2023年8月9日水曜日

長時間の静的ストレッチが、膝伸展筋の筋力変動の強度を高め、複雑性を低下させる

Prolonged static stretching increases the magnitude and decreases the complexity of knee extensor muscle force fluctuations
Jamie Pethick,et.al PLoS One. 2023; 18(7): e0288167.
Published online 2023 Jul 21. doi: 10.1371/journal.pone.0288167

・ウォームアップは持久的な軽い運動やストレッチ、競技で行われる運動に類似した特定の運動などから成り立っている[2]。ストレッチに関して、静的、動的、弾性、および固有の神経筋促通(PNF)の4つの主要なタイプが認識されているが[2]、長年に渡って静的ストレッチ(SS)がウォームアップに組み込まれてきた[3]
・SSは筋肉をストレッチ感覚が得られるまでまたは不快感が到達するまで伸ばし[4]、その位置で15から60秒間保持するものであり[6]、その目標は、可動域の増加、筋腱損傷の発生率の減少、運動能力の向上など[1、3]にある。可動域の改善については強いエビデンスがある[7]
・適切なウォームアップなしに長時間(筋群ごとに60秒以上)のSSを行うと、運動能力を低下させるという結果も示唆されている[8]
・運動前のSSが最大筋力パフォーマンスを低下させることを示す研究は多く、ストレッチの持続時間と最大筋力パフォーマンスの減少の大きさとの間に関係が見られる[12、13]
・60秒以上のストレッチは最大筋力の有意な減少をもたらす[8、13]。よって、最大筋力を発揮したい運動の前に長時間のSSを行うことは避けるべきである[14]。ただ、最大筋力はパフォーマンスの唯一の決定因子ではなく、筋力を制御する能力、適切なレベルの力を正確に生成する能力も運動能力の決定に重要[15]であるが、研究はほとんど行われていない
・筋力の発揮はゆらぎがあることが分かっており、筋力をコントロールすることは、パフォーマンスに重要な影響を及ぼす可能性がある。神経筋疲労は力の変動 [21] の大きさの増加と複雑さの減少によるものであり、力の安定性の低下と適応性の低下 [22] を示す。このような変化は運動課題の失敗リスクを増加させるとされており[15]、スキルを必要とする動作のパフォーマンスの低下につながる可能性がある
・筋単位の選択や放電率の変化が力の制御の変化に関係があるとされている[23]。最大筋力の発揮に対するSSによる減少の影響は、筋単位の活性化[10]および放電率[24、25]の変化と関連している。これはSSが筋力制御に影響を与える可能性があることを示唆している。これらの筋単位の行動の変化は、60秒未満のSSの影響を受けないと考えられている[2]。
・本研究の目的は、急性のSSが筋力制御に与える影響を調査し、力の変動の大きさ(すなわち、SD、CV)および複雑性(すなわち、ApEn、DFA α)に応じて定量化することであり、60秒以上の長時間のSSが膝伸展筋の力の変動の大きさを増加させ、複雑性を減少させる結果が示され、力の制御の低下を示す応答が想定された

・12名の健康な男性(年齢23.8±5.3歳、身長1.77±0.05m、体重76.8±6.2kg)で週2~3回軽い運動を行っている。実験前の24時間に激しい運動をしておらず、実験前の3時間に食事やカフェイン飲料を摂取していない

・SSの前に3秒間の等尺性膝伸展MVCを実施。これらのMVCは60秒間の休息で区切られ、連続した3回の収縮のピーク力が互いに5%以内になるまで続けられ、最初に行った3回の収縮で5%以内の値を達成したものがほとんであった。参加者に3秒間のカウントダウンが行われ、最大限の力発揮が行われた。SSプロトコルの直後と10分後の測定では、各時点でMVCを1回のみ実施した。
・5分間休息した後、25、50、75%MVCで一連の間欠的等尺性膝伸筋収縮を行った
・事前のストレッチングMVCと一定の力のタスクを実行した後、被験者は休憩してからストレッチなし、30秒、60秒、120秒。4つの条件でストレッチを実施。不快感を感じ始める位置で保持される立位の大腿四頭筋ストレッチ[5]。ストレッチのない条件では室内を120秒歩き回り、筋肉の温度をSSによって達成されるレベルと同様に保った
・ストレッチ終了直後、被験者はダイナモメーターでMVCタスクを実施、ストレッチ終了から1分後に開始され、1回のMVCのみを行った。事後の力の制御タスクは、さらに30秒後に開始し、SS介入前と同じ手順、および目標力が使用された。これは、ストレッチ終了後10分後に繰り返されました。

・本研究ではSSがその後の最大下等尺性収縮中の膝伸展筋力の制御を低下させることを明らかにした。120秒間のSSは、50%および75%MVCでの収縮中の力の変動の大きさを増加させ、複雑さを減少させた。これらの反応はarEMGの増加を伴っており、運動単位プールの活性化が進んでいると考えられるが、25%MVCでの収縮時には力制御の変化は認められなかった。
・60秒以下のストレッチは力制御に影響を及ぼさなかった。これらの結果から、長時間のSSの影響は、最大筋力を必要とする運動だけでなく、中強度から高強度の筋収縮において正確な筋力発揮を行う際にも影響があると考えられる
・長時間のSSに続く筋力の制御の低下は、その後の運動パフォーマンスに影響を与える可能性がある。力を制御する能力が高いほど疲労抵抗力が高くなるので、今回観察された力の制御の低下は、持久的な運動において制限値に達するのにかかる時間が短くなる可能性が感がられる[34]。また、力の制御の低下は、転倒とそれに続く怪我のリスクが増加する可能性があるとされるが、引き続き研究が必要となる。長時間のSSをやった後に筋力の発揮を制御する必要がある運動を行う場合、10分以上の間を空けるとよいかもしれない
・静的ストレッチによる力の減少は、運動ニューロンの興奮性の低下による可能性が示唆されている[38]
・本研究での120秒のストレッチの持続時間は過度であると考えられるが、以前の研究との比較を可能にするためである[2]。SSの持続時間と力の制御の変化との間に関係があるかを調べるためであったが、力の制御に影響を及ぼす筋単位の挙動の変化は、60秒未満のSSの影響を受けないとされている[2]。また、ストレッチの前に有酸素運動と呼ばれるものを行っておらず、ストレッチの後にも動的なものを行っていない。これも静的ストレッチのみが力の制御に与える影響を単純に調査するためである
・最近のいくつかの研究では、静的ストレッチが総合的なウォームアップ内で利用される場合、その後のパフォーマンスへの影響は微小または良好であることが示されている[41、42]。エアロビックなウォームアップの後に6セットの30秒の静的ストレッチを行った後、大腿の筋肉のEMG出力の複雑性が40% MVCでの等尺性収縮中に増加するという最近の研究もあり[43]、本研究で観察された筋力の複雑性の低下とは対照的である
・静的ストレッチが総合的なウォームアップの一部として行われる場合の力の制御への影響を調査することは、この研究の次のステップである

ストレッチ話が目に入ったので、最近のストレッチ事情を見ていこうと思いまして、とりあえず流れてきた論文を見てみましたが、最大筋力が低下するからというだけで考えてはいけないということですね。最大筋力以外にも必要な出力レベルがある競技は多く、例えばサッカーにおいてターンする時などは出力が必ずしも最大である必要はないけれど、そこでの発揮がおかしくなっていると思った通りの動きにならずに故障リスクが上がってしまう、と。あとは力の発揮と一言で言うけれど、実際には筋肉と神経とその他の諸々が絡んでいる複雑なものであり、単純化して考えすぎてもアカン、ということですね。最大出力だけでトレーニングをする日は120秒もストレッチはしないで30秒以内の軽めのストレッチにして適度に刺激を入れる、その際にまずは全身運動などをやって筋肉を、身体を温めてからやるとストレッチによるマイナス効果はほとんどないよ、ということで。その辺りの論文を次は眺めてみようかなと思います。まぁしかし、120秒も同じ部位をストレッチしている人ってほとんどいないかとは思いますが、喋るのに夢中でずっとストレッチしているという光景は見るので、なかなか微妙なところですね。ストップウォッチを持って何秒くらいやっているかを計測してみると良いかもしれません。大腿部を座った、寝た状態でストレッチをする人は60秒くらいは簡単にやってしまうので。

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