレーからの得点効率も、ワールドカップ大会で勝利するために重要であることが示された
・このレベルの大会においては、身体的パフォーマンスは、勝者と敗者を区別する要因ではなかった

サッカーはワールドカップなど大きな大会などの結果を受けて、戦術が変化していくスポーツであり、チャンピオンズリーグは毎年のように数値が変化する競技となっています。

The seven phases of match status differentiate the running performance of soccer players in UEFA Champions League
Marek Konefał et.al
Scientific Reports volume 13, Article number: 6675 (2023)
https://doi.org/10.1038/s41598-023-33910-9

2020/21シーズンのUEFAチャンピオンズリーグの分析
・最も長いTDC(総移動距離)を記録したのは、
DW(Drawing to Winning):同点から勝ち
DL(Drawing to Losing):同点から負け
DD(Drawing to Drawing):同点の状態を維持
の局面

・最も多い高強度走行距離は、
DW(Drawing to Winning):同点から勝ち
DL(Drawing to Losing):同点から負け
LL(Losing to Losing):負けている状態を維持
で記録

・最も短い総移動距離および高強度走行距離は、WD(勝利から同点へ)の局面で記録

ただ、失点した時間などの問題もあるので、これだけで話を見ていくのもイマイチですが、とりあえずは走ったら勝てる、点が取れるというものでもなく、逆に走ったら失点を防げるというものでもない、という基本がまずは分かればよいかと思います。で、冒頭のアルゼンチンの話に戻ります。2026年のワールドカップの初戦です。メッシが3点を決めているわけですが、当然ながらチームで最も走行距離が短いのがメッシです。そんなメッシを擁しているアルゼンチンですが、アルジェリアとの走行距離の合計を見ると931.8mしか少なくないという結果に。どちらのチームも16人出ているので、1人で見たら60mくらいしか違いが出ていません。15人と16人という見方をしても、1人あたりでの距離はそこまでの差にならないと思われます。ちなみに合計距離は6808.4mなメッシですが、
Zone 1: 4149.4
Zone 2: 1569.2
Zone 3: 670.2
Zone 4: 357.6
Zone 5: 62.0
といった内訳です。ほとんどが歩いていると言われるわけですが、61%がZone1となっています。90分フルで出場した選手ではリサンドロ・マルティネスが50%ほどですが、これはポジションによるものでしょう。後ろに残る場面が多かったと思われます。そしてほとんどの選手はZone2、歩行(walking)(7–15 km/h)における移動距離、が40%を超えるところにいます。メッシは23%ですね。ただ、メッシはZone4だと割合だけ見ると上位になります。距離だと357mなのでそこまでです。55分から出場のアルバレスが8%で多くなっていますが、35分の出場ながらZone4においてメッシとほぼ同じ距離を走っています。

そしてここでメッシよりも走っていないのがアリスターです。Zone4と5ではメッシよりも圧倒的に少ないです。一方でZone2での走行距離はチームトップとなっているので、時速7~15㎞でずっと動いている、走っているという感じになります。合計は11㎞を超え、Zone2でも5857mほどの距離になっているので、1分間に130mの移動をずっと続けている、ゴールキックやフリーキックなどで時間が止まるのを考えると、動いている時は1分間に200m(1㎞5分、時速12㎞)のペースか、それ以上では動き続けているとった感じになりますかね。恐らくは。ちなみにZone4が264.5mで、Zone5が38.5mですが、スプリント回数は24回(今大会はZone4と5をスプリントとして計上していると思われます)、最高速度は時速27.9㎞でチーム内では下の方、メッシの29.4㎞よりも遅いです。本当にずっと走っているという感じの役割ですね。Zone5を出す加速ち減速の中でZone4が生じると考えても、150m以上は時速20㎞、1㎞3分くらいでのペースで走っていますね。スプリントと呼ばれるものをあまりしない役割ですかね。とはいえ、そこまで速いスピードで走っているわけではないので、ずっと動いているといった感じであり、それはマラソンで3時間を切れるか、くらいのペースで走り続けている速度です。その中でもっと速いペースが出てきたりしているけれども、実際には時速15㎞での走行時間を最も多くできて、そこで余裕がある状態の選手がいることがアルゼンチンの戦術においては大事である、メッシのサポートのためには必要である、というのは見えるかと思います。

そしていくつかの論文、ここ数年のゴール期待値の分析なども合わせてみると、いかにシュートを決められるか、といった能力が重要というのが言えそうだなといった流れなわけですが、ここでシュートを決められるように動く走りというのが大事だと思われますが、そこで必要なのはスプリントよりもずっと動き続けて相手のDFを引きはがしてフリーな状態を作れるかどうか、といったところなのかな、と思います。ついていけそうな速度でジワジワと相手を引きはがすことでマークをズレさせる、といった場面が起こっていると思うわけです。FIFAの分析を見ても、メッシの強みはドリブルで相手を抜けるし、得点につながるパスを出せる、というのがあります。難しいパスを出しているため成功率は低くなるけど、それが通ったら得点、というパスを出していると言えます。で、そのパスを受けるために必要なのはスプリントで相手を引きはがしてフリーになる動き、身長とジャンプ力で相手を上回れる、ミドルシュートの精度と威力、などが出てくるかと思います。フリーでボールを受けてもキック力が無ければ、ペナルティエリアのギリギリ外くらいなら相手にとっては脅威になりにくいですからね。必ずしもゴールに近いところが得点に近づくわけじゃないというのを忘れてはダメだと思います。だからしっかりと筋力を高めようね、筋肉を増やそうね、短い動作で強いシュートを打てるようになろうね、というのも大事でしょう。速く走れなくても点は取れるんですよ。もちろん、走れるし蹴れる、というのが理想ですけど。

とりあえずこの長い文におきまして伝えたいことは、長い距離を走った選手が良いわけでもなく、走れたチームが良いわけでもない、という点が一番です。多く走ってしまうと次の試合への回復が間に合わなくなるので、理想はあまり走らないで勝つ、なんですよね。もしくはどれだけ走っても余裕という圧倒的なフィジカルを作るか、です。ただ、この圧倒的なフィジカルを持ってしても、相手がボールを上手く回すパスサッカーをやられてしまって、とにかく走らされるという展開になったら意味が無いわけで。フィジカルだけではなくて戦術的な面もとても大事ですよ、と。オーストリアとヨルダンのグループリーグもちょっと時間があれば。

2026年2月14日土曜日

第22回乳酸研究会


演題
・はじめに
八田 秀雄先生(東京大学 大学院総合文化研究科)

・骨格筋におけるグリコーゲンと乳酸のエネルギー供給以外の役割
渡邊 大輝 先生(大阪体育大学 大学院スポーツ科学研究科)

・高強度インターバルトレーニングの最新知見 ~トレーニング効果を生みだす最小量について~
山岸 卓樹 先生(独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター)

・簡単・迅速に血中の乳酸濃度測定が可能 ~ラクテート・プロ2のご案内~
アークレイマーケティング㈱

・認知機能にアドバンテージをもたらすトレーニング
塚本 敏人 先生(早稲田大学 スポーツ科学学術院)

・運動後のmRNA発現変動から運動適応を考える
星野 太佑先生(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

・閉会にあたり
コービオンジャパン株式会社

第22回乳酸研究会開催のお知らせ | トップアスリートを支えるスポーツトレーナーのための科学的トレーニング塾

そんなわけで乳酸研究会でした。

渡邊 大輝 先生
・ATP存在下であっても筋グリコーゲンが無いと筋収縮力は低下した
・筋グリコーゲンがないと筋小胞体のカルシウムイオンの放出が低下
・グリコーゲンが安静時の30%以下になると収縮力が低下
Effects of reduced muscle glycogen on excitation–contraction coupling in rat fast-twitch muscle: a glycogen removal study | Journal of Muscle Research and Cell Motility | Springer Nature Link

その昔の乳酸仮説では乳酸が作られるとpHが低下し筋収縮力の低下とされた。
これは15度などの低温環境。人体の体温では否定された。
The effect of intracellular pH on contractile function of intact, single fibres of mouse muscle declines with increasing temperature - PubMed

乳酸が多い状態では筋の出力が向上する
Protective effects of lactic acid on force production in rat skeletal muscle - PubMed

発表者の実験
 →乳酸塩は筋機能にどのような影響を及ぼすか?
  筋内の乳酸塩含有量が増加すると筋収縮力が増加
KAKEN — 研究課題をさがす | 骨格筋の適応を促す細胞内カルシウム配分機構の包括的理解 (KAKENHI-PROJECT-23KK0297)

山岸 卓樹先生
・全力スプリント時には15秒くらいで酸素取り込みが一定になる
・スプリント本数が増えても生理学的な適応は高まらない

塚本 敏人先生
・脳血流を増やすのは頭痛などの原因となる(高山病に見られる症状はこれ)
・運動や外的な投与による乳酸の上昇は脳での利用を高める
・脳は乳酸やケトン体の利用をしやすい
・乳酸が作られる量が減る、脳での利用が減ると認知機能が減っていく
・細切れ運動にした場合、休息後の乳酸値が上がりにくい
  →糖の摂取が大事では?グルコースとフルクトースの混合飲料などの摂取

星野 太佑先生
・エキセントリックな刺激で発現変動した遺伝子はある、コンセントリックではない
・活性酸素が生じないようにすると、エキセントリックな運動でも遺伝子発現は上昇しなかった
 →エキセントリックな刺激による反応には活性酸素ROSが影響を与えていると言えそう


個人的に気になったポイントを挙げておきましたが、その後の懇親会でもいろいろと効かせていただきまして、やはりトレーニングの目的を見失ってはダメだ、ということになります。このプロトコルで実験しているけれども、じゃあそれで意味があるのか、競技パフォーマンスの向上に効果があるのか?といった点を見失ってはダメです。あとは一面的なものを見てもダメである、という点ですね。乳酸を指標とするのも大事だし、心拍などを併用する、RPEなどを併用する、競技パフォーマンスを指標とするのも大事です。目的となることが何か。あくまでパフォーマンスを高くするのが目的であれば、そこが上がっていれば正解です。でも、それが上がっていなければただ苦しいだけのことを課していると分かります。この、パフォーマンスが上がらない苦しいことを見分けるのに科学的な指標は役に立ちますよ、というのが言えるよなぁ、と思った本日でした。

2025年10月10日金曜日

ブラジルのサッカー選手の身体的特徴

A Review of Stature, Body Mass and Maximal Oxygen Uptake Profiles of U17, U20 and First Division Players in Brazilian Soccer

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3761896/
J Sports Sci Med. 2008 Sep 1;7(3):309–319

・ブラジルの選手は身長が低いにもかかわらず、体重は同等である。
・ブラジルではプレースタイルが技術重視であるため、選手の選抜はフィジカル(体格)よりも技術面を重視する傾向があり、これがヨーロッパと異なる点とされている(Drubsky, 2003)

・イングランド、イタリア、スペイン、ドイツなどの主要な欧州リーグでは、身長と体重が選手獲得の重要な指標とされ、ポジションごとのプレースタイルやフィジカルの要求に適合する人材が選ばれている(Bloomfield et al., 2005)

・VO₂Max測定(ml·kg⁻¹·min⁻¹)には限界があり、体重に比例して酸素消費が増えるわけではないため、軽い選手のVO₂Maxは過大評価され、重い選手は過小評価される傾向がある(Wisløff et al., 1998)

・60 ml·kg⁻¹·min⁻¹以上のVO₂Maxがトップレベルでは必要とされるが(Reilly et al., 2000)、一部のトップ選手は無酸素と呼ばれる能力が高い一方で、有酸素と呼ばれる能力が劣るケースもあるので、VO₂Maxだけでなくスピード、アジリティ、パワーなどと総合的に評価すべき(Stølen et al., 2005; Wisløff et al., 1998)

・コパ・アメリカの選手がカバーした平均距離 8638 ± 1158m は、イングランド・プレミアリーグの平均距離 10104 ± 703mよりも有意に少ない(Rienzi et al., 2000)

・ブラジルの試合ではパス数が多く、非直接的なプレースタイルが採用されており、これが有酸素と呼ばれる能力の低さと関係している可能性がある(Barros et al., 1998も同様)

・2001~2004年の55試合において、平均走行距離が 10012 ± 1024m と欧州と同程度であると報告されている(Barros et al., 2007)

・ブラジルでは、17~20歳の間にフィジカル強化の重要な時期があり、これはU-20レベルの選手がU-17やファーストディビジョンの選手よりも強度の高いトレーニングをしているため(Drubsky, 2003)

・トレーニングには、スピード、筋力、有酸素と呼ばれる能力の向上、戦術理解の強化が含まれていますが、その基盤にはU-17以前からの技術力の養成がある

・多くの研究では平均値しか報告されておらず、ピーク値や範囲を示した研究は非常に少ない

・有酸素能力では、一般にミッドフィルダーが最も高いVO₂Maxを持つとされるが、ブラジルの研究では、外側ディフェンダー(サイドバック)が最も高いVO₂Max値を示すことが多い。これはブラジルの戦術(主に4-4-2)により、サイドバックが守備だけでなく攻撃参加も求められるためと考えられる。しかし、Barrosら(1998, 2007)は、ファーストディビジョンのサイドバックとミッドフィルダーで走行距離に有意差がないことを報告している

