2015年11月28日と29日の二日間に渡って、
日本女子体育大学を会場として第14回となる陸上競技学会が開催された。
本年のテーマは
「女性とスポーツ –妊娠・出産に関わるアスリート活動−」
となっており、
”妊娠・出産を経験した女性アスリートが競技復帰を果たすまでにどのような問題があったのか,そしてこうした問題をどのように克服していったのかについて,経験者の体験を踏まて,議論を展開したいと考えています”
ということで、
千葉 麻美(東邦銀行)
福本 幸(甲南大学AC)
赤羽 有紀子(ホクレン)
コーディネーター 鯉川 なつえ(順天堂大学)
(以上、敬称略)という面々でのシンポジウムが初日の午後に行われた。
それに先立って難波 聡(埼玉医科大学産科婦人科学講師・臨床遺伝専門医・ 日本体育協会公認スポーツドクター・日本陸上競技連盟医事委員)先生による
「婦人科医から見た女性アスリートの現状と将来」
というテーマの基調講演が行われた。
二日目は
「ジャンプス・カンファレンス-走幅跳-」
ということで
越川 一紀(順天堂大学)
森長 正樹(日本大学)
花岡 麻帆(千葉県立幕張総合高等学校)
小山 宏之(京都教育大学)
コーディネーター 広川 龍太郎(東海大北海道)
(敬称略)という日本の跳躍会において優秀な選手を輩出されておられる指導者・研究者の方々、
日本記録保持者といった面々によるシンポジウムが行われた。
カンファレンスと銘打っていたが、
実際にはほぼ一方的な発表が行われてしまったのが残念であった。
さて、少々この二日間のまとめをメモ的に残しておきますと、
初日の午前にありました2015年の世界選手権の分析だか報告に魅力的な内容はありませんでしたので省略。
午後にありました難波先生の話を数点。
・女性アスリートにおいてはBMIが17.5未満になると26%ほどの無月経が観察される
・BMIが17.5~18.5で20%ほどの無月経が観察される
※アスリートでなければこのような低値でも無月経になりにくい
・初経が15歳~18歳だと遅発月経と日本産科婦人科学会は定義している
・12~14歳頃に初経が来るのが望ましい
※体重にすると43kgあたりになる頃に初経がくる
この頃は成長によって体重が必ず増加する!!
・思春期の頃にしっかりと栄養を摂り、成長を促して骨密度を高めることが重要
※疲労骨折の増加なども防げる
・無月経などの経験者でも競技を辞めるとすぐに定月経に戻ることが多い
※体重が増えることで戻りやすい傾向
こうした発表がありました。やはり成長期なのだから体重が増えるのが当たり前。
太ったのではなく骨や筋肉、内臓などが大きくなるということを指導する側も選手も理解して、
記録に拘らずにその後を見据えて我慢するのも大事だと思われます。
その後のシンポジウムでは各シンポジストの実体験による報告がされ、
三人とも出産近くまで軽い運動を継続し、
出産後も早期に運動を再開したという点が共通していました。
これに関してはコーディネーターの鯉川先生が世界の選手のデータを示し、
産後に競技に復帰したが元のレベルに戻らなかった選手は、
出産前後の半年ほど運動をしていなかったという特徴を指摘されていました。
軽度の運動を医師の指導を受けつつしっかりと行った方が良い、
そういったお話でした。
二日目のジャンプスカンファレンスでは各演者の経験による発表がなされ、
小山先生からは助走スピードの高さと跳躍距離は正の相関関係にあるという報告が。
これは昔から言われ続けている点ですので、
ではどうやったら助走スピードが高まるのか?という話に論点が移行する日を待ちたいと思います。
10年くらい同じ話を聞いていますね。
もちろん、助走スピードが高ければ必ずしも良いわけでは無く、
跳躍技術によっても記録は変化します。
そして助走スピードと100Mのタイムを10種競技の選手で比較したところ、
100Mの最高スピードの95%前後が助走のスピードとなったとのこと。
この点も考えるべきことは多いですが、
そういうデータがある、ということで。
森長先生はやはりPBを如何に上げて本番(オリンピックや世界選手権)い挑めるかが大事、
といった話を。
海外の大会においては向かい風1mくらいの感覚(国内の良い条件で出来ると思わない)、
その他、技術的な話や自らのコントロールテストの変化などを示しながら説明されていました。
ただ、
コントロールテストの記録が大幅に向上しても、
日本記録を再び更新できなかったという点には、
跳躍種目の持つ技術の難しさ(助走における走る技術、踏み切りにおける技術など)があると考えられます。
越川先生は花岡先生を指導していた時のお話を中心に、
花岡先生は昔を振り返りつつ様々なお話を。
試合の前日にケンカした話なんかもありましたが、
指導者である越川先生のポジティブなところが結果につながったと思う、
と。
まぁしかし、技術的な点は10年前のスプリント学会で聞いた話と同じですし、
横浜国立大で真夏にやった時はグラウンドで実演がありましたので、
あぁいった形式でモデルとなる選手を使って動作をやらせながらアレコレ言うのがカンファレンスとしては良いかもな、
と個人的には思います。
以上、
駆け足ではありますが簡単にまとめさせて頂きました。
女性を指導する人は”成長期”という点や”痩せれば速く走れる”といった点をもう一度見直して、
選手が確実に成長できるようにサポート出来れば良いかと思います。
なお、ポスター発表に関しましては、
そのレベルがなんとも言えないものでありますので、
個別の評価は控えさせて頂きます。
一つ言えるのは、「だから何?」という発表が多い点ですね。
この種目、動作をやっている選手で記録が良い人と悪い人の差はどこにあるのか?
というのを調べたとして、
良い選手と悪い選手ではここに違いがありました、
という一か所だけを断定するというのは無理ですよ。
それ以外に隠されている指標があるかもしれませんから。
もちろん、
統計的にそういった傾向が見られるので判断材料の一つとしては使えるでしょう。
が、
ではどうやったら記録を伸ばすことが出来るのか、
というのにつながるような提言はありません。
バイメカの欠点というか、結論を出して終わりの学問になってしまっている現状の問題点というか。
座長の先生にぶった切られた発表者の方とは懇親会で話をさせて頂きましたが、
投擲においてより重いものを用いたトレーニングが一つの引き出しを増やすきっかけとなる、
新しい考えを見いだせる、新たな感覚を得られるという程度の考えならば良いけれども、
それが良いトレーニングである、とは言えないわけです。
投擲動作は上半身と下半身で動作をするわけですから、
負荷が高くなることでどこかに無理な動作が生じる可能性はあります。
そうなると、実際の動作とは明らかに異なった力発揮をすることになり、
より重い負荷でやるのが動作習得にもなって良い、
ということは言えません。
そうした、深く先を考える、多角的に見て検討するといった点が抜け落ちている、
仮定を立てて過程を組み立てる、
そんな感じが多くの発表から見受けられました。
生理学的な観点の発表が無いのも問題ですよ。
現場で測定して簡単に数値を出して指導に役立てている人もいるでしょうから、
そうした人に発表をしてもらいたい所です。
ちょっとあの発表を目の当たりにすると、
日本の陸上競技に関する論文のレベルの低さ、
固定観念によるこの動作が良い!!という主張の多さに辟易してしまいます。
競技経験者による指導と非経験者による指導の比較なんていう話ですと、
経験している人が上にあると考えている事からしておかしな話ですからね。
もっと頑張りましょう、
といったところですね。