2017年9月13日水曜日

サッカーのエリート選手におけるスプリントと高い速度でのランニングの調査

High Speed Running and Sprinting Profiles of Elite Soccer Players.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28828087 

J Hum Kinet. 2017 Aug 1;58:169-176. doi: 10.1515/hukin-2017-0086. eCollection 2017 Sep.

Miñano-Espin J, Casáis L, Lago-Peñas C, Gómez-Ruano MÁ.



Rampininiら(2007)年の研究によると、

サッカーの試合における仕事率は対戦相手の活動量に影響されることが分かっている。

走行距離の合計とその中での高負荷の走行距離は対戦相手が良いチームであると多くなる。

Bloomfield(2005)やLagoら(2010)では対戦相手の質が低いと走行距離が減ることを示している。

このことから、チームの質が高くなると選手の走行距離が減るということが考えられる。

しかし、チームの質が走行距離に影響を与えるかという研究は無いので、

2001-2002シーズンと2006-2007シーズンのレアルマドリードのデータを使って調べてみた。

スペインリーグの1~5位をとても強いチーム、6~10位を強いチーム、

11~15位を中間、16~20位を弱いチームとした。

この期間はリーグ戦、カップ戦、チャンピオンズリーグで94勝21分26敗であった。

時速24㎞より速いものをスプリント、時速21.1~24.0kmを高負荷の走行とした。

結果、レアルマドリードの選手はスプリントも高負荷での走行も相手チームと比較して少なかった。

これはスコアが優位な時には運動量が減るということが明らかになっていることからも分かるが、

先制点を取るとボールの保持が高まって運動量が減少し、走行速度も下がる。

一方で、失点すると勝つために得点をしようと運動量は高まる。

しかし、これは強豪であるレアルマドリードにおいては多く見られない。


試合の戦術を調査したJamesら(2002) や Lago and Martin (2007)では、

チームが負けている時の方が勝っている時よりもボール保持が多いことを示している。

勝っている時はポゼッションを減らしてカウンターやダイレクトプレーを行う

負けている時はゲームをコントロールしようとしてボールポゼッションが増えていく。


走りのパフォーマンスに関して、レアルマドリードは対戦相手による変化は見られなかった。

これは自分たちが試合においてパターンをキープしていたことが考えられる。

この辺りは他のチームを調べると結果は異なっているが、

それは戦略や選手の特性、予算、クラブ哲学などが異なるためであろう。

文献調査の中で明確だった点はサイドバックとサイドハーフが高負荷での距離をカバーしていたことである。

この研究では血液などのデータを見ていない。

シーズンによってどのように変化するかといった点も今後の課題として残る。

(FREE)


サッカーにおいては強いチームほど走らなくなるという傾向があるけれども、

レアルマドリードはどんな相手でも走っている。

それは勝つためのパターン、

戦術が明確であるからということが言えそうなデータがあるということですね

選手の能力などによっても変化するが、

常に同じようなパフォーマンスが発揮される能力の高い選手が集まっているからできることかもしれません。

ポゼッションが少ないから負けたという分析を目にすることも多いですが、

実際には勝っていると相手にボールを持たせて、カウンターから二点目を狙いにいく、

となるようですね。

こうした点を知ってトップ選手の試合を見て戦術を考えるというのは大事かもしれません。

2017年9月8日金曜日

USADAによる”こんなサプリメントはダメだと思え”

アメリカのアンチドーピング機関であるUSADAのSupplement 411に載っています、

これを見たら危ないサプリメントだと考えろ、

というものを簡単に。

https://www.usada.org/substances/supplement-411/recognize-risk-when-see-it/

411はアメリカでの電話による案内サービスですね。

URLを”それを見たら危険性を思い出せ”、なんてしているくらいですからね。




1. Avoid supplements that list prohibited substances on their label.
 ※禁止物質がラベルに書いてあるサプリメントは避ける。
   禁止物質は別の呼び方でも表記されていることもあるので、しっかり確認する。
   (メチルヘキサンアミンはジメチルアミン;DMAAなどとも呼ばれる)

2. Avoid products made by any company that sells products containing substances prohibited in sport.
 ※会社が売っている商品に禁止物質が含まれている場合、その会社の商品は避ける。
   使おうと思う商品そのものには禁止物質が入っていなくても、
   誤って混入するリスクが生じるので、その会社の商品を避ける。


3. Avoid muscle-building, weight-loss, sexual enhancement, and “energy” supplements.
 ※筋肉増強、体重減少、精力向上、エネルギーと書かれるサプリメントは避ける。
   これらが書いてあるサプリメントには、
   未承認の物質や、その他の物質が含まれている可能性が高い。

4. Watch out for companies that market products in any of the above categories.
 ※3の商品を販売している会社の商品には注意する
   2と同じく禁止物質が使われていて、混入する恐れがある
 