・欧州の研究では、ミッドフィルダーが他のポジションよりも多くの距離を走行し高強度ランの距離も多いという結果が報告されている(Di Salvo et al., 2007など)


ブラジルの選手の特徴を調査した論文をまとめたものなので、実験のやり方の違いもあるため、測定手法の違いが結果の差に影響している可能性もあるといった注釈もつけられていますが、なるほどなぁという感じのデータです。2008年までのデータのため、近年との違いはあるかもしれませんが、U-20あたりまではヨーロッパへの移籍を考えてフィジカルを高めているといったことも見られるようです。大きな違いにはプレースタイル、ピッチサイズ、環境などもあると指摘している通りで、数値が低いから弱いというわけではないことが分かります。まずは徹底して技術面を向上させ、U-17あたりからトレーニングでフィジカルを向上させていく、最も高くなるのは一番の運動量を誇るSBになりがち、MFはあまり動かないので諸外国と比べるとSBよりも低い傾向にある。こうした点から考えると、SBをやる選手が最も走れる必要があるけれども、それは戦術に適応するためなのか、走れる選手がいるからその戦術を採用するのか、といった疑問が生じます。まぁ能力に応じて求める戦術レベルも異なるとは思いますが、中学生くらいまではもっと技術をベースにしつつ、様々なポジションを経験させて走ったりしながらフィジカルを鍛えて、高校生くらいである程度の成長期が終わって来てからポジションを固定する、というやり方が良いのかと思いました。ただ、U-20くらいで世界への移籍市場が最終段階になると言われたりもするので、高校を卒業する時点ではフィジカルと技術がある程度完成させたいところです。当然ながら、その世代の中でトップクラスであれば良いのであって、年上の世界のトップ選手と同等である必要はありません。この辺りを見失って世界のトップと同等を目指してしまうと、いろんなものが曖昧になってしまう気はするので、まずは成長期に合わせてフィジカルが伸びるようにする、身長が伸びなくなってから本格的にフィジカルを鍛えていく、という流れになりそうです。

U-20のワールドカップの結果を見ると、優勝したチームはその後のA代表も強いし、歴史に名を遺すような選手が複数いたりするので、足りないものはフィジカルや技術だけでなく、その世代を超えて活躍できるスターがいるかどうか、みたいな面もありますし、育成世代はあれもこれもやるよりは、まずは技術をしっかり、戦術を理解、そこから一段階上のプレーをするためにフィジカルを高め、新たな戦術や技術を身につけて、さらにフィジカルを高め、といった段階を踏んでいけると良いのではと思います。

2025年9月22日月曜日

1989年のサッカー日本代表選手の酸素摂取量

 日本人一流サッ カー選手の最大酸素摂取量 ーポジショ ン及び年齢別の比較ー
kiyo_vol24_pp65.pdf
東京大学教養学部体育学紀要(1990)24,65~ 71

日本代表選手を含む国内の一流サッカー選手を対象として最大酸素摂取量を調査したら、10年間で向上が見られなかったというもの。A代表が体重当たりで55.1ml/kg・minというのは低すぎでしょう。この時代のサッカーが弱かったのは明確にフィジカルと言えそうな数値。

なお、ほぼ同じころに国見高校を測定したものを見ると
Physique, Body Composition and Maximum Oxygen Consumption of Selected Soccer Players of Kunimi High School, Nagasaki, Japan

Journal of physiological anthropology 
巻 25, 号 4, p. 291-297, 発行日 2006-07 日本生理人類学会

国見高校の選手の方が上回っています。この頃の国見高校は1987年に選手権を初優勝、1989年は準決勝まで進出、1990年度に2回目、1993年度に3回目の優勝をした頃ということで、高校のトップ選手たちと呼んでも問題無さそうなレベルと考えれば、日本代表は高校レベルのフィジカルしかなかった。後半になったら運動量が落ちるのは当然、といったことが言えるのでしょうか。ただまぁ、最大酸素摂取量だけでは何も言えないので、あくまで参考数値です。海外ではどうなのか、といったのを次は見ていきましょう。

2025年4月26日土曜日

人の骨格筋におけるスプリント運動後のトランスクリプトーム(遺伝子発現プロファイル)

