2020年12月11日金曜日

魚油サプリメント(ω-3)の摂取は若い男性の精巣と精子の増強に効果あり

Associations of Fish Oil Supplement Use With Testicular Function in Young Men
Tina Kold Jensen  JAMA Netw Open. 2020;3(1):e1919462. 

ただし、摂取した量の調査が行われていないので、どれくらいの量で効果があるかの明確な点は不明など、タイトルの割には中身は??という論文ではあります。デンマークの人って魚をあんまり食べないのですかね。海に囲まれているのでたくさん食べていそうな気がするところですが(2019年の未発表データによると1日26g程度とかなり低めだそうです)。精巣が少し大きくなり精液の量が増えテストステロンも高まるということなので、取りあえず魚を食べない生活になっているのならば、ω-3(オメガ3)サプリメントを摂取しておくのは良さそうです。先行研究ではクルミを75g/日の摂取か、クルミ、アーモンド、ヘーゼルナッツなどのミックスを60g/日食べることで同様の効果が出ているとか。そして飽和脂肪酸の摂取が多いと精液の量が減り濃度も薄くなる、と。

2020年12月7日月曜日

男性と女性ではエネルギー制限による反応が異なる

A hypoenergetic diet with decreased protein intake does not reduce lean body mass in trained females

  European Journal of Applied Physiology (2020) 

https://link.springer.com/article/10.1007/s00421-020-04555-7

トレーニングをしている女性に高タンパク質食を摂取してもらうことで、除脂肪体重が男性と同じように増えつつ体重(脂肪)を減らせるかという研究。2週間かけて必要な食事量を推計し、そこから40%ほどのエネルギー制限をする一方でタンパク質の摂取割合を高めることで除脂肪体重はどのように変化するか。男性と女性では被験者の体脂肪率や日常的に摂取しているタンパク質量が異なるといった条件の差があるためなのか、女性の場合はタンパク質の摂取が男性に比べると除脂肪体重に与える影響が大きくない。実験では制限したカロリーのうち35%をタンパク質に15%を脂質にした群を高タンパク質(体重kg当たり1.7g)とし、タンパク質15%で脂質35%をコントロール群(1日に体重kg当たり0.9~1.6g)として、絶対的な摂取量は高タンパク質群では維持されている。

 

この論文から言えそうなことは、女性と男性の食事を同様に考えてはいけなさそう、ということ。そして被験者の女性の元々の体組成や生理による問題なども影響しているかもしれないので、短期的な研究だけで結論をつけるのは難しいということ。ただやはり、カロリーを制限してタンパク質も少なくすると明らかに除脂肪体重は減っているので、運動に応じた女性のタンパク質の摂取量は今後も注目をし続ける必要がありそうです。

2020年12月6日日曜日

ビタミンCとEの摂取は筋肥大に効果ないどころか

筋肥大にビタミンCやEは悪影響

 以上、結論でした。長々と読むのが面倒な場合、↑が全てですので。お時間ありましたら以下へどうぞ。

 

The Effects of Strength Training Combined with Vitamin C and E Supplementation on Skeletal Muscle Mass and Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis

Maurilio T. Dutra Journal of Sports Medicine / 2020

https://www.hindawi.com/journals/jsm/2020/3505209/ 

運動により生じる活性酸素種(ROS)は身体へとダメージを与えると考えられることから、抗酸化サプリメントの摂取をする人が多く、ビタミンCとEの消費に関しての論文は多い。

しかし近年はROSがミトコンドリアの生合成、骨格筋肥大などの刺激を有することが分かってきており、その摂取に関しては議論が多い。

Role of Redox Signaling and Inflammation in Skeletal Muscle Adaptations to Training

https://www.mdpi.com/2076-3921/5/4/48

 

若年者に関しては効果が無いか弱めるという論文も出ている。

Vitamin C and E supplementation alters protein signalling after a strength training session, but not muscle growth during 10 weeks of training

https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1113/jphysiol.2014.279950

G. Paulsen The Journal of Physiology October 2014

この論文からはプラセボ群の方が筋力向上が確認されている。理由としては活性酸素の生成を抑制してしまうことであろうと推測されており、これはかなり強固な理由であると現状推測できると思われます。
 

Effect of strength training combined with antioxidant supplementation on muscular performance

https://cdnsciencepub.com/doi/10.1139/apnm-2017-0866

Maurilio T. Dutra Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism 25 June 2018

No effect of antioxidant supplementation on muscle performance and blood redox status adaptations to eccentric training

https://academic.oup.com/ajcn/article/93/6/1373/4597849

Anastasios A Theodorou The American Journal of Clinical Nutrition2011

Chronic Eccentric Exercise and Antioxidant Supplementation: Effects on Lipid Profile and Insulin Sensitivity

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28912655/

Christina Yfanti J Sports Sci Med . 2017

 

FREEの論文が多いので各自読んで頂ければと思いますが、そもそもに過剰な活性酸素が生成されるという論文は確認されないので、抗酸化と呼ばれるものが効果的であると言えるわけではない。高齢者は活性酸素が多いから筋肉の萎縮予防に効果的とされているが、これも使用しなかった人の方がより筋肥大したことが確認されている。といったことが言えそうです。抗酸化と呼ばれるものによって筋肉の損傷を抑制できたとして、そこでは筋肥大のために活性化させる要素も消えてしまう。p70s6kなどの経路を抑制してしまう結果から。ですので、ビタミンCやEが豊富に含まれるものを摂取すると筋肉は増えにくくなって当たり前ということです。残念ながら筋肉を増やしたい人にとっては効率が最も良い食事というのは、1食においてはビタミンなどのバランスが崩れているものであることには間違いなさそうです。というのを10年近くずっと指摘していますしボヤいているんですけど、なかなか皆様ビタミンが大好きで。尿中から出ていくから大丈夫とかいう話じゃないんですよ。摂り過ぎがそもそもにダメ、ということです。なお、ビタミンの過剰摂取をやめたことで筋肥大をしっかりとしたアスリート、ビルダーの方も見てきましたので。是非とも無駄なビタミン摂取はおやめいただければと思います。ちなみに1日にしてみかん3個くらいが一般の人の摂取目安ですので。筋肥大にビタミンCやEは悪影響

2020年12月2日水曜日

タンパク質は分解もされるんです

Assessing the Role of Muscle Protein Breakdown in Response to Nutrition and Exercise in Humans

Kevin D. Tipton Sports Med. 2018; 48(Suppl 1): 53–64

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5790854/


そのうち更新します。。。

2020年11月29日日曜日

情報を探しやすいこの時代におけるトレーニング情報の収集に関して

長い。タイトルが長い。

そんなわけで、長いタイトルの案件に関して思うわけです。

「1+2=4なんですよ」 という発信をすると、こいつバカだなって思う人がほとんどなわけですが、 「なんとですね、1+2を4にする方法を今日は教えちゃいます」 と発信してる人を見ると、おぉ、この人は凄いぞ!!となるのは何でなのか。

 こんなTweetをしたこともありますが、情報収集って難しいですよね。検索しやすくなった結果、Youtubeなりブログなりでみんな必死に情報を発信しているので、それを受け取る側のリテラシーがとても重要になってきました。トレーニングに関しても様々な情報があり、どれが効果的かを見抜くのもなかなか難しいと思います。少なくとも相手と同じ知識が無いと判断できないという具合ですので。まぁそんな感じで多くの情報があるわけですが、そうしたのを見ている中学生や高校生なんかを眺めていると思うわけです。

その情報は今のあなたに本当に必要だと思ってる?

これです。例えば速く走れるようになりたいと思って情報を探し始めると、様々な情報があり、うわぁ、この選手はこんなことをやって速くなってるのか、わぁ、あの選手はあれをやって以下略。いろんな人が速くなるための情報を発信していますが、それって本当に今のあなたに必要ですか?トップ選手と同じ練習をやって強くなれますか?真似をするにしてもその工夫の仕方で同じような効果が出ると思いますか?はい。この点をもっと考えましょう。情報を発信している側がレベル20の人を念頭にしているのに対して、あなたがレベル12だったら無理な場合が多いです。自分のレベルに応じたことをやらないと悪影響が出る可能性は高いので、まずは自分の今の状態をしっかりと把握して、自分に必要なものが何かを考えましょう、という点をもっと意識してもらえたら、と思うわけです。200mを走ると効果的です、と言っていてもそれができる身体じゃなかったら故障のリスクが高くなる、効果が著しく減る可能性があるわけです。

自分の状態をしっかりと把握して、そこから必要なものを探す

 これができていないから伸びないというパターンは多いと思います。伸びない理由は自分の把握ができていないから、という事実をもう少し見つめてみませんか、ということです。まぁもちろん効果の出にくい練習をしていたり、というパターンもあるでしょうが、そういう時に斬新な練習だと思ったり、これは効果が出そうという練習を見てキラキラと目を輝かせることも多いかと思いますが、それは効果が無いからやめた方がいいのになぁ、という案件もあるわけです。その理由として過去にやって失敗したからというわけでして、

我々が2000年前に通過した場所だッッッ

という某マンガのコメントみたいなことが各所で繰り返されることになるわけです。多くの経験を積んだ指導者は失敗した経験から学んでいるので(学ばない人も一定数いますけどね)、それをそのタイミングでやるのはダメなんだよなぁ、それは効果的だけどまだレベル15じゃ効果は無いよなぁ、と理解してやらせていない場合もあります。ですので、自分が思う効果的っぽい練習は、本当に今の自分に必要な事なのかを考えるのがまずはスタート地点です。効果的な練習をやれば誰もが伸びるということがもしあったら、小学生や幼稚園児でも世界最高峰のアスリートになってしまいますので。成長期や自分の運動経験、技術レベルなど総合的に判断して、今は何をやる段階なのかを確認してから情報を探しにいきましょう。情報化社会になった今、失敗例が圧倒的に増えてきている感じはありますので。

ここのところ見てきた例としては、Aという技術を教えられる人がいて、Aという技術が足りてない選手がその人に指導をされて一気に伸びたけど、Aができるようになったらそれ以上の指導をできないので頭打ちになった、頭打ちになったけど成功したAをとにかく磨き続けることにすがってしまいむしろ悪化してきた、というものがあります。遠くから温かく見守っているわけですが、まぁもう次の指導者に習わないと無理だよなという段階です。ただ、選手にその自覚が無さそうなのでこのまま伸びずに終わってしまうでしょう。

日本人はこの辺りの指導者を変えるという感覚が意外と無いので、指導者が1~10まで全部教えられると思ってしまう。そして高校生や大学生、社会人で伸び悩むパターンとしてよくあるのが、それまでの練習などの背景を自分で把握していないために、何ができて何ができていないのかを見誤って、とにかく練習をやってみて故障するというものです。他の選手はみんなできているから、と思ってしまいますが、そうした練習をやってきてなければできません。その時点でやるべきことは少し変わってくるはずですが、恥ずかしいからみんなと同じことをやろうとする。それができるようになるのに長い時間がかかってるかもしれないのに、すぐに身につくだろうと勝手に思ったりしてしまう。その結果、故障してしまい競技生活を棒に振る。あとは

トレーニングによって得られる結果は細かい要素が複雑に絡まっている

この現実を忘れがちです。やればみんな同じ効果が出るわけではないです。人それぞれです。ドラクエで言えば勇者と戦士で戦闘後に得られる経験値が違うという話です。ポケモンで言えば、、、ということです。自分に必要ないことをどれだけやっても満足感が高まるだけで、競技力の向上は期待できません。でも、やった感は高まるので結果が出ないのは指導が悪い、練習が悪いなどと思ってしまう。自分の状態に応じて練習を変えることをしっかりしていれば、というだけの話になるはずなんですけどね。

そんなわけで、情報収集がとてもしやすいこんな世の中において、一番大事なことは自分の状態をちゃんと把握すること、そして必要なことを考えること、これです。 考えるのは難しいですが、様々なパターンを考えるだけでも違ってきます。それによって情報を正しく取捨選択できる確率は上がると思いますので。なお、たまにトレーニング相談という名目で効果的な練習を教えてくださいなんていうのが来ますが、

お前の今の状態やこれまでやってきたことを知らんから何も言えん!!

と返しているのはこういうことからです。少なくとも30分~1時間くらい細かく聞き取り調査をしないと、やるべきことなんて見えないですし、怪我をした過去があったりしたらこの練習は避けよう、といったことにもなりますし。ですので、チームの練習を考えるなどという場合、個々人に適した練習負荷を考えたりするため、手間と時間が想像以上に必要となります。膨大な労力です。そして練習をする際に問題になるのが、練習の当日に想定した通りの状態で選手が来ないということ。ここで再び設定を調整する必要がでてきます。

指導者って大変ですわ

ということですね。はい。だからチーム指導を受ける場合はややお高めのお値段となっている点をご了承下さい、という広告宣伝をしつつ、情報収集は難しいしまずは自分の状態をちゃんと考えるところから始めてね、という当たり前のことを再度確認してもらえれば、と思うところです。

2020年11月8日日曜日

サッカーと陸上競技で走り方が違う?

 サッカーの指導者に対して陸上競技の指導者がそれでは速く走れないのでは、という指摘をしているのを眺め、サッカーの方が「陸上競技とサッカーでは競技特性が違うから」という返しをしておりまして、まぁそれはそうなんですけど、でも速く走るという技術に関してはどちらでも同じです。ですので、この案件において私がそれは違うのではと感じたのは陸上競技の指導者の方です。多分、その指導では速く走れないです。むしろサッカーの人の身体の使い方、陸上競技で言われるところの脚が流れるという動作の方が大事です。この点、20年ちょっと走りの指導をしてきましたがどうやっても理解が広まらないわけです。まぁ情報の発信力が弱いので当たり前ですが。で、陸上競技においては後ろに脚が残る、流れるという動作が良くないと言われ続けています。しかし、後ろに残したものを前に素早く移動させることによって前方への大きな力が生まれるわけで、適度に残すのは大事です。これが分からない人は、地面に力を加えることで走れているという認識の人が多いです。どれだけ地面に力を加えても前には進みません。地面に力を加えるという動作は、反対の脚を前へと素早く送り出すために大事な動作なので。

これと似たような現象が投球動作においても起こっています。小学生や中学生の投手が速い球を投げようとして腕を速く振ろうとしていますが、最後だけ速くしても速い球にはならないわけです。後ろにある物体を前へといかに速く移動させるか、という点が重要なわけで。この点を理解できると速い球を投げようとしてただ腕を速く振るのではダメだというのが分かります。

そんなわけで サッカーと陸上競技の走りにおいては違いは特に無いです。速く走るという点において必要な動作は同じです。ただ、競技特性という点に関しては確かにあります。速く走りたいのがどういう時なのか、という理解をして始まることがあるわけです。相手が求めている速く走りたいというのがサイドバックで速くトップスピードで駆け上がりたいのか、中盤の選手で反応を良く走り出したいのか、GKで一瞬の動きで走りジャンプしたいのか。この点における違いは少しありますが、基本は変わらないです。トップスピードでサイドバックの選手が駆け上がる時に10mや20mのダッシュの意識でやると確かに少し遅いですし、無駄にエネルギーを使ってしまうので試合中の持久力の低下につながります。ですので、どのような速く走る要素を高めたいのかという共通認識を持ってから指導は始まります。相手が提示している動画を見て「それは~」というのは簡単ですが、相手がどういう意図をもってそれをやってるのかを確認してこそ、共通の理解が生まれるので話がスタートできます。陸上競技においても速く走るという言葉だけで共通理解にはならないですからね。走幅跳の選手とマラソンの選手では言うこと、やってることはかなり違いますから。短距離選手の動きを真似てるマラソン選手なんてほとんどいないわけですから、速く走るというのがいかに曖昧とした言葉なのか、ということです。

2020年11月4日水曜日

サッカー選手の持久力の大前提の話

 サッカー選手の持久力向上に関するご相談を頂いた時に、基本としてまず理解してもらっている話があります。それは90分動き続けられる能力は、90分の中でのペース配分によるものが大きく影響するということです。スプリント回数が多かったら途中で確実に動けなくなります。ずっと走り続けるのは無理です。この点が忘れられがちですので、まずはこの点を意識してもらいます。どれだけトレーニングを積んだところで、当然ながら限界というのはあるわけでして。無尽蔵のスタミナという言葉を試合中にずっと動ける能力だと思うのはどうかな、と。よく実況で、「この時間でもまだ動けるスタミナ」という表現が使われますが、これもその時間までほとんど動いていなかったら誰でも可能になります。時間が経つから疲れるのではなく、その時間分だけ運動をしているからエネルギー切れになっていき疲れるわけです。もちろん、何もしないで立っているだけでもエネルギーは使いますし疲れはしますが。ちなみにJリーグにおいては時速24㎞以上になるとスプリントとして記録されるわけですが、これは100mなら15秒で走るペースです。陸上競技ですとスプリントかと言われると、微妙な速度です。ちなみに1試合の90分を不動産表示での徒歩1分80mで考えると7.2㎞歩くことになります。試合中の走行距離が少ないという例によく出るメッシの距離がおよそ7~8km。つまりメッシはずっと歩いている。何なら歩きすらしない。それにより必要な時にしっかりとスプリントができています。もしこれが全力スプリントが増え、試合中にも走る距離が増えた場合、途中でガス欠になる可能性はかなりあると思われます。他の選手がカバーしてくれるから走らないで済んでいると指摘されたりもしていますが、そうした戦術が用いられているチームですので問題は無いのでしょう。なお、ボールは疲れないということも言われるわけですが、戦略としてボールを取れそうなところでパスを回して相手を走らせてエネルギーを減らせるのはかなり効果的な戦略だと思われます。サイドバックの選手を50m以上の全力スプリントを繰り返させれば、本数を重ねるうちに動きは悪くなるでしょう。スプリントの間のインターバルを短くして、とにかく一度にダッシュさせる距離を長くさせれば、よりダメージを与えられます。こうした試合中にエネルギーが減っていくという観点を忘れがちな人が多い気がします。チーム戦術もあるとは思いますが、選手個人のエネルギー量の限界はあり、持久力はどれだけスプリントをし、走り回ったかによって大きく影響されるということを忘れずにいただければ。なお、ちょっと遅めの1㎞6分ペースくらいでも90分止まらず走りまわっていれば15㎞。これであればそこまでキツくは無いと感じるくらいだと思いますので、単純に走行距離が多ければ良いかとなると、これまた話は別物になります。ですので、効果的なスプリントというのを指標として考えるのが大事だと思います。なお、スプリントにおいて、その他の走りにおいてフォームが悪くて無駄にエネルギーを消費していることもしばしば確認されます。これを改良することで持久力が向上するというのも見られます。地面をとにかく踏み込む走りをしてしまっている人が多いので、この点に関しては走りの指導を受けるのは大事かと思います。

 

繰り返しですが、どれだけ速い速度で多く走っているか、ダッシュを何本やったかも試合中の持久力の限界に大きく寄与します。食事とトレーニング、試合途中での補給により向上できる面はありますが、90分間でスプリントを繰り返し続ける限界はあります。この点をまずは理解してからトレーニングでのさらなる能力向上を考えて頂ければと思います。なお、多くのチームが90分以上の練習時間をかけているので、ほとんどの練習が持久面にフォーカスすることになっていると言えるかと思います。当たられても倒れない身体を作りたいと考えるのであれば、別でそれだけに専念した方が効果的になります。毎日練習してエネルギーが不足している中で筋肉を増やすトレーニングは効果的ではありませんので。もっとサイクルを意識して、練習時間を少なくして身体作りをやる日があっても、と思います。

2020年7月1日水曜日

インターバルトレーニングはスピードを高めるのか?

noteの方でこんな記事を書きまして、
有料ではございますがそこそこ買っていただきまして。

持久的な能力を向上させるトレーニングを考える
https://note.com/jshira/n/nba54879bf607

質問などはコメント欄に頂ければと思う所です。
具体的なトレーニング例などは特に書いていませんが、それに関しては別途料金をご相談の上となります。


さて、そんな記事の中でも取り上げました論文。

Brief intense interval exercise activates AMPK and p38 MAPK signaling and increases the expression of PGC-1α in human skeletal muscle


30秒の全力自転車運動を4set実施というもの。高負荷なトレーニングなのに筋肥大を刺激するような遺伝子発現、シグナル伝達はほとんど見られないことから、こうしたインターバルトレーニングは持久系トレーニングである、というのが最後の方に書いてあります。この点をもっと深く考えるべきだろうと思うわけです。

インターバルトレーニングでスピードを出すことにより速く走れるようになる

これは多くのランナーの皆様が実感しているかと思いますが、何が起こって速く走れるようになっているのか。実感として多いのはスピードが上がるなのだろうと思いますが、この高負荷なインターバルトレーニングにおいては筋肉の増加は期待できません。短距離選手であればスピードアップには筋肉が必要と思う人が多いですが、一方で長距離選手はスピードアップに筋肉を必要という考えを持っている人が多くないと思われます。じゃあ筋肉が増えないのにスピードアップって何で?という疑問に行き着くかと思います。この点は難しい話ではないのに意外と考えている人が少ない気がします。

100mを速いペースで走れる距離が長くなる

というのがスピードアップにつながるわけです。100mを15秒が限界の選手が60秒で400mを走れるかとなると、まぁ無理と答える人が圧倒的多数になると思います。スピードに余裕が無いから途中で維持の限界が来るためですが、この維持できる距離を長くするのがインターバルトレーニングの本質になると思います。100mが15秒の選手が200mを34秒かかっていたのが、持久力が向上して100m15秒ペースをより長く維持できた結果、150m まで同じ速度で走れたので、という具合です。400mであれば、70秒かかっていたのが66秒で走れるようになりました、というのも同じように100mの速度をより長く維持できるようになったからです。

100m15秒→15秒
200m32秒→31秒
300m50秒→48秒
400m70秒→66秒

こんな感じですね。最大速度が高まるというのも神経系の刺激によって生じるとは思いますが、速い速度をより維持できるようになったから、持久力が高まったから、というのがスピードアップの要因としてあることを忘れていませんか、と。ですので、400mなど短い距離をより速く走ろうという話になってくると、筋肉を増やさないとダメだとなります。最高速度を高めることで8~9割の速度に余裕を出すのは大事です。当然ながら、心理的に大事とかいう話では無いですので。トップスピード、最大速度が速いと余裕があるから心理的に楽になるという理屈でいくと、世界記録を持っているU.BOLTが世界で最も速度に余裕がある選手となりますが、残念ながら400m以上の距離で速く走ることはあまり期待できません。やはり速い速度をどれだけ維持できるか、という話になりますので。
なお、

800mランナーとjog
https://note.com/jshira/n/n4ffadd93663c


800mのみならず長距離選手の皆様におかれましては、jogと一言で言いますが、そのペースによってはトレーニング効果は大きく変わりまして、筋肉を増やしたりすることもできるんですよ、という話はちょっとお高いお値段ですが書いてありますので。長距離を速く走れるようになりたければ、筋肉を増やす事や回復を促すことも考えて、ゆったりとしたペースで走ることも大事ですからね、と。インターバルばかり毎日やってたら、むしろ弱くなるし故障のリスクが高まるだけになってしまいますから、という具合です。

そんなわけで、スピードと簡単に言ってしまっていると思いますが、その中身をもっと考えてみると良いと思います。

2020年6月26日金曜日

30分で2時間のトレーニング効果って?

巷で話題となるあんなトレーニングやこんなトレーニングがあるわけですけれども、この忙しい時代ですので短時間でトレーニング効果が高いということを売り文句にしている商品が多いなぁと思う所です。そんな中で気になったのが、

30分で2時間のトレーニング効果!!

という謳い文句です。これって何をもってして30分で2時間分のトレーニング効果となっているのかなぁ、というのが気になりまして。で、簡単に調べてみましたところ、多分こういうことだな、と。


通常のトレーニングを30分しました。その60分後に血液などの採取をしましたという実験がよく用いられるわけですが、それをグラフ化するとこんな感じになります。
 












続きまして120分運動をし、60分後の血液を見たものをグラフ化するとこんな感じです。
 

まぁ実際には運動直後、1時間後、3時間後といった採血をしますが、分かりやすくするために30分の運動と120分の運動後に採血というグラフにします。さて、この2つのグラフですが、確かに運動後60分での数値が50となっているので、30分の運動が120分の運動と同様に50まで高まったから同じ効果だ!!と言える気がします。

本当にそう言えますか?? 

グラフを見て疑問に思う点があると思います。

運動中の変化って起きないの?

という点です。 実験デザインにおいて、負荷を掛けて走ったりしている最中に血液を採取するのは難しいです。10数年前に私はとある大学病院で予備実験の被験者をやりまして、大腿部にチューブを差し込み血液を採取されながら、心拍数や酸素摂取量の変動をモニターで見ながらずっと自転車運動をするという経験をしたことがあります。運動中の心拍出量や血圧を眺め、1桁ってすごいなぁ、心臓すごいわ、と思いつつ迷走神経反射でダウンしました。懐かしい。その際の血液のデータなども後日眺めましたが、当然ながら運動開始時から様々な反応が生じて代謝物質が作られています。ですので、実際の身体で起きている反応として近いのはこんなグラフになると思います。
 

運動開始から青いトレーニングが数値を上回り、30分やった後の1時間後の測定で50という最大値に達します。この最大値は120分をやった後の1時間後の測定と同じ数値なので、最大値だけで比較したら30分と120分が同じ効果となるかもしれません。ただ、オレンジの線も下回っていますが90分の間にずっと体内で何かしらの反応が生じており、トレーニング効果を生んでいると考えられます。適当なグラフですが、合計値で比較しますと青の線の30分運動は140、オレンジの線の120分運動は190となっています。最大値だけで見たら確かに同じ負荷、効果と言えるかもしれませんが、実際には継続時間が長い方がより効果が高いということもあると思います。もちろん、長すぎると効果が下がるトレーニングなどもありますので一概に比較するのは難しいですが、多くの場合で30分の短時間トレーニングの最大値と120分のトレーニングの最大値しか比較してない場合が多そうだな、と思ったのでこんな記事を書きました。昨今話題の高負荷なトレーニングが必ずしも効果が高いわけでは無い、時間が掛かる中で効果が上回っていく練習もあるから、という点をご理解頂ければ。

2020年5月1日金曜日

一酸化炭素の摂取と持久的トレーニングの効果

A New Method to Improve Running Economy and Maximal Aerobic Power in Athletes: Endurance Training With Periodic Carbon Monoxide Inhalation.

. 2019; 10: 701.
Published online 2019 Jun 6. doi: 10.3389/fphys.2019.00701

Jun Wang, Yunhui Ji, Li Zhou, Yang Xiang, Ilkka Heinonen, and Peng Zhang

高地トレーニングでは酸素が薄い環境により腎臓からエリスロポエチン(EPO)が分泌され、これが持久的なパフォーマンスを向上させる。一酸化炭素はヘモグロビンにおいて酸素よりも結合が強いため、これを体内に取り入れることは血中の酸素を減らし低酸素環境を作り出せる。適切な一酸化炭素の摂取は高地トレーニングと同様の反応を引き起こせると考えられる。
 
被験者は12人の喫煙をしていない低地で生活をしている大学のサッカー選手。10年以上のトレーニング経験を有する。
 
被験者は2分間、体重当たり1mL/kgを摂取、4週間の実験を実施

結果、結論
1回の一酸化炭素の摂取によりEPOの数値は40%ほど上昇、4時間後にピークを迎えた。
tHb (3.7%), plasma (6.8%), and whole blood volume (6.2%), VO2max (2.7%), and running economy (4%)と数値が向上した。

一酸化炭素は強く結びつくので管理された環境下以外での実施は死ぬ可能性が非常に高いからな!!
 
 倫理的な問題も考えられるので、今後も研究が必要である。
 
FREE
 
細かい内容は無料で読める論文ですので、google翻訳にでも放り込んで読まれると良いと思います。下手に高地トレーニングするよりも圧倒的な効果が見込める可能性があるし、禁止物質ではないので検査でも問題がない。最高のパフォーマンスアップのアイテムですね。吸い過ぎることで死ぬ可能性が圧倒的に高いですけれど。

2020年4月26日日曜日

走る時に市販のマスクを着用することでパフォーマンスは向上する?

こんなご時世でしてマスクをして走ることでトレーニング効果が高まるという理論が再燃しておりますので、論文からの考察を。これ以外にもたくさんありますので、興味がある方は他にも当たって頂ければ。

修士論文でまず一つ。
サージカルフェイスマスクを使用した走行が呼吸機能に及ぼす影響
https://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/8377.pdf

”本研究の結果の 60 および 80% の速度のマスクありとマスクなしの結果を比較すると、本実験の結果は両速度とも酸素摂取量および心拍数に変化はみられなかったが、マスクを使用すると換気量と呼吸数が有意に低下し一回換気量が有意に増加した”

要するに市販のマスクを着用すると
・酸素摂取量と心拍数に変化はない
・換気量と呼吸数が低下
・一回換気量が増加
ということです。この理由としては

”呼吸筋の呼吸時間を最適に調節する働きが関与していると考えられる”
”呼吸筋が強く働くので被験者の呼吸困難度が増加することが考えられる”

と書いています。呼吸筋が出てきたので呼吸筋について触れますと、

運動時の循環調節に対する呼吸筋活動の影響
循環制御39 巻 (2018) 2 号

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ccm/39/2/39_91/_article/-char/ja/

簡単に要点を摘まみますと
・運動時は筋肉への血流を増やしたいが呼吸筋も血流の増加が必要なので取り合いとなる
・長距離ランナーでは日常のトレーニングによって呼吸筋は刺激されている

もう一つ修士論文を。
運動時の呼吸筋活動の増加が活動肢および非活動肢の血流動態に及ぼす影響
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=26173&file_id=17&file_no=1

これは結論に、
”呼吸筋活動の増加が中強度運動時の血流再配分に影響を及ぼすことが示唆される”

とあります。呼吸筋が活動すると血流の取り合いが生じるという一つ前のものと同じですね。

科研費を用いたものとして
呼吸筋トレーニングが持久性能力を高める生理的メカニズムの究明
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K01678/

こちらでは箱根駅伝を目指す大学生を被験者にし8週間で効果があったとしております。補助的に鍛えることは有効であろうと思われます。ただ、走るトレーニングにおける高負荷も大事ということで。

マスク話では最近話題のN95を着用した博士論文
N95 微粒子マスク各種着用運動時の身体への影響
https://www.thcu.ac.jp/uploads/imgs/20150522044017.pdf

 ”様々な受容体による影響や感覚経路があるため、呼吸困難感は複合感覚ともいえる。N95 微粒子マスクにより、呼吸をしたくても自由にできないといった心理的要素も息苦しさを表していることが推測される”

マスクを着用することにより呼吸困難感が生じるわけで、これによって運動中に呼吸がしっかりと出来ていない→酸素が足りていないと考えている人が多いのかなと思われます。

そんなこんなでいくつかの研究によって確認されている話をまとめてみると、

・市販のマスクを着用することで呼吸に変化は生じない
・換気量と呼吸数が低下する一方で一回換気量が増加しているのは、呼吸困難感があるので深い呼吸をしていることが理由なのでは?
・呼吸筋を鍛える効果はほぼ無さそう


当然ながら巷で言われるような低酸素環境は作られません。ただ、こうしたのを眺めた中から個人的に思ったのが、呼吸困難感を与えて受容器を刺激し活動筋の血流を下げるので、パフォーマンスの低下につながるが、これによってトレーニング効果を高めることは可能なのでは?という点です。酸素摂取量が減るとかいう話ではなく、呼吸に関わる部分の血流が高まり運動に使う血流が減るので、普段よりも少し低い負荷でも効果が出るのでは?と。活動している筋肉へのエネルギー供給不足を人工的に作り出せるかも、という推測ですので、実際に効果があるかは不明ですが試してみる価値はあるかと思います。マスクを着用することで心理的負担を感じる人は、それなりに効果が出るような気がします。

2020年3月9日月曜日

2020年3月の米子振り返り

鳥取だか島根だかあの辺にシャツが自虐的に売っている、島根だか鳥取だかに行ってきたわけですが、鳥取から入って島根から出ました。どちらも行きました。右が鳥取、左が島根。右の右がコナンで右の左がゲゲゲの鬼太郎。左が出雲大社。参加された皆様には当たり前の話でしょうが、これを読まれている無関係の皆様に向けての山陰地方の確認でございます。

本題。前半の動作に関しては、地面に力を加える必要性の有無、もちろん必要で張るけど加えすぎていませんか?短距離も長距離も、という点をご理解いただけましたら。特に長距離は踏まないでもしっかりと地面に力を加えられる姿勢を作れるシューズが発売されているわけで、 あれを履いているのに最後地面に力を加えたりしていたらそれはロスでしかない、感覚としては力を入れているつもりでも、それは遅れた動作ですからね、ということで。あとは様々な動きを試してみるのが良いと思います。自分の体のことは自分にしか分かりませんので、骨格などの微妙な違いで腕振りや脚の動かし方、タイミングなども変わってきますので。取りあえず小さな力で速く走ることができるようになったら、それなりに大きな力を加えてみるという形でスピードを上げていくのが良いかと思います。
後半に関しては少し速度アップしましたが。

しっかり食べて準備をしておかないと代謝物質が発生しにくい、ホルモン分泌が下がるからトレーニング効果は落ちる

という基本をご理解頂ければ。そのためにも練習後は素早く食べようね、しっかり寝ようね、という話になります。その日だけで練習は完結しない、次の日以降も練習はあるからねというのを忘れずに。あとは呼吸が乱れるような状態でのトレーニング効果、筋肉が増える時ってどういう状態か、というのを確認してもらいましたら、練習の組み方も見えてくるかと思います。特に短距離の人は速度を上げて少ない量というのが傾向として有りがちですが、それだと足りない点が多々出てしまうというのも分かって頂けたかと思いますので。ある程度の段階になったら走り込みは大事になりますが、そこもペース配分、自分の身体でどういった代謝物質が生成されているのか、前日の食事不足でエネルギー不足になっていそうだからここで止める、といった考えが持てると良いかと思います。

あとは持久力というものを曖昧にしていますが、
こちらの本を眺めて頂きますと、持久力って複雑すぎてよく分からんのだな、というのも分かるかと思います。やや小難しい話もありますが、読み物として楽しめますので。

あとは八田先生の本は運動生理学の基本的なところを分かりやすく説明してくれているので良いと思います。
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個人的に勉強をしたいという人に関しましては、
日本陸連の科学委員会がデータを出していますし
https://www.jaaf.or.jp/about/resist/t-f/

WAも出しています。
https://www.worldathletics.org/about-iaaf/documents/research-centre

あとはciniiでの検索によっても出てきます。
https://ci.nii.ac.jp/

ただ、論文を読む際にはその背景を理解したり、穿った見方をしてみたり、著者が引用している論文を読み漁って本当にその結論に至る??といった疑問を持ち調べるという作業が必要ですので、テクニックと時間は必要です。そうしたものをやりながら競技をしてみるのも楽しいかと思いますが、そんな時間は無いんですよ...でも少しのお金ならあります...という方は練習計画の作成やその背景説明などのお仕事依頼も引き受けておりますので、ご依頼ください。お値段表と申し込みはこちらより。


質が高い練習というのは準備があってこそ高くなるのであり、スピードを速くするだけが質の高い練習では無い、という意外と見落とされている点など、少し小難しい話の多い点、時間の不足によるスピードの速い点などありましたが、価格設定を大幅安にしましたのでご容赦ください。説明が足りてない点などありますので、ご興味ございましたら大学の長期休みや合宿期間などにお呼び下さい。