2017年12月10日日曜日

日本スプリント学会第28回大会雑感、初日

2017年12月9(土)~10(日)の日程において、

三重県の皇學館大学を会場として行われましたスプリント学会へ参加しての感想です。

初日の最初はシンポジウム1として高野進先生(東海大)と、

河野匡監督(大塚製薬陸上部)が「リレー、駅伝はこの力を伸ばしているのか?」

というテーマでの講演をされました。

 高野先生はリレーの強化によって選手個人が他者と交流するようになり、

心理的要因・技術的要因・戦略的要因に好影響を与えたという話。

しかし、4×100mリレーに関しては良い影響を与えているが、

4×400mリレーには影響が無く、

現状の選手のポテンシャルのままでは期待できないとバッサリ。

河野監督は日本陸連の強化委員会としての立場もありますが、

まずは大塚製薬の陸上部に関する話をされ、

教育ということを大事にしている、というのを図示されていました。

その後、長距離の現状という話になり、

世界記録に対して90%達成率の選手は多いが、93%になると激減し、

95%になるとほぼいないというデータを出され、

箱根駅伝により一定の層は厚いが世界と戦えるレベルがいない、

ということを示されていました。

マラソングランドチャンピンシップのシステムやオリンピックの選考の話、

今後の方針として長距離の指導者におけるライセンス制度の導入や、

3000mを強化する方向性などの話がありました。

その他、現在の長距離の指導やシステムに対する厳しいお言葉が多数。

また、質疑応答で箱根駅伝に関するものが出ましたが、

高野先生から箱根駅伝の全国化という話は学連の会議などでは出ていないガセネタと、

というお話がありました。

午後は熊本水賴先生(京都大学名誉教授)による二関節筋のお話から。

二関節筋の基本的な説明を丁寧にされながらの話で、

走っている時の姿勢、角度が少し違うだけで筋肉の力発揮が大きく変わるという点や、

主動筋と拮抗筋という言葉が使われるが、

これは昔からの用語として使われていて、そのように教えていることに問題があるが、

拮抗筋と呼ぶものも見る時によっては主動筋であるということを語られていました、

会場に人が一気に増えた記念講演では、

土江寛裕コーチ(東洋大)、柴田博之先生(洛南高等学校)が桐生祥秀選手(東洋大)に関する話をされ、

最後に三人が登壇をして質疑応答が行われました。

土江コーチは大学時代の練習のテーマやどのようなことをやったか、

という話をされていました。

コンセプトとしては”接地中の移動距離を大きくする”というものだそうです。

実際、これがストライドを大きくするにはとても大事ですので、

これを間違っていたら今年の結果は無かったのでは、

と個人的には思いました。

柴田先生は高校時代の桐生選手の話を当時の他の選手の話を交えつつ、

寝ている桐生選手に注意をして起こしつつ、

話を進められていきました。

興味深かった点としてましては、

”獲得と消失”
”プラスがあればマイナスもある”

”大きく変化をさせない”
”この練習をやっていけばこうなるだろう”

というものがあります。

練習をやったことで必ずプラスが積み重なるわけではないという、

意外と忘れがちな点をしっかりと認識させて、

病院などと連携してデータを取って、

故障をしていなくても予防のために故障として扱うなどといったものがありました。

質疑応答では桐生選手の高校時代のウォーミングアップについて聞かれ、

”私が見に行くと選手が私に見せるためのアップをするのでほとんど見ないから知らない”

と答えていました。

”「チラッと見た時もあるがやっていた記憶が無い。お前やってた?」”
”「ほぼやってません」”

というやり取りもありました。

アップに関しては土江コーチからはやらせ過ぎて失敗したので今は見守る、

というコメントがありました。

高校から大学へと移行する過程でやりたいことが出来た、

様々なことがあり多くの人に世話になるなかで上手く流れがつながった、

というのが結果につながったのかなと思いました。

招待講演1の小田俊明先生(兵庫教育大学) は、

「筋腱の力学的性質とランニングにおけるその重要性」

というテーマで中長距離のケニア人選手のデータから、

slackが少ないことで効率の良い力発揮をしているということを示し、

短距離や日本人ではどうかといった話をされました。

足関節の硬さと筋のstiffnessが高いことが競技力と相関がある、

と。

相関(決定係数)の説明も丁寧にされていたので、

とても分かりやすかったと思います。

柴田先生の話の中に”洛南高校の選手は足首が硬い子に強い子が多いが、

これが練習によるものなのか先天的なものなのかは分からない”

というものがありましたが、

足首が硬い方がパフォーマンスは高いというデータはあるということです。

トレーニングで硬くする方法もありますし、

そうした点を意識してやっていくのは大事ですね。

初日の最後は奥脇透先生(国立スポーツ科学センター)による

「疾走中に起こる肉離れについて」

というテーマでのお話でした。

どうして肉離れが起こるのかというのを解剖学的に見ていき、

肉離れというのは膜が離れているのが正しそう、

とのことでした。

重症となる肉離れが起こりやすいのはバトンパスやフィニッシュの姿勢であり、

その他にもねじる動作があったりすると起こりやすいが、

完全に予防するのは難しい、

膜がしっかりと元に戻ったことを確認してから競技に復帰して再発を防ぐ、

鍛える動作を変えるなどやれば、とのことでした。

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