Acute sprint exercise transcriptome in human skeletal muscle
Hakan Claes Rundqvist et.al

introductionより
・スプリント運動の特徴の一つは、特にII型骨格筋線維における急速な筋グリコーゲン分解と大幅なATP分解である。30秒間のスプリントを3回行うと、これらの線維において筋グリコーゲンとATPの含有量は50%以上減少する可能性がある(1)
・もう一つの特徴は、全身のカテコールアミン、成長ホルモン、インスリンの増加に代表される内分泌ストレスである (1–3)
・3つ目の特徴は、運動後に30分以上持続する脚部血流の増加として現れる、運動後の過灌流反応である(4)
・2週間でわずか6回、合計5分未満の全力での30秒間自転車スプリントでも、ミトコンドリア酵素の活性が増加することが示されている(6)
・ミトコンドリア新生に関連するAMPK、p38、PGC-1AのmRNAが上昇することが報告されているが、筋肥大を促進する経路であるmTORの活性化は確認されなかった(7)
・スプリント運動を先に行うことで、レジスタンス運動によって誘導されるAkt/mTORシグナルが抑制されたことが報告されている(10)
・スプリント運動は持久運動と同様に骨格筋の毛細血管新生と血管成長を刺激することが示されているが、この観察結果には異なる見解もある(11, 12)
・全力での自転車スプリントを3回、20分の回復時間を設けて実施した
・健康な20~30歳の男性7人、女性7人でたまに運動をする程度

Discussionより
・遺伝子シグネチャーの解析からは、カルシウムイオン、一酸化窒素、活性酸素種に加えて、成長ホルモン、インスリン、遊離脂肪酸といった運動誘導性の全身因子の活性化も予測された。これらの因子の血中濃度はスプリント中または直後に有意に上昇していた。
・下流の遺伝子発現パターンからは、脂質代謝の活性化が予測され、PGC-1A や PERM1 といった脂質代謝に関わる遺伝子が顕著にアップレギュレートされた
・FZD7(Akt/mTOR経路を正に制御し筋肥大に寄与する)のmRNA発現がスプリント後に増加し、mTOR経路のp70S6kのリン酸化の増加と相関した。FZD7の上流制御因子として働き、成長ホルモンにより制御される可能性のあるWNT9A mRNAの増加は、成長ホルモン濃度の上昇と関連していた
・スプリント運動は萎縮方向の遺伝子もいくつか調節していた。抗萎縮作用を持つ可能性のある新規遺伝子(KLHL40、OTUD1)のmRNA発現も増加していた
・スプリント運動により、PPARGC1A(PGC-1α)の発現は5倍に上昇
・ミトコンドリア転写因子の発現上昇は確認されなかったが、ミトコンドリア輸送体(SLC25A25A、CPT1、UCP3)は上昇
・エストロゲン応答エレメント(ERE)の活性化が予測され、エストロゲン関連受容体γ(ESRRG)およびエストロゲン自体が上流因子として推定された。これは、筋収縮とエストロゲンの両方がEREを活性化するという以前の報告と一致する(46)。
・スプリント運動により、血中遊離脂肪酸(FFA)の濃度が大幅に上昇しており、一部の代謝関連遺伝子の発現上昇にFFAの関与が示唆される
・本研究ではミオスタチンが約50%ダウンレギュレーションされた
・成長ホルモンの上昇、MYOD1やHES1の発現上昇も、ミオスタチンの抑制と関連がある。一方で、ミオスタチンを活性化させる経路も刺激されている。「ミオスタチンのmRNA減少 = 単純な筋肥大」ではないと考えられ、抑制と活性化の両シグナルが混在しており、筋の再構築(リモデリング)プロセスの一部である可能性が高い

自転車でのスプリント運動によって、スプリント運動では負荷が高いのに筋肉が肥大しにくい理由は何なのか、といった点を調べたものです。スプリント運動は”代謝的・構造的な再プログラミングを促す運動様式である”といった点が結論になるのかと思いますが、要は次に向けての準備が行われるのがスプリント運動であり、そこからどうするかが大事になる、といった話になるかと思います。筋肥大を抑制するミオスタチンを大きく抑制しているので、これが継続されていけば、筋肥大はしやすくなっていくので、スプリント運動をしているだけでは増えないけれど、スプリント運動をしなければ筋肥大はしにくくもある、といったことが言えるのかなぁ、と。なので、たまには呼吸が追い込まれるような運動も取り入れてみると、思ったような筋肥大が目指せるのでは、と思います。ただ一方で、肥大を抑制しようともするので、エネルギーの摂取などでのバランス調整も大事でしょう。運動だけでなく食事と睡眠など関連する要素も忘れずに、でしょう。