2017年2月15日水曜日

東京大学大学院農学生命科学研究科社会連携講座「栄養・生命科学」キックオフシンポジウム雑感

2017年2月14日に東京大学弥生講堂・一条ホールにて開催されました、

東京大学大学院農学生命科学研究科社会連携講座「栄養・生命科学」キックオフシンポジウムを眺めてきました。

協賛はサントリーグローバルイノベーションセンター株式会社。

寄付講座ではなくて社会連携講座ということで、

研究成果に基づいた知財を大学と出資企業が共有するなどなどの解説が、

一番最初に佐藤隆一郎先生からありましてから、

講演が4題。

まずは阿部啓子先生による「次世代機能性食品の学術基盤と産業」という講演。

阿部先生がどのような研究をされているのかという話と現在の社会に関わる問題から、

食品開発に関しての話、食品がもたらすとされる健康への影響とそのエビデンス、

といったキックオフシンポジウムの一番手として大事なところを押さえる発表でした。

最後の方ではご自身の研究の詳しい点にも触れられまして、

”skn-1欠損マウスでは味蕾の甘・苦・うま味細胞が完全に消失”

”カテコールアミンの尿中分泌量がSkn-1欠損マウスで有意に増加”

”血清中総ケトン体の上昇、腓腹筋ミトコンドリアのコピー数増加、脂肪分解の亢進、および、インスリン分泌量が低下”

といったことが紹介されました。上記に関しては以下のリンクより引用。
 
「腸脳軸を介した新しいエネルギー代謝調節機構を解明」
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2016/20160531-1.html

二番目は佐藤隆一郎先生による「骨格筋機能と食品成分の接点を科学する」という講演。

こちらはご自身の研究を中心とした発表なのか、

次々とスライドが流れていく速いテンポのものでしたので、

会場の中でついて行けた人がどれくらいいたのかな、

と思う所ですがとても面白かったです。

最初の方にあったのはAICAR(Acadesine) の話でampkの活性を高めるが、

これはドーピングに指定されているので使えないですね、

といった話。

AMPK and PPARdelta agonists are exercise mimetics
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18674809
Cell. 2008 Aug 8;134(3):405-15 


AICARに関してはWikipediaの記事でも見てもらいますと分かりますが、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%82%B7%E3%83%B3

2008年に注目されて2009年には禁止物質リスト入りというスピーディな対応。

そして2009年には検出されている。

2013年の記事ですが、自転車界隈では頻繁に使われる代物ですね。

http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=20239

この話が理解できると話題になっているジャマイカの短距離選手のドーピング問題の話も理解できると思います。

まぁこのドーピング話はまた別でやります。

AICARとは異なるものではレスベラトロールなんかに注目


詳しい内容は以下のリンクよりPDFをご覧ください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/25/1/25_35/_pdf

TGR5と胆汁酸という話で、

食事による胆汁酸の分泌が筋肥大に関わってくるということで、

しっかり食事しましょうね、

という理解をさせて頂きました(食べないと強くなれない派ですので...)。

ノートカトンやノミリン、オバクノンなど柑橘類の中にある苦み成分に効果があるものがありそう、

といった話でゆずを使って笑いが取れなかったのは何でですかね。

そこまで話についていけなかったのか、

真面目な話に唐突な仕込みネタだったからか。

まぁ柑橘類を食べる時は種まで食べましょうね、

とっても苦くておいしくは無いですけど、

ということを受け取りました。

休憩を挟んでの三番目は森谷敏夫先生(京都産業大)の講演。

「筋肉は偉大な臓器である」という題でのお話でした。

かなり久しぶりに講演を見ましたが、

相変わらず巧みな話術でした。

【筋肉はロコもを予防・改善する臓器である 】
【筋育は肥満・メタボを予防・改善する臓器である】
【筋肉は糖尿病を予防・改善する臓器である】
【筋育は脳萎縮・認知症を予防・改善する臓器である】

この四点が抄録には項目として記載され解説が書かれていましたが、

それをスライドと話術で説得力を高めるのはさすがでした。

アイリシンの話では運動によって白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に機能が近づくという説明をし、

だから運動が必要なんだと強く述べられました。

アイリシンに関してはコチラからPDFをどうぞ。

また、自律神経が働くことで褐色脂肪細胞が働くのだから、

カロリー制限をするな、運動をしろ!!

ということも力強く述べられました。

栄養士の方々は100kcalを食事制限すれば楽だと言うが、

それは将来の寝たきり患者を作ることになるからやめろ、

という感じの話でしたね、

私もそう思います。

ケトン体の話もされていましたが、

脳がどれだけのエネルギーを使うと思っているんだ、

ということでした。

私もそう思います。

運動を適度にしてカロリーを消費することには身体を作る意味もある。

全く運動をしないでカロリー制限をして痩せるというのは悪循環しか生まないので、

適度に運動をしてカロリーを消費して、しっかり食べて生活しよう、

と。痩せるために運動というのよりも、将来の足腰予防のために若いうちから適度な運動を、

ということです。カロリー摂取量の少ない人は高齢者になってからの状態がよろしくない

そういうデータも示されましたし。

この辺りは本当に栄養士の方々には話が通じない点でして、

とにかく痩せることがゴールであって身体が弱ることは気にしない、

という指導をしていることに早く気が付いてもらいたいものですね。

また、糖尿病は遺伝が原因だという医者の方々の勉強不足も嘆いておりました。

これもまったくもってその通りの話でして、

宇宙飛行士は二週間の滞在で糖尿病になることからも分かるわけですが、


遺伝だからと思っている人が多過ぎる。

勉強をしろ、


と。

宇宙で人体に生じるあれこれに関する記事です。
http://www.afpbb.com/articles/-/3084764

私は大学院での研究の一つが宇宙飛行士の筋肥大というのがありましたので、

この辺りは「ですよね」 と思いながら聞かせて頂きました。

宇宙では筋肉の萎縮や機能が弱ることから糖の分解が行えなくなるわけです。

インスリンでの取り込みとGLUT4を使った取り込みの経路があるのに、

片方しか使えなくなったら、多くある筋肉が使えなくなったら糖尿病になってもおかしくない、

糖尿病の原因は筋肉がダメになること、運動をしろ!!

という具合で栄養士の方々に続きまして医者の方々への熱い語り。

この熱さが届かないのは医者の方々が運動生理学を学ばないからなんでしょうね。

まぁ講演を通して、とにかく運動をしろという当たり前の話しかされていませんでしたが、

どうして運動が必要なのかということを分かっておらず、

カロリー制限だけで終わらせようとする人が多いというこの現実はどうしようもないかな、とも思ってしまいます。

これをお読みの皆様は、簡単な運動で良いですので、

筋肉を維持する・少し増やすような運動をやりましょう。

しっかりと食べましょう。

食べないから、運動しないから身体がダメになる、病気になる、ということです。

20分歩くといったことからでもやりましょう。

そして最後は山内祥生先生による「社会連携講座「栄養・生命科学」が目指す研究」という講演。

森谷先生の後でやりにくいというボヤキから始まりまして、

ご自身の研究を紹介され、今後はどのような研究をして連携講座の役割を担っていくか、

という話へとまとめていかれました。

基礎的な話と研究の話を淡々とされていたので真新しい点はあまりありませんでしたが、

多い少ないの問題があるにせよコレステロールはやはり大事だよな、

ということや再び出てきた胆汁酸の話もありまして、

胆汁酸に興味を持ちました。



森谷先生の講演を聞くために行ったようなものでしたが、

その他の講演も楽しく聞けました。

やはり様々な分野の話を聞いても、

どこかで必ず絡んでくる話はあるので、

そうした点をより深く掘っていくと面白いですね。

そして何より森谷先生の講演がとてもインパクトがありました。

痩せようと思わないでも良いから軽くスクワットをしてみるとか、

何かしらの簡単な運動をして身体に刺激をいれることが脳から神経から筋肉から、

全身のありとあらゆることに良い影響がもたらされるわけですから、

運動をしましょう。

カロリー制限は最後の奥の手としてとっておきましょう、

という感じでしょうか。

なお、懇親会の前に個人的な質問を森谷先生させて頂きましたが、

私が推定していた通りの数値を先生も 仰られていましたので、

アスリートがパフォーマンスを落とさないようにするレベルだと、ケトン体でまかなうのは無理!!

という私からのメッセージを残しまして、

以上とさせて頂きます。

タンパク質の種類によって摂取後の血中のインスリンとグルカゴンの反応は異なるのか?

Plasma Glucagon and Insulin Responses Depend on the Rate of Appearance of Amino Acids after Ingestion of Different Protein Solutions in Humans
http://jn.nutrition.org/content/132/8/2174.abstract

J. Nutr. August 1, 2002 vol. 132 no. 8 2174-2182

Jose A. L. Calbet and Dave A. MacLean

2002年の論文です。

男性3人女性3人の被験者。

深夜の絶食と胃の洗浄を実施してから測定。

エンドウ豆、ホエイ、牛乳から作られたミルクプロテインの3種類の比較。

インスリンがタンパク質の分解を抑制し、

グルカゴンがアミノ酸の分解を促進すると言われているから、

3種類のタンパク質の摂取後にどのような変化が起こるかを調べてみました、

という具合です。

グルカゴンの反応は血中のアミノ酸濃度(チロシン、メチオニン)に応じている(直線的な相関)。

インスリンはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニンおよびアルギニンが影響する。



まぁソイでもホエイでもカゼインでもどれを摂取しても効果はあると言われますが、

当然ながらしっかりと見るとそれぞれ特性はある。

筋肉の合成という面から考えるとホエイが最も強い作用を持つということになりますかね。

あとは量でしょうかね。

ミルクに関しては特別魅力を感じられるデータがあまりないと思うところです。

2017年2月14日火曜日

レジスタンストレーニング後のアミノ酸の輸送とタンパク質の代謝回転は上昇する

Increased rates of muscle protein turnover and amino acid transport after resistance exercise in humans

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7900797/

Am J Physiol. 1995 Mar;268(3 Pt 1):E514-20.

Biolo G, Maggi SP, Williams BD, Tipton KD, Wolfe RR.

トレーニングを日常的に行っていない被験者で実験。

ロイシン、リシン、アラニンの輸送速度は有意に上昇。

この点からタンパク質の分解・合成の速度上昇は、

タンパク質の合成に対する刺激となると考えられる。



1995年の論文です。アミノ酸の摂取によるものなどは見ていない、

単純にトレーニングの刺激が筋肉にどのような変化をもたらすかを見たデータです。

今となってはタンパク質の摂取による筋肉の合成上昇、

ウエイトトレーニングよる刺激などは当たり前となっていますが、

基礎的な点を見たデータを見直すのは大事ですね。

ここから見えてくるものもありますし。

2017年2月13日月曜日

大豆とミルク由来タンパク質から生じるアミノ酸の食後の動態

Postprandial Kinetics of Dietary Amino Acids Are the Main Determinant of Their Metabolism after Soy or Milk Protein Ingestion in Humans

http://jn.nutrition.org/content/133/5/1308.full

J. Nutr. May 1, 2003 vol. 133 no. 5 1308-1315

Cécile Bos, Cornelia C. Metges,Claire Gaudichon,Klaus J. Petzke,Maria E. Pueyo,
Céline Morens, Julia Everwand,Robert Benamouzig, and Daniel Tomé
大豆とミルクでは含有しているタンパク質の成分構成が異なるため、

消化や吸収に掛かる時間が異なる。

この辺りを明らかにするために男女16名の被験者を用いて実験。

平均年齢28歳でBMIが21前後なので標準的でしょう。

体重あたり46kj/kg、タンパク質15%、炭水化物55%、脂質30%と食事を統一。

27.6 ± 6.6 g in the milk group
21.9 ± 3.9 g in the soy group

違いは大豆群の方が被験者の体重が低かったことで生じた。

N15ラベルで追跡して結果を分析。

大豆の方が消化が素早く行われるという変化が確認された。

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2003年に出された論文ですので、

カゼインとソイでの違いの初期的な研究ですね。

タンパク質の組成の違いというよりは消化に掛かる時間の違いが体内での動態にも違いを生む、

という具合ですね。

この辺りから考えられることは、

食事の量などもタンパク質の摂取に影響を与えるであろうということで、

その後の研究の流れになっていく、

という具合ですかね。

ただ、

現状の捉え方が異なっている感じは否めません。

この頃のデータだけを見て考えたりしている話も見られますし、

後を追う、昔のを調べなおすというのは大事ですね。

2017年2月12日日曜日

レジスタンストレーニング後の無脂肪乳の摂取は同量の大豆タンパク質飲料よりも筋肉をより多く増加させる

Consumption of fluid skim milk promotes greater muscle protein accretion after resistance exercise than does consumption of an isonitrogenous and isoenergetic soy-protein beverage

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17413102

Am J Clin Nutr. 2007 Apr;85(4):1031-40.

Wilkinson SB, Tarnopolsky MA, Macdonald MJ, Macdonald JR, Armstrong D, Phillips SM.

無脂肪乳の摂取と大豆由来のタンパク質含有飲料での比較です。

18gのタンパク質の摂取とし、

飲料の内容成分もしっかりと書いてあります。

週に4回のトレーニングをしている若い男性という条件もありますし、

実際のトレーニングに役立ちそうなものです。

やや体重が重いかなといった所ですかね。

大豆由来のタンパク質の方が素早く血中のアミノ酸濃度が上昇し、

ミルク由来のタンパク質は血中アミノ酸濃度が上昇しにくいが、

3時間以上それなりの値をキープするという有名なグラフがあります。

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カゼイン、ソイ、ホエイのプロテイン話を調べなおしていこうと思いまして、

まずは10年前の論文から。

近年はロイシンの含有量が大事であるということが言われていますが、

その辺りの話の初期段階を見直していき、

何だかおかしな話が生まれていった原因を探ろう、

という目的です。

血中アミノ酸が上がることで刺激が起こって筋肉が合成されるわけですが、

その量が少ないと刺激としては不十分。

カゼインのように吸収が遅いものは血中アミノ酸を高めないので、

筋肥大の能力は弱いということが現在は指摘されています。

この論文を読むと、

確かに睡眠中などにはカゼインの方が良いかもしれないと言えますが、

合成も起こらないということを考えるとどうなのかな、

という具合ですね。

その他の食事由来のタンパク質なども考えると、

カゼインの有用性は疑問なのではというのが私の現在の考えです。