2017年3月26日日曜日

2時間のレジスタンストレーニング中の炭水化物摂取がサイトカインの発現に与える影響

Influence of carbohydrate ingestion on immune changes after 2 h of intensive resistance training

http://jap.physiology.org/content/96/4/1292

Journal of Applied Physiology Published 1 April 2004 Vol. 96 no. 4, 1292-1298

D. C. Nieman, J. M. Davis, V. A. Brown, D. A. Henson, C. L. Dumke, A. C. Utter, D. M. Vinci, M. F. Downs, J. C. Smith, J. Carson, A. Brown, S. R. McAnulty, L. S. McAnulty

持久的な運動中に炭水化物を摂取することでサイトカインや遺伝子発現に影響を与えることは、

多くの研究によって調査されている。

(20)の研究では最大酸素摂取量の70%で3時間走る実験中に炭水化物を摂取することで、

IL-6やIL-10などの血中レベルで減少することが確認されている。

筋グリコーゲンでの違いはプラセボ群と無いので、

血中グルコースがサイトカインのmRNAの発現を抑制したと推測される。

(29)の実験でも筋グリコーゲンの差異は摂取でもプラセボでも無く、

IL-6の血中レベルが低下した。

近年のデータ(17,30)では筋グリコーゲンが少ない状態での運動はIL-6の放出を増加させるとしている。

(28)のデータによるとレジスタンストレーニングは筋グリコーゲンの著しい減少を引き起こす。

しかし、レジスタンストレーニングによるサイトカインへの影響を調べた研究はほとんど知られていない。

13人の少なくとも半年以上のレジスタンストレーニングを実施している若い男性で実験。

バックスクワットを体重の1.25倍をこなせるレベル。

炭水化物摂取群は6%もしくが60g/lを含むドリンクを摂取。

これは(20,21,22,25)の先行研究にあるようなゲータレードによって提供された飲料。

結果、運動量は特にどちらでも変化は無かった。

炭水化物の減少は摂取群で38%、プラセボ群で44%で有意な差は無かった。

そして持久的な運動と比較すると炭水化物摂取群でもプラセボ群でもサイトカインの発現に差は無かった。


Free

サイトカインに関しては炎症性マーカーなどとも呼ばれますが、

これがどのような刺激で出てくるのかというのを調べた2004年の論文です。

持久的な運動によってIL-6が多く産出され、それによって鉄の体内での取り込みが抑制されて貧血になる、

ということが現在では分かっています。

直接的にトレーニング効果を高めるかどうかは不明な点も多いですが、

体内で生じる様々なシグナルを抑制したりしているものなので、

知っておくことで役に立つものではあるかと思います。

ただ、何だか小難しい話になっていくので、知らないでも何も問題は無いでしょう。

2017年3月25日土曜日

高脂肪食とスポーツパフォーマンスを再考する(2016年のレビュー)

Re-Examining High-Fat Diets for Sports Performance: Did We Call the 'Nail in the Coffin' Too Soon?

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4672014/

Sports Med. 2015 Nov;45 Suppl 1:S33-49. doi: 10.1007/s40279-015-0393-9.

Burke LM

長年続いた高脂肪食を競技者に適応させる試みの失敗は、

2006年に(1)の研究が発表され、これが調査された結果、

持久的な競技者に対して高脂質食がパフォーマンスを高めるという考えは、

削除することが出来ると考えられる。

この10年間で(3,4,5,6)の論文や(7)の文献などから、低炭水化物高脂肪(LCHF)の話が出てきたが、

これらが本当にアスリートに効果的なのかを再考するべきである。

パフォーマンスは競技種目ごとに目指すものが異なるが、

ATPの生産を効率よく最大化するという点は重要である。

持久的な種目ではグリコーゲンの利用を減らすために脂質をエネルギー源とするための戦略が立てられ、

食事での摂取などを実施したが失敗した。

(31,32)の実験では85%の脂質と15%のタンパク質という食事を一か月近く実施した結果、

最大酸素摂取量の65%程度の運動では能力が維持されたが、

これより負荷の高い運動は無理であろうと指摘している。

この実験ではケトン体が明らかに増加していたと考えられる。

また、この実験では一人の著しい結果によって平均値が良い方に歪められたと言える。

ケトーシスを達成しない程度の炭水化物摂取を行った実験としては(34,35,36,37)がある。

(38,39)は25%未満の炭水化物の摂取か60%以上の脂質の摂取をしていないものである。

上記のようなプロトコルが行われたりもしているが、

パフォーマンスの向上に最適なものはよく分からない。

これらの研究の問題点としては運動中にグリコーゲンが減らずに脂質が多く使われたということが言えない点にある。

それが言えないことには、炭水化物の利用が抑制されたとは言えない。

また、低炭水化物食への適応は以前に言われていたほど長い期間は必要でなく、

5日程度で大丈夫ということも言える。

ある程度鍛えられた状態であれば、適応は容易に行われるのかもしれない。

(1)の研究では自転車競技で実験したが、

1kmのスプリントが明らかに低下した。

この原因としては炭水化物の酸化能力が低下したことなどが挙げられている。

(46,47)の研究結果からは低炭水化物食による高出力な部分における抑制が起こる理由が説明されると思われる。

2006年以降の研究を見ていくと、

体脂肪の減少といった点での利点は認められるが、

これが競技者に適応できるかとなると疑問が残る。

60~80%程度での運動ならば低炭水化物な食事は有効であるが、

トップの持久的な選手たちは既に低炭水化物高脂質な食事はやめている。

このレビューで白か黒をつけるのではなく、

良い点を上手く利用してパフォーマンスの向上につながれば良いと思います。


Free

そこそこの長さがあるのを適度に訳しました。

興味のある方は無料ですので全文をどうぞ。

最後のまとめ部分で炭水化物が良いとか脂質が良いとかでは無い、

と指摘しているように、どちらにも利点があるという所を忘れずに、、

適応期間などを上手く利用して最適なパフォーマンスの向上が出来るように役立てられれば、

という感じですかね。

まぁでも、瞬発的な種目にはほとんど低炭水化物高脂質な食事は役に立たない、

というのは言えそうです。

持久的な種目を行っている人の中でも、

フルマラソンを完走したいというレベルのランナーや、

ジョギングだけで疲労抜きの週という選手が短期的に用いるのは良さそうです。

ただ、80%を超えるような負荷になってくると炭水化物を利用するので、

どうにもパフォーマンスは下がるので炭水化物を摂取しましょう、

となりますかね。

この辺りは何か別の形で持久的なパフォーマンスの栄養学的な感じでまとめたい所です。

2017年3月24日金曜日

ケトジェニックな低炭水化物食と身体パフォーマンス(2004年レビュー)

Ketogenic diets and physical performance
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC524027/

Nutr Metab (Lond). 2004; 1: 2.Published online 2004 Aug 17

Stephen D Phinney

多くの医者や栄養士は炭水化物が主要なエネルギー源でなければならないとしている。

高負荷な運動とグリコーゲンの貯蔵を調べた長年の研究などが根拠となっており、

軽度の頭痛や疲労しやすさの原因を炭水化物が不足していることと説明したりもする。

1930年までには北米の先住民族にも炭水化物食が広まったが、

炭水化物を摂取しない食生活を送っていたアラスカやカナダに住むイヌイットへの調査は、

幸いにも科学者によって事前に行われていた。

木の実などの採集や農作物の栽培など、

この5000年ほどで炭水化物を摂取できる環境が形成されてきたが、

日常生活を送るには狩猟による肉や魚といった栄養源よりも、

農作物の栽培などによる環境の方が安定している。

20世紀から栄養学の研究が多く行われるようになった。

1939年に行われたChristensen and Hansen(2)の研究では、

低・中・高の炭水化物食群に分けて食事を摂取させたところ、

高炭水化物群が最も長く自転車運動を継続することが出来た(低炭水化物の2.5倍)。

1960年代に入って筋バイオプシーによる研究が開発され、

(5)のような高強度の運動においては炭水化物が多く利用され、脂肪には利用の限界がある、

炭水化物が不足している人は身体的に損なわれている、

というコンセンサスを出す研究が行われた。

ケトジェニックな食事について書かれた初期の文献は、

1878年~1880年にSchwatkaらが行った北米の探索のものである。

1879年4月から始まった探索では翌年の3月に戻ったが、

途中は食料不足のために狩猟によって食料を得ていた。

この日記は1965年に発見されたが、

その中にはトナカイの肉だけでは疲れている感じがあったが、

2~3週間ほどで慣れたといった記述がある。

1970年代に入ると低炭水化物食に注目が集まった。

1980年に出された(13)の研究では8週間のケトジェニックな低炭水化物の食生活を実施し、

最初の1週間は適応のためにパフォーマンスは下がるが、6週間あたりでベースラインに戻った。

ここから、タンパク質やミネラルが十分であれば最大酸素摂取量などの機能は衰えないことを示した。

1983年の自転車選手を用いた実験などでも(14,15)、

脂質83%、タンパク質15%、炭水化物2%で構成された体重を維持する量の食事により、

同様の結果が見られた。

ケトジェニック食のパラドックスとして挙げられる研究の問題点としては、

研究デザインの問題がある。

4週間に満たない程度の研究や、カリウム・ナトリウムの不足が見られる。

イヌイットの食事は海水(脱塩しているが)を用いているため、

カリウムやナトリウムは豊富に含まれる。

タンパク質が体重あたり1.2g未満になる食事を摂取した場合、

最大酸素摂取量は減少する。

また、エネルギー消費量の25%を超えるとケトンの生成量が抑制される。

ケトジェニックな食事はミネラルとタンパク質の摂取量に注意すれば、

危険は伴わない。

しかし、筋グリコーゲンが低いレベルとなるため、ウエイトリフティングやスプリント種目など、

競技レベルでスポーツを行う人にとってはパフォーマンスを低下させるであろう。


Free

大雑把ではありますので、興味がある方はgoogle翻訳でもご利用ください。

文章が何行か翻訳されていないという雑な翻訳をされたのは確認しましたが。

まぁケトジェニックな食事、低炭水化物、高脂質、そこそこ高タンパク質な食事(ミネラルに注意)は、

適応するのに1週間ほど必要として怠さなどを感じるが、

そこを抜けて6週間もすると最大酸素摂取量はベースラインまで戻るが、

競技的なレベルで行う瞬発種目には不向き、

ということで。

ミネラルという点は忘れている人も多そうな気がしますね。

2017年3月23日木曜日

持久的な運動によって引き起こされるAMPKの活性化はレジスタンストレーニ ングによる筋肥大の反応を邪魔しない。が…

Exercise-induced AMPK activation does not interfere with muscle hypertrophy in response to resistance training in men

http://jap.physiology.org/content/116/6/611

Journal of Applied Physiology Published 15 March 2014 Vol. 116 no. 6, 611-620

Tommy R. Lundberg, Rodrigo Fernandez-Gonzalo, Per A. Tesch

持久的な運動をレジスタンストレーニングを同じ日に行う場合、

間に6時間の回復をおくとレジスタンストレーニング単独で行うよりも筋肥大した(42)。

持久的な運動によって筋グリコーゲンが減少するため、

直後にレジスタンストレーニングを行うことは筋力とパワーの減少が起こると考えられる。

持久的な運動はAMPKを活性化し、PGC-1αを増加させる。

レジスタンストレーニングはmTORの経路を活性化して筋肥大を促す。

ラットでの実験(60)では先に行った持久的な運動によるAMPKの活性化は、

mTORの伝達を抑制し4E-BP1やP70S6Kなどの下流因子の調節により筋肥大を抑制すると考えられる。

(41)や(42)の研究結果では、持久的な運動の後に筋機能が回復してからレジスタンストレーニングを行うと、

筋肥大が確認された。

では、持久的な運動の直後に行うとどうなるか、実験してみた。

週に3日程度運動を行う若い男性10人で実施。

片足での自転車運動を40分行った後、15分の回復時間を挟んで、

座った状態での膝伸展を4×7セット実施。

結果、持久的な運動を組み合わせた場合、

筋グリコーゲンやPGC-1α、VEGFのmRNAはレジスタンスだけ群よりも有意に増加し、

ミオスタチンmRNAは有意に減少した(Fig5)。

しかし4E-BP1やP70S6Kなどは特に変化が無かった(Fig6)。

持久的な運動が筋肥大を抑制せず、むしろ肥大を促したが、、

これが競技を行う選手に導入されることは悪影響を及ぼすと考える。

AMPKの活性は運動後1時間に明確に高まる(11,20,46)ので、

レジスタンストレーニングが打ち消した可能性がある。

ミオスタチンが減少しPGC-1αが増加したことは筋肉の増加や分解を抑制すると考えられ、

これが持久的な運動を組み合わせた群で高まったことは興味深い。

今回の結果で筋肥大は持久的な運動の組み合わせの方がより大きくなっているが、

これにはミトコンドリアや筋グリコーゲンの増加が大きく寄与していると推測される。

持久的な運動との組み合わせの方が筋力の向上が低かったことなどから、これは言える。

今回の実験では片足での運動を行っているが、

今後は他のやり方での比較が必要と思われる。


Free

とても面白い論文でした。

持久的な運動を組み合わせることがミオスタチン(筋肉の肥大を抑制する)の発現を弱める。

その点から考えると筋肥大には適度な持久的な運動を行うことは良さそうですね。 

ただ、見た目のデータだけから都合の良いことを言わず、

この結果からすると筋肥大や筋力向上には持久的な運動の直後に行う組み合わせは効果的では無いと思う、

と言っていますので。

最大出力の向上を狙う人であれば、

少し考えた方が良い、見た目の変化を狙う人ならば、持久的な運動も組み合わせると良い、

ということは言えるかと思います。






2017年3月22日水曜日

筋線維のタイプとサイズのパラドックス

The muscle fiber type-fiber size paradox: hypertrophy or oxidative metabolism?

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20602111/

Eur J Appl Physiol. 2010 Nov;110(4):665-94.

van Wessel T, de Haan A, van der Laarse WJ, Jaspers RT

1980年のHicksonの研究で持久的な運動とストレングストレーニングを同時に行うと、

それぞれを単独で行うのに比べてトレーニングによる反応が弱まることが確認された。

持久的な負荷は筋内での酸化能力を高めることが知られており、

ストレングストレーニング(高負荷なトレーニング)は筋肉を肥大させるのに効果的であるとされる。

どうしてこれらの能力は同時に向上していかないのか。

以下、何点か面白かった話を。

・TYPEⅠやTYPEⅡという筋肉の分類の仕方は筋線維の酸化能力とは一致しないことを理解しておく必要がある。TYPEⅠとTYPEⅡaの間には酸化能力や筋肉の太さに差があるとされるが、女性においてはTYPEⅠがTYPEⅡよりも大きいことがよくある。ラットの骨格筋ではTYPEⅠの酸化活性がTYPEⅡより低かったり、TYPEⅠ線維の方が筋サイズが大きかったりする。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14617264/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10596950/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2529775/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19429822/

・図1から考えるに、筋肉の酸化能力は筋線維タイプの違いよりも筋のサイズに大きく影響される
・高い酸化能力を有する筋肉はタンパク質の合成も高い(それならば遅筋の方が肥大しやすいはず...???)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10424883/

・その他、酸化能力が高い方が筋肥大に効果的とされるはずだが、遅筋は肥大しにくいのは何故か。酸化能力が高すぎることでターンオーバーが働き過ぎて抑制されるのでは?


長いので結論部分を見てもらいますと分かるように、AMPKとmTORの活性による作用によって肥大が抑制されたり刺激されたりする、ということが書かれています。この辺りが把握できるようになったら、持久的なトレーニングに近いものをウエイトトレーニングなどにも入れていくことで、より筋肥大を高められるのかな、という気がします。かなり長いですが、なかなか面白い内容でした。