2017年2月19日日曜日

カゼインとホエイの違いによる食後の血中アミノ酸濃度変化

Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion
http://www.pnas.org/content/94/26/14930.full

PNAS December 23, 1997 vol. 94 no. 26

Yves Boirie, Martial Dangin, Pierre Gachon, Marie-Paule Vasson,
Jean-Louis Maubois, and Bernard Beaufrère

1997年の論文です。

16人の健康な男性被験者。

カゼインとホエイというタンパク質の違いは摂取後にどのような違いを生むか、

という点を調べたもの。

ホエイは摂取後にアミノ酸濃度を高める

カゼインはホエイほど高い濃度にならないが6時間経ってもやや高い状態にする。

120~180分の間でカゼインの方が血中のロイシンの濃度が上回るようになる。

この違いはカゼインは胃から腸へと排出される速度が遅いということから起こる。




睡眠中などは30g程度のカゼインを事前に摂取するのは効果的であるが、

筋肉の合成は高めないのでカタボリックな状態を抑制したい、

という点を意識する人は良いかもしれません。

近年では寝る前のホエイの摂取で筋合成が高まるとされていますし、

ホエイの摂取による刺激>カゼインによる分解の抑制

といったことが言えるかもしれません。

また、これより古い1987年の研究では

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3316280?dopt=Abstract

インスリンの分泌も筋肉の分解を防ぐ要素とされていますし、

日常生活では食事の時間との関係なども意識しての摂取で大丈夫、

といった所かと思います。

2017年2月18日土曜日

炭水化物+アミノ酸+小麦タンパク質の混合物の摂取は運動後の筋グリコーゲン合成を最大化する

Maximizing postexercise muscle glycogen synthesis: carbohydrate supplementation and the application of amino acid or protein hydrolysate mixtures

http://ajcn.nutrition.org/content/72/1/106.full

Am J Clin Nutr July 2000 vol. 72 no. 1 106-111

Luc JC van Loon, Wim HM Saris, Margriet Kruijshoop, and Anton JM Wagenmakers

8人のwell-trainedのサイクリストでの実験。

グリコーゲン量の回復は1時間に体重あたり0.5gの摂取を行うことで促進される(ref10)

0.75gと1.5gでは差は無かった(ref7)

固形、液体、静脈投与での差は無かった(ref8,12)

体重あたり0.8gのタンパク質と炭水化物の混合物は回復を促した(ref13)

こうした先行研究をベースに実験を実施。

30分ごとに体重あたり3.5mlの飲料を摂取。内容としては以下。

コントロール群;0.8gの糖質(グルコースとマルトデキストリンそれぞれ50%を含む)

炭水化物+アミノ酸群;上記の糖質0.8gに加え0.4gのアミノ酸(ロイシン:フェニルアラニン50%ずつ、小麦加水分解タンパク質50%)

炭水化物+炭水化物群;1.2gの糖質(グルコースとマルトデキストリンそれぞれ50%を含む)

炭水化物+炭水化物群はコントロール群より170%高い回復を5時間で見せた。

炭水化物+アミノ酸群はインスリンが最も高くなり、筋グリコーゲンの回復も高かったが、血中グルコースは最も低くなった。


同じようなタイトルが続いていますが、

今から10年やそれ以上前の論文とそこの引用を眺めておりますので、

こうなるのも仕方ないと思って頂ければ。

この論文から言えることは筋肉のグリコーゲンの回復だけを考えるならば、

炭水化物を多くするのがベストであるということになりますね。

ただ、筋肉の回復などもしないと翌日のパフォーマンスは下がりますので、

グリコーゲンも高くしつつ筋肉の合成も高くなるもの、

という選択をしていくのが良いと言えるでしょう。

どれも最高に高くなるという手法があれば良いのですがね。

2017年2月17日金曜日

炭水化物とタンパク質の混合物は運動後のグリコーゲンの貯蔵を高める

Carbohydrate-protein complex increases the rate of muscle glycogen storage after exercise
http://jap.physiology.org/content/72/5/1854

K. M. Zawadzki, B. B. Yaspelkis, J. L. Ivy




前日の2000年のものはこの1992年のタンパク質と炭水化物のをさらに調べたものということで。

https://tf-ver3.blogspot.jp/2017/02/blog-post_16.html


運動後にはタンパク質と炭水化物をしっかりと摂取した方が筋肉のグリコーゲンの貯蔵を高めるので、

翌日やそれ以降のパフォーマンスに備えることが出来る。



糖質を摂取
小麦製品

見えてくるものはいくつかありますね。

2017年2月16日木曜日

アミノ酸やタンパク質と炭水化物の混合物を摂取した後の血中インスリンの反応

Plasma insulin responses after ingestion of different amino acid or protein mixtures with carbohydrate
http://ajcn.nutrition.org/content/72/1/96.full

Am J Clin Nutr July 2000 vol. 72 no. 1 96-105

Luc JC van Loon, Wim HM Saris, Hans Verhagen, and Anton JM Wagenmakers

健康な男性8人を一晩絶食させての実験。

炭水化物を摂取した後でのインスリンの反応、アミノ酸やタンパク質を摂取した後でのインスリンの反応、

これらはどちらも実験されている。

両者を組み合わせた実験も行われている。

ではこれらの組み合わせで最もインスリンの分泌を高めるのはどれなのかを確認しよう

という具合で実験がなされています。

※注;アミノ酸やタンパク質だけの摂取でもインスリンは分泌されますからね。
  1~20までの文献参照

インスリンの分泌はグリコーゲンの合成速度を高めるので、

パフォーマンス向上に効果があると考えられる(21や22を参照)。

Whey Pea Wheat Caseinの四つを摂取するタンパク質として利用。


アミノ酸としてはアルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、グルタミンを使用。

組合せは図を参照。

インスリンと強い正の相関があったのはロイシン、フェニルアラニン、チロシン、シトルリン。

負の相関が見られたのがグルタミン。

チロシンはフェニルアラニンが大量にあると合成されるので、それによるものと考えられる。

アルギニンの単独での摂取は腹痛を引き起こすだけでインスリンには効果は無し。

グルタミンも摂取して特に変化が出なかったので体内での合成で十分であろう。

タンパク質も”市販のプロテイン”のように粉状になっているものは消化が速く2時間後にはアミノ酸の濃度を高める。

(注;市販のという訳を当てるのが適当かと思いまして。プロテインというとタンパク質そのものなのか、日本人が使うサプリとしてのものなのか分かりにくくなりますので)



インスリンだけを考えるならロイシンとフェニルアラニンを同時に加水分解した小麦タンパク質を摂取するのが効果的。腹痛も起こらないし。

という結論ですね。

アミノ酸の摂取はアルギニンのように腹痛を引き起こしたりするという作用も出るので、

そうした点も含めてベストなものを選ぶというのは必要でしょう。

小麦のタンパク質とロイシン、フェニルアラニン...

グルテン、グルタミン...

まぁ特別にグルタミンを他から取る必要は無いというだけで、

食事で気にせずに食べて良しということですから、

アレルギーなどなければグルテンフリーをせずにパスタなどを食べるのが効果的、

となりますかね。

というか、小麦をしっかり食べるのが良いのでは、

となるかと思いますね。

グルテンフリーって一般人に必要ですか?

2017年2月15日水曜日

東京大学大学院農学生命科学研究科社会連携講座「栄養・生命科学」キックオフシンポジウム雑感

2017年2月14日に東京大学弥生講堂・一条ホールにて開催されました、

東京大学大学院農学生命科学研究科社会連携講座「栄養・生命科学」キックオフシンポジウムを眺めてきました。

協賛はサントリーグローバルイノベーションセンター株式会社。

寄付講座ではなくて社会連携講座ということで、

研究成果に基づいた知財を大学と出資企業が共有するなどなどの解説が、

一番最初に佐藤隆一郎先生からありましてから、

講演が4題。

まずは阿部啓子先生による「次世代機能性食品の学術基盤と産業」という講演。

阿部先生がどのような研究をされているのかという話と現在の社会に関わる問題から、

食品開発に関しての話、食品がもたらすとされる健康への影響とそのエビデンス、

といったキックオフシンポジウムの一番手として大事なところを押さえる発表でした。

最後の方ではご自身の研究の詳しい点にも触れられまして、

”skn-1欠損マウスでは味蕾の甘・苦・うま味細胞が完全に消失”

”カテコールアミンの尿中分泌量がSkn-1欠損マウスで有意に増加”

”血清中総ケトン体の上昇、腓腹筋ミトコンドリアのコピー数増加、脂肪分解の亢進、および、インスリン分泌量が低下”

といったことが紹介されました。上記に関しては以下のリンクより引用。
 
「腸脳軸を介した新しいエネルギー代謝調節機構を解明」
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2016/20160531-1.html

二番目は佐藤隆一郎先生による「骨格筋機能と食品成分の接点を科学する」という講演。

こちらはご自身の研究を中心とした発表なのか、

次々とスライドが流れていく速いテンポのものでしたので、

会場の中でついて行けた人がどれくらいいたのかな、

と思う所ですがとても面白かったです。

最初の方にあったのはAICAR(Acadesine) の話でampkの活性を高めるが、

これはドーピングに指定されているので使えないですね、

といった話。

AMPK and PPARdelta agonists are exercise mimetics
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18674809
Cell. 2008 Aug 8;134(3):405-15 


AICARに関してはWikipediaの記事でも見てもらいますと分かりますが、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%82%B7%E3%83%B3

2008年に注目されて2009年には禁止物質リスト入りというスピーディな対応。

そして2009年には検出されている。

2013年の記事ですが、自転車界隈では頻繁に使われる代物ですね。

http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=20239

この話が理解できると話題になっているジャマイカの短距離選手のドーピング問題の話も理解できると思います。

まぁこのドーピング話はまた別でやります。

AICARとは異なるものではレスベラトロールなんかに注目


詳しい内容は以下のリンクよりPDFをご覧ください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/25/1/25_35/_pdf

TGR5と胆汁酸という話で、

食事による胆汁酸の分泌が筋肥大に関わってくるということで、

しっかり食事しましょうね、

という理解をさせて頂きました(食べないと強くなれない派ですので...)。

ノートカトンやノミリン、オバクノンなど柑橘類の中にある苦み成分に効果があるものがありそう、

といった話でゆずを使って笑いが取れなかったのは何でですかね。

そこまで話についていけなかったのか、

真面目な話に唐突な仕込みネタだったからか。

まぁ柑橘類を食べる時は種まで食べましょうね、

とっても苦くておいしくは無いですけど、

ということを受け取りました。

休憩を挟んでの三番目は森谷敏夫先生(京都産業大)の講演。

「筋肉は偉大な臓器である」という題でのお話でした。

かなり久しぶりに講演を見ましたが、

相変わらず巧みな話術でした。

【筋肉はロコもを予防・改善する臓器である 】
【筋育は肥満・メタボを予防・改善する臓器である】
【筋肉は糖尿病を予防・改善する臓器である】
【筋育は脳萎縮・認知症を予防・改善する臓器である】

この四点が抄録には項目として記載され解説が書かれていましたが、

それをスライドと話術で説得力を高めるのはさすがでした。

アイリシンの話では運動によって白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に機能が近づくという説明をし、

だから運動が必要なんだと強く述べられました。

アイリシンに関してはコチラからPDFをどうぞ。

また、自律神経が働くことで褐色脂肪細胞が働くのだから、

カロリー制限をするな、運動をしろ!!

ということも力強く述べられました。

栄養士の方々は100kcalを食事制限すれば楽だと言うが、

それは将来の寝たきり患者を作ることになるからやめろ、

という感じの話でしたね、

私もそう思います。

ケトン体の話もされていましたが、

脳がどれだけのエネルギーを使うと思っているんだ、

ということでした。

私もそう思います。

運動を適度にしてカロリーを消費することには身体を作る意味もある。

全く運動をしないでカロリー制限をして痩せるというのは悪循環しか生まないので、

適度に運動をしてカロリーを消費して、しっかり食べて生活しよう、

と。痩せるために運動というのよりも、将来の足腰予防のために若いうちから適度な運動を、

ということです。カロリー摂取量の少ない人は高齢者になってからの状態がよろしくない

そういうデータも示されましたし。

この辺りは本当に栄養士の方々には話が通じない点でして、

とにかく痩せることがゴールであって身体が弱ることは気にしない、

という指導をしていることに早く気が付いてもらいたいものですね。

また、糖尿病は遺伝が原因だという医者の方々の勉強不足も嘆いておりました。

これもまったくもってその通りの話でして、

宇宙飛行士は二週間の滞在で糖尿病になることからも分かるわけですが、


遺伝だからと思っている人が多過ぎる。

勉強をしろ、


と。

宇宙で人体に生じるあれこれに関する記事です。
http://www.afpbb.com/articles/-/3084764

私は大学院での研究の一つが宇宙飛行士の筋肥大というのがありましたので、

この辺りは「ですよね」 と思いながら聞かせて頂きました。

宇宙では筋肉の萎縮や機能が弱ることから糖の分解が行えなくなるわけです。

インスリンでの取り込みとGLUT4を使った取り込みの経路があるのに、

片方しか使えなくなったら、多くある筋肉が使えなくなったら糖尿病になってもおかしくない、

糖尿病の原因は筋肉がダメになること、運動をしろ!!

という具合で栄養士の方々に続きまして医者の方々への熱い語り。

この熱さが届かないのは医者の方々が運動生理学を学ばないからなんでしょうね。

まぁ講演を通して、とにかく運動をしろという当たり前の話しかされていませんでしたが、

どうして運動が必要なのかということを分かっておらず、

カロリー制限だけで終わらせようとする人が多いというこの現実はどうしようもないかな、とも思ってしまいます。

これをお読みの皆様は、簡単な運動で良いですので、

筋肉を維持する・少し増やすような運動をやりましょう。

しっかりと食べましょう。

食べないから、運動しないから身体がダメになる、病気になる、ということです。

20分歩くといったことからでもやりましょう。

そして最後は山内祥生先生による「社会連携講座「栄養・生命科学」が目指す研究」という講演。

森谷先生の後でやりにくいというボヤキから始まりまして、

ご自身の研究を紹介され、今後はどのような研究をして連携講座の役割を担っていくか、

という話へとまとめていかれました。

基礎的な話と研究の話を淡々とされていたので真新しい点はあまりありませんでしたが、

多い少ないの問題があるにせよコレステロールはやはり大事だよな、

ということや再び出てきた胆汁酸の話もありまして、

胆汁酸に興味を持ちました。



森谷先生の講演を聞くために行ったようなものでしたが、

その他の講演も楽しく聞けました。

やはり様々な分野の話を聞いても、

どこかで必ず絡んでくる話はあるので、

そうした点をより深く掘っていくと面白いですね。

そして何より森谷先生の講演がとてもインパクトがありました。

痩せようと思わないでも良いから軽くスクワットをしてみるとか、

何かしらの簡単な運動をして身体に刺激をいれることが脳から神経から筋肉から、

全身のありとあらゆることに良い影響がもたらされるわけですから、

運動をしましょう。

カロリー制限は最後の奥の手としてとっておきましょう、

という感じでしょうか。

なお、懇親会の前に個人的な質問を森谷先生させて頂きましたが、

私が推定していた通りの数値を先生も 仰られていましたので、

アスリートがパフォーマンスを落とさないようにするレベルだと、ケトン体でまかなうのは無理!!

という私からのメッセージを残しまして、

以上とさせて頂きます。