2025年4月26日土曜日

人の骨格筋におけるスプリント運動後のトランスクリプトーム(遺伝子発現プロファイル)

Acute sprint exercise transcriptome in human skeletal muscle
Hakan Claes Rundqvist et.al

introductionより
・スプリント運動の特徴の一つは、特にII型骨格筋線維における急速な筋グリコーゲン分解と大幅なATP分解である。30秒間のスプリントを3回行うと、これらの線維において筋グリコーゲンとATPの含有量は50%以上減少する可能性がある(1)
・もう一つの特徴は、全身のカテコールアミン、成長ホルモン、インスリンの増加に代表される内分泌ストレスである (1–3)
・3つ目の特徴は、運動後に30分以上持続する脚部血流の増加として現れる、運動後の過灌流反応である(4)
・2週間でわずか6回、合計5分未満の全力での30秒間自転車スプリントでも、ミトコンドリア酵素の活性が増加することが示されている(6)
・ミトコンドリア新生に関連するAMPK、p38、PGC-1AのmRNAが上昇することが報告されているが、筋肥大を促進する経路であるmTORの活性化は確認されなかった(7)
・スプリント運動を先に行うことで、レジスタンス運動によって誘導されるAkt/mTORシグナルが抑制されたことが報告されている(10)
・スプリント運動は持久運動と同様に骨格筋の毛細血管新生と血管成長を刺激することが示されているが、この観察結果には異なる見解もある(11, 12)
・全力での自転車スプリントを3回、20分の回復時間を設けて実施した
・健康な20~30歳の男性7人、女性7人でたまに運動をする程度

Discussionより
・遺伝子シグネチャーの解析からは、カルシウムイオン、一酸化窒素、活性酸素種に加えて、成長ホルモン、インスリン、遊離脂肪酸といった運動誘導性の全身因子の活性化も予測された。これらの因子の血中濃度はスプリント中または直後に有意に上昇していた。
・下流の遺伝子発現パターンからは、脂質代謝の活性化が予測され、PGC-1A や PERM1 といった脂質代謝に関わる遺伝子が顕著にアップレギュレートされた
・FZD7(Akt/mTOR経路を正に制御し筋肥大に寄与する)のmRNA発現がスプリント後に増加し、mTOR経路のp70S6kのリン酸化の増加と相関した。FZD7の上流制御因子として働き、成長ホルモンにより制御される可能性のあるWNT9A mRNAの増加は、成長ホルモン濃度の上昇と関連していた
・スプリント運動は萎縮方向の遺伝子もいくつか調節していた。抗萎縮作用を持つ可能性のある新規遺伝子(KLHL40、OTUD1)のmRNA発現も増加していた
・スプリント運動により、PPARGC1A(PGC-1α)の発現は5倍に上昇
・ミトコンドリア転写因子の発現上昇は確認されなかったが、ミトコンドリア輸送体(SLC25A25A、CPT1、UCP3)は上昇
・エストロゲン応答エレメント(ERE)の活性化が予測され、エストロゲン関連受容体γ(ESRRG)およびエストロゲン自体が上流因子として推定された。これは、筋収縮とエストロゲンの両方がEREを活性化するという以前の報告と一致する(46)。
・スプリント運動により、血中遊離脂肪酸(FFA)の濃度が大幅に上昇しており、一部の代謝関連遺伝子の発現上昇にFFAの関与が示唆される
・本研究ではミオスタチンが約50%ダウンレギュレーションされた
・成長ホルモンの上昇、MYOD1やHES1の発現上昇も、ミオスタチンの抑制と関連がある。一方で、ミオスタチンを活性化させる経路も刺激されている。「ミオスタチンのmRNA減少 = 単純な筋肥大」ではないと考えられ、抑制と活性化の両シグナルが混在しており、筋の再構築(リモデリング)プロセスの一部である可能性が高い

自転車でのスプリント運動によって、スプリント運動では負荷が高いのに筋肉が肥大しにくい理由は何なのか、といった点を調べたものです。スプリント運動は”代謝的・構造的な再プログラミングを促す運動様式である”といった点が結論になるのかと思いますが、要は次に向けての準備が行われるのがスプリント運動であり、そこからどうするかが大事になる、といった話になるかと思います。筋肥大を抑制するミオスタチンを大きく抑制しているので、これが継続されていけば、筋肥大はしやすくなっていくので、スプリント運動をしているだけでは増えないけれど、スプリント運動をしなければ筋肥大はしにくくもある、といったことが言えるのかなぁ、と。なので、たまには呼吸が追い込まれるような運動も取り入れてみると、思ったような筋肥大が目指せるのでは、と思います。ただ一方で、肥大を抑制しようともするので、エネルギーの摂取などでのバランス調整も大事でしょう。運動だけでなく食事と睡眠など関連する要素も忘れずに、でしょう。


2025年4月19日土曜日

運動後の冷却は若い男性の筋組織へのアミノ酸の取り込みを鈍らせる

 Post-Exercise Cooling Lowers Skeletal Muscle Microvascular Perfusion and Blunts Amino Acