2017年12月23日土曜日

スポーツにおける試合前の性行為

Sexual Activity before Sports Competition: A Systematic Review

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27445838

Front Physiol. 2016 Jun 21;7:246. doi: 10.3389/fphys.2016.00246. eCollection 2016.
Stefani L, Galanti G, Padulo J, Bragazzi NL, Maffulli N.

古代ギリシアやローマの時代から試合前の性行為はパフォーマンスを下げると信じられ、

大いなる犠牲は成功につながるとされてきた。

しかし、科学的な研究に関してはまだまだ不足している。

最初の研究(Anshel, 1981)は

”禁欲によって競技におけるパフォーマンスが上がるかもしれないが、 ストレスとなる可能性もある。適切な性行為はリラックスを生んでパフォーマンスを高めるかもしれない 。深夜の行動や睡眠時間の減少、飲酒などがなければ悪影響は少ないのでは”

といったことを述べている。

しかし、自慰行為(masturbation)や性的絶頂(climax)に関する管理されたデータはなく、

再現性のある研究はほとんど無い。

競技会の前夜での実験はいくつかあるが、

多くのコーチはエネルギーの無駄遣いによる影響が出ると思っている。

実際には性行為によるエネルギー消費は少ないと思われるが、

実験はほとんどない。

本研究では過去に行われた実験のシステマティック・レビューを実施。

140の研究の中から9件の研究を抽出した。

結果、対象としては男性の方が多かった。

(Johnson 1968)では24~49歳の元アスリートの女性を用いて実験を実施、

前夜に性行為をした場合と6日ほど間を空けた場合で筋力に関して差は無かった。

同様の実験で酸素摂取や心拍について調べたものが(Boone and Gilmore 1995)である。

アスリート以外も含む男性のデータで性行為の2時間後に実験を行った。

この研究の結果からは、性行為は少なくとも競技の10時間前に終わらせておけば影響はないと言える。

しかし、間が2時間程度であると心拍数が高くなった。

だが集中力や仕事量に関する差は無かった。

この点から性行為は交感神経を活性化し、テストステロンを上昇させるということが言えるかもしれない。

(Sztajzel et al. 2000)では被験者数が少ないなどの問題があるが、

持久的なトレーニングを積んだアマチュアランナーでの悪影響が無かったという実験結果を報告している。

 (McGlone and Shrier 2000)はハンドグリップでのテストにおいて、

性的行為がハンドグリップに悪影響を与えないがcoordinationや最大酸素摂取量に影響を及ぼす、という報告をしている。

1週間程度の禁欲における影響なども考えられるため、

その点を排除する方法なども考える必要がある。

また、性行為に費やされるエネルギーは25~50cal程度(階段で1階から2階に上がる程度)であり、

エネルギーの消費がパフォーマンスに影響を及ぼすことは無いであろうとしている。

競技会前などでは不安や緊張などの影響もあることが考えられるので、

そうした不安を取り除いたりするのに性行為が好影響を与えることも考えられる。

(Chidley 1996; Pupiš et al. 2010)らのデータにもあるように、

近年では性行為を我慢することの方が悪影響であると考える人も多くなっている。

本研究のデータから言えることは、

研究数が少ないのと男性でのデータが多いこと、

十分な間隔(睡眠時間)を確保し競技前に行う性行為は悪影響を及ぼさないであろう、

ということが言える。



講習会で最も多くの質問をいただく点ですので(以前からも多くの質問は頂いております)、

最新のレビュー論文を眺めてみましたが、

これといって何かを言える感じはしませんが、

無理に我慢するのは良くないし、

前日で10時間ほどの時間があり睡眠が確保(性行為後の興奮が収まる時間も必要?)すれば、

特に大きな影響は無さそうかなと思います。

いくつかの論文の中であったように、

結局は行為の時間や姿勢などによって影響は違ってきますが、

こうした所を統一してデータを取ったものが何も無いので、

何というか曖昧な感じになっています。

取りあえず言えそうな事としては、

男性はしっかりと自慰なり性行為なりをしてストレスを溜めない方が、

ということですね。

女性に関してはデータがほとんど無いので、

何とも言えません。

ホルモンの変動などから何かが言えるかもしれませんが、

そうしたデータを取っていくのが今後の研究になるかと思われます。


無理の無い体位で、疲れを感じない時間でどうぞ

というのは言えそうですかね。

なお、未公開の個人的なデータ(男性のみ)で言いますと、

男性が言う翌日に残る疲労感は性行為の時間と姿勢が明らかに関係しています。

特に自慰行為における姿勢変化の無さは、気づいていない人が多いです。

PCやスマホで動画を探すという行為に集中しすぎて、

姿勢がずっと一定で緊張を保ち続けているというのが原因であろうと推測しています。

長い人では30~1時間程度は同じ姿勢を保持していたりするみたいですので、

座ったり寝たりしている時の姿勢にも気を配る、

床に座ると膝が曲がった状態になったままでダメージが蓄積するので、

ある程度は狙いを絞っておいて立った状態や椅子に座ってリラックスして、

という感じでやると疲労感も軽減されると導き出しております(未公開データですので)。

性行為そのものに悪影響があるということでは無さそうですので、

上手く利用できるように、というところですね。

女性に関してはデータが少ないので何とも言えませんが、

男性とほぼ同様かと思います。

2017年12月13日水曜日

日本スプリント学会第28回大会雑感、二日目

二日目の最初はシンポジウム2で

「多種目におけるスプリント能力の必要性と多種目によるスプリント能力向上の可能性」

というテーマで本田陽先生(中京大学)と大山卞圭吾先生(筑波大学)が登壇。

本田先生は10種競技の選手を例にして話をされ、

大山先生は砲丸投げを例として話をされました。

同じ動きをする部分はあるというのが両者に共通する点かと思います。

大山先生はメディシンボールを投げる練習での工夫を動画を用いて示されていました。

カラーコーンを上手く投げるというのは面白そうだな、と思いました。

特別講演2は森谷敏夫先生による「最新トレーニング科学」というテーマでしたが、

森谷先生はいつもながらの森谷先生でした。

初めて見た人は圧倒されたor頭のおかしな人が出てきた、

というどちらかの感想になるのかと思いますが、

陸上競技のみならずスポーツの指導というのは説明がつかないことをやらせていることが多い、

という点は認識すべきであろうと思います。

遅いスピードでやる練習になんか意味があるの?

何でその練習やってんの?

という森谷先生の煽りにしっかりと心の中で返せていれば良いかと思います。

運動生理学などをしっかりと学んでいない人にも分かるようなレベルになっていたかと思いますが、

ところどころは理解できないような内容もあったかと思います。

ただ、あの程度のことは知っておいて損は無いし、

あの程度を知らずに指導したり競技をするのは伸びしろを伸びしろのまま終わらせてしまうことになりますので、

何を言っていたのか分からないという場合は運動生理学をもっと学んでいただきたいと思います。

最新とはついていますが、実際には10年前頃から今に至るまで変わっていない、

そうした内容のものもありましたし。

”筋肉が増えただけではパフォーマンスは上がらない!!”

この点はしっかりと認識すべきでしょうね。

森谷先生が暴れた?後の講演は寺田新先生(東京大学)による、

「スポーツ栄養学における最近の知見」

という講演でしたが、時間が足りなくなったためにサプリメントの話が無くなりました。

残念。
 詳しい話に関しては著書を読んで頂くのが良いと思います。

スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる


午後の一般発表に関してはこの学会ではこんなもんだろうな、

という感じのものですので省略します。

一件、終わってからお話を聞かせて頂いた発表もありましたが、

現状の広く知られているスプリント理論が正しいという前提で果たして良いのか、

という点から質問をさせて頂きました。

とても楽しい話が出来ました。




そんなわけで二日目に関しては内容が薄い感じになりますが、

二日間の感想として思いましたこととしては、

筋肥大や筋力を向上させるためのトレーニングにおいて、

正しいフォームと呼ばれているもの以外でも効果的なやり方はある、

むしろあの正しいフォームはケガ予防には効果的かもしれないが、

世界で勝負できるような突き抜けた選手になるためには、

正しいとは言えないが筋肉に対してはとにかく効果的なやり方、

というのが必要かもしれないな、

となります。

感覚として良いことが必ずしも正しいわけではなく、

理屈として正しいことが全てにおいて正しいわけではなく。

その場に応じて最適な答えというのはあるのだと思いますが、

解明されていること、知っていることなど見る人によって異なるので、

本当にやるべきことというのは実践しているかどうかは不明なのだろうと思います。

素振りも本当に効果が出るのはエネルギーが減った所からと森谷先生は言っていましたが、
技術的な所とエネルギーの面から見た話はまた別ですし。

幅広い知識をもって多角的に物事を捉えて、

ベストな答えを導いていくのが大事だという当たり前のことを再認識させて頂きました。

まだまだ知らないことはたくさんありますので、

引き続き勉強していこうと思います。

2017年12月10日日曜日

日本スプリント学会第28回大会雑感、初日

2017年12月9(土)~10(日)の日程において、

三重県の皇學館大学を会場として行われましたスプリント学会へ参加しての感想です。

初日の最初はシンポジウム1として高野進先生(東海大)と、

河野匡監督(大塚製薬陸上部)が「リレー、駅伝はこの力を伸ばしているのか?」

というテーマでの講演をされました。

 高野先生はリレーの強化によって選手個人が他者と交流するようになり、

心理的要因・技術的要因・戦略的要因に好影響を与えたという話。

しかし、4×100mリレーに関しては良い影響を与えているが、

4×400mリレーには影響が無く、

現状の選手のポテンシャルのままでは期待できないとバッサリ。

河野監督は日本陸連の強化委員会としての立場もありますが、

まずは大塚製薬の陸上部に関する話をされ、

教育ということを大事にしている、というのを図示されていました。

その後、長距離の現状という話になり、

世界記録に対して90%達成率の選手は多いが、93%になると激減し、

95%になるとほぼいないというデータを出され、

箱根駅伝により一定の層は厚いが世界と戦えるレベルがいない、

ということを示されていました。

マラソングランドチャンピンシップのシステムやオリンピックの選考の話、

今後の方針として長距離の指導者におけるライセンス制度の導入や、

3000mを強化する方向性などの話がありました。

その他、現在の長距離の指導やシステムに対する厳しいお言葉が多数。

また、質疑応答で箱根駅伝に関するものが出ましたが、

高野先生から箱根駅伝の全国化という話は学連の会議などでは出ていないガセネタと、

というお話がありました。

午後は熊本水賴先生(京都大学名誉教授)による二関節筋のお話から。

二関節筋の基本的な説明を丁寧にされながらの話で、

走っている時の姿勢、角度が少し違うだけで筋肉の力発揮が大きく変わるという点や、

主動筋と拮抗筋という言葉が使われるが、

これは昔からの用語として使われていて、そのように教えていることに問題があるが、

拮抗筋と呼ぶものも見る時によっては主動筋であるということを語られていました、

会場に人が一気に増えた記念講演では、

土江寛裕コーチ(東洋大)、柴田博之先生(洛南高等学校)が桐生祥秀選手(東洋大)に関する話をされ、

最後に三人が登壇をして質疑応答が行われました。

土江コーチは大学時代の練習のテーマやどのようなことをやったか、

という話をされていました。

コンセプトとしては”接地中の移動距離を大きくする”というものだそうです。

実際、これがストライドを大きくするにはとても大事ですので、

これを間違っていたら今年の結果は無かったのでは、

と個人的には思いました。

柴田先生は高校時代の桐生選手の話を当時の他の選手の話を交えつつ、

寝ている桐生選手に注意をして起こしつつ、

話を進められていきました。

興味深かった点としてましては、

”獲得と消失”
”プラスがあればマイナスもある”

”大きく変化をさせない”
”この練習をやっていけばこうなるだろう”

というものがあります。

練習をやったことで必ずプラスが積み重なるわけではないという、

意外と忘れがちな点をしっかりと認識させて、

病院などと連携してデータを取って、

故障をしていなくても予防のために故障として扱うなどといったものがありました。

質疑応答では桐生選手の高校時代のウォーミングアップについて聞かれ、

”私が見に行くと選手が私に見せるためのアップをするのでほとんど見ないから知らない”

と答えていました。

”「チラッと見た時もあるがやっていた記憶が無い。お前やってた?」”
”「ほぼやってません」”

というやり取りもありました。

アップに関しては土江コーチからはやらせ過ぎて失敗したので今は見守る、

というコメントがありました。

高校から大学へと移行する過程でやりたいことが出来た、

様々なことがあり多くの人に世話になるなかで上手く流れがつながった、

というのが結果につながったのかなと思いました。

招待講演1の小田俊明先生(兵庫教育大学) は、

「筋腱の力学的性質とランニングにおけるその重要性」

というテーマで中長距離のケニア人選手のデータから、

slackが少ないことで効率の良い力発揮をしているということを示し、

短距離や日本人ではどうかといった話をされました。

足関節の硬さと筋のstiffnessが高いことが競技力と相関がある、

と。

相関(決定係数)の説明も丁寧にされていたので、

とても分かりやすかったと思います。

柴田先生の話の中に”洛南高校の選手は足首が硬い子に強い子が多いが、

これが練習によるものなのか先天的なものなのかは分からない”

というものがありましたが、

足首が硬い方がパフォーマンスは高いというデータはあるということです。

トレーニングで硬くする方法もありますし、

そうした点を意識してやっていくのは大事ですね。

初日の最後は奥脇透先生(国立スポーツ科学センター)による

「疾走中に起こる肉離れについて」

というテーマでのお話でした。

どうして肉離れが起こるのかというのを解剖学的に見ていき、

肉離れというのは膜が離れているのが正しそう、

とのことでした。

重症となる肉離れが起こりやすいのはバトンパスやフィニッシュの姿勢であり、

その他にもねじる動作があったりすると起こりやすいが、

完全に予防するのは難しい、

膜がしっかりと元に戻ったことを確認してから競技に復帰して再発を防ぐ、

鍛える動作を変えるなどやれば、とのことでした。

2017年11月2日木曜日

タバコの煙による悪影響は運動によって低下させることができる

Exercise training reverses inflammation and muscle wasting after tobacco smoke exposure

http://ajpregu.physiology.org/content/early/2017/10/25/ajpregu.00316.2017
















2017年10月25日水曜日

筋原線維のタンパク質合成はレジスタンストレーニング後24時間続く

Enhanced Amino Acid Sensitivity of Myofibrillar Protein Synthesis Persists for up to 24 h after Resistance Exercise in Young Men


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21289204

J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73. doi: 10.3945/jn.110.135038. Epub 2011 Feb 2.

Burd NA, West DW, Moore DR, Atherton PJ, Staples AW, Prior T, Tang JE, Rennie MJ, Baker SK, Phillips SM.

運動後の筋肉の合成は1~4時間程度に関して多くの研究がされている(1~5)。

また、レジスタンストレーニングにおける合成も多く研究されている。

一方で、24時間での合成などに関しては不明な点も多い。

高齢者ではインスリンによる影響で20時間に渡って合成が高まると言われる(9)。

この論文の著者らは(10)や(11)において筋肉の合成効果は強度ではなく収縮活動の量に応じることを明らかにした。

しかし、強度や量がどの程度で刺激となるかは不明のままである。

この論文における研究は通常時とレジスタンストレーニング後の筋肉の合成の違いを調べた。

被験者は15人の活動的な若い男性、BMIは24。

実験プロトコルは(10) で用いたものを使用。

(10)
Low-Load High Volume Resistance Exercise Stimulates Muscle Protein Synthesis More Than High-Load Low Volume Resistance Exercise in Young Menhttp://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0012033

1RMの90%を持続出来なくなるまで(90FAIL)
1RMの30%で仕事量を90FAILと同じにしたもの(30WM)
1RMの30%を持続出来なくなるまで(30FAIL)

結果

筋原線維のタンパク質合成速度(FSR)は90FAILと30FAILにおいて、

レジスタンストレーニング後24~27時間でコントロール群より有意に高かった。

Akt on Ser473の変化は90FAILにおいて有意に高かった。

mTOR on Ser2448の変化は30FAILにおいて有意に高かった。

4E-BP1 on Thr37/46はどの群においてもレジスタンストレーニング後群が有意に高かった。

p70S6K on Thr389はどの群でも差が見られなかった。

考察

既に運動とタンパク質の摂取によって24時間のタンパク質合成の上昇は確認されており、

今回の結果は 驚くものでは無かった。

タンパク質の合成を高めるには速筋の動員が重要であると推測される。

速筋が動員された後、筋線維の動員が速筋、遅筋ともに行われることで、

24時間後のタンパク質合成を高めると考えられる。

このことから負荷に関しては質と量が大事であろうと推測される。

しかし、どういったものが最適なのかは今回の実験からは不明のままである。


Free


2011年の論文ですが、量と質の両方が筋肥大の刺激となりますよ、

という話ですね。

負荷というものが質と量の両面で考えるものというのが理解できていないと、

説明する際に勘違いして理解されそうな話でもあります。

仕事量を90FAILと同じにした30WMでは筋肉の合成が大きくないという点は大事ですね。

軽いのでやる場合は徹底的にしっかりとやる。

疲れて動かないという状態までやるのが必要である、ということで。

あとは24時間もトレーニング効果の残存がある点から、

タンパク質の摂取はそうしたところも意識してするべき、

となるかと思います。