5. Watch out for ingredients ending in -ol – diol or –stene, or ingredients that contain a lot of numbers.








 ※~olや~diolまたは~steneで単語が終わる、または多くの数字を含む成分には注意する
   一部のSupplement会社は独創的に見せるために曖昧な名前で成分表を列記しているかも。
   
6. Avoid supplements that claim to treat or prevent a disease.
 ※病気を治療するなどと書いているものは避ける




7. Watch out for claims like “newest scientific breakthrough” or statements like “secret formula,” “money back guarantee,” “quick fix,” “used for thousands of years,” or “what the experts don’t want you to know”, or the use of impressive sounding scientific jargon.
 ※最新の科学による発見や秘密の配合、返金保証など強い印象を与えるものは避ける


8. Watch out for claims that a product is an “alternative to prescription medication.”

9. Be very skeptical of “clinical studies” or advertisements with lots of images of doctors, etc.
 ※医者などの画像による公告が多いものは避ける
   サプリメントの有効性を示す研究の多くは貧弱な管理で、科学的では無い形で実施される。
   企業は独自に実施した研究に対して、他の専門家による評価をさせないことがある。
   
10. Watch out for herbals, and the term “all natural.”
 ※全て自然の成分と書いてあるものは注意する

   天然の成分が安全であるとは限らない。
   天然のハーブから合成した成分を作り出すことが傾向として見られる。
   メチルヘキサンアミンを含有する場合、ゼラニウムオイルと書いてあることが多い。

11. Avoid complicated products with tons of ingredients or ingredients that you don’t recognize.
 ※多くの成分が含まれていて複雑になっているものは避ける。
   より多くの成分が含まれると製造中に禁止物質などが混合するリスクが高まる

12. Beware of products that have not been tested by a qualified third-party.

13. Beware of “Proprietary Blends.”
 ※独自の配合に注意する



   独自の配合の場合は合計量だけを示せば良いのでここの成分の量が不明になる。
   高価な成分をごく微量に配合して商品の価格を高くしたりする

14. Beware of products that have a lot of adverse events associated with them.



全文は元のリンク先にありますので、そちらを読んで頂くのが良いと思います。


アスリートにとって禁止物質の摂取というのは大きな問題になりますが、

まずは禁止物質が検出された商品は摂取しない、

禁止物質が検出された商品を製造している会社の商品は摂取しない、

そうした商品を広告・販売しているサイトは情報不足の可能性があるので注意する、

というのが基本ですね。

ここを怠った場合、 もし商品が汚染されていて検査で違反となった際、

注意不足として資格停止期間が長くなってしまうことが先例から考えられます。

2017年9月3日日曜日

毒素の排出と体重コントロールに”デトックス”は効くのか?

Detox diets for toxin elimination and weight management: A critical review of the evidence


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25522674




J Hum Nutr Diet. 2015 Dec;28(6):675-86. doi: 10.1111/jhn.12286. Epub 2014 Dec 18.

Klein AV, Kiat H


デトックスという用語は広まっており多くの人に認知されているが、



そもそもに毒素という言葉の定義が曖昧であり、

科学的なデータはほとんど無い。

臨床的に検査が行われた唯一のものはPCBsに暴露した消防士のデータであり、

対照群は置かれていない。

これと同様の手順で実験をしたサイエントロジーは血圧やコレステロールなどに有意な改善を見出した。

デトックスという言葉、すなわち”毒素”とは何かを考えてみる。

毒素と言うと工場などから排出される有害な物質などが思い浮かべられるだろうが、

そうした人体に明確な悪影響がある物質は厳しく規制されている。

もちろん、日常的に摂取している食品などに有毒な物質が含まれている事実はある。

ヒ素に代表されるような金属などを微量に摂取している。

これらは体内において排除するシステムがある。

もちろん、体内から容易には排除されない物質もあり、

脂肪組織はこれらを溜め込みやすい(鉛は20~30年が半減期)。

近年は食品にこれらの金属を取り除く機能があると考えられ、

ラットや魚でいくつかの研究が行われている。

人体においての研究が行われていないものでは、

これらが人間において効果があるかは不明である。


また、人体において行われている実験の中でも問題となるものが、

食品の摂取による蓄積された物質の移動が生じることである。

量が減ったとされても、

それが脳などに移動しているだけの例が確認されている。

興味深いデータとしてはスナック菓子の製造などにおいて使われるolestraが、

人体からPCBの排除を行うといったものがある。

体重減少に対するデトックスの効果を科学的に検証したものは無い。

そこで食事などの研究から推測すると、

デトックスに効くとされる食事はタンパク質の不足によってストレスを引き起こし、

コルチゾールが高められることで食欲が刺激される。

短期的には我慢によって体重減少が期待できるかもしれないが、

長期的には疑問が残る。



結論;デトックスに効果は無い


長々と多くの論文を引用しながらレビューをしていますが、

abstractで結論を出していました。

デトックスに効果があると企業は言っているけれども”毒素”の定義は曖昧であり、

科学的な説明は無い。

インターネットで言葉は普及しており様々な方法が宣伝されているが、

それらの中には健康を害するものも確認されており、

実際に被害も出ている、と。

明確にデータを出そうとしたのがサイエントロジーというのも、何ともまた...

体重を減らすためにやってる行為がストレスを与えて逆に食欲を高め、

太らせる可能性があるというオチもついていますし、

無理をするのは良くないということですね。


デトックス、効果なし

2017年9月1日金曜日

継続して行うストレッチは筋腱の機械的な性質を変化させるか?

Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review



http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.12957/abstract



Scand J Med Sci Sports. Accepted manuscript online:


Freitas, S. R., Mendes, B., Le Sant, G., Andrade, R. J., Nordez, A. and Milanovic, Z.
Scand J Med Sci Sports. Accepted Author Manuscript. doi:10.1111/sms.12957


レジスタンストレーニングは筋の肥大や筋束の長さ、羽状角の変化などを引き起こして、


筋腱複合体の性質を変化させることは知られている。



これらの変化はケガの発生などにも影響を与えることが知られているが、


ストレッチによる変化の研究はほとんどない。


継続してストレッチを実施することで関節可動域が広くなることは知られている。

これらの変化に関しては二つの考えが提案されており、

一つは筋腱が伸ばされることによる耐性がつくこと、

もう一つは筋の長さや弾性が弱まるといった機能的な変化である。

2~8週間の短期間で実施された研究結果を見ると、

その結果は異なっている。

そこにはストレッチのやり方や介入期間、強度といったことが影響している。

2016年8月までに出された論文からそうしたストレッチの研究を分析したレビュー。

26の論文が抽出され、平均して5.1週間の介入が行われている(3~8週間の範囲)。

1週間あたり1165秒が平均して行われた(270~3150秒の範囲)。

結果からして、

この短期間の介入では筋腱複合体の機能的な変化は起こらないと推測される。

レジスタンストレーニングなどを行った際にも初期は神経系の適応が起こることと同様である。

論文の多くで強度についての設定が不明確になっている。

この強度設定が高くてrestが短いなどの場合、変化は観測されるかもしれない。






また、最近の研究では筋膜と末梢神経が関節可動域の制限に影響を与えると指摘している。

Non-Muscular Structures Can Limit the Maximal Joint Range of Motion during Stretching.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28255938

さらに股関節と頭の位置は足首の関節可動域に影響を与えるというものや、

Effects of hip and head position on ankle range of motion, ankle passive torque, and passive gastrocnemius tension.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25676048

坐骨神経は足首や膝の位置によって影響を受ける
Non-invasive assessment of sciatic nerve stiffness during human ankle motion using ultrasound shear wave elastography.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26725218

生体において腓腹筋の深部筋膜と骨盤の動きの関連
In vivo relationship between pelvis motion and deep fascia displacement of the medial gastrocnemius: anatomical and functional implications.

などなど、筋膜や神経での多くの新しい研究が出てきており、

今後大きく見直されていくことが考えられる。

また、ストレッチにおける評価の定量化が難しいことから結果にバラつきがあるが、

市橋らの研究ではせん断波エラストグラフィを用いて4週間の静的ストレッチによってハムストリングスの柔軟性の改善を報告している
The effects of a 4-week static stretching programme on the individual muscles comprising the hamstrings.
http://jspt.japanpt.or.jp/eibun/2017/1703_1.html
(リンク先は理学療法士協会のもので日本語の解説がありますので)

ように、様々な手法が登場している。

今回のレビューにおいては6~8週間でのストレッチによって、

筋腱の構造的な変化は観察されず、

感覚の変化が主に起こっていると言える。

しかし、研究データが少ないことから、

末梢神経や中枢神経が影響をしている可能性があると思われるが、

どうしてこのような感覚の変化が起こっているのかも不明確なままである。





ストレッチによって身体が柔らかくなると言われていますが、

2か月ほど毎日のように実施した結果として起こる変化は、

筋肉や腱が伸びるようになったのではなく身体が痛みに耐えられるようになることだ、

と現状では言えるようですね。

タイトルの答えつぃては変化させない、となります。

ただ、筋膜や神経など様々な要素も影響をしていると考えられるので、

今後の研究に期待、と。

むしろストレッチの根本的な所に関する研究って少ないんだなという印象すら受けました。

そんなわけで、

トレーニングしても筋肉が簡単に肥大しないのにストレッチで筋肉や腱の構造がそんな簡単に変わってたまるか、

というメッセージを受け取りました。

ただ、途中に挙げた例のように、ハムストリングスの弾性変化はケガの予防になりますので、

ストレッチはタイミングを考えて適度に実施するのは大事かと思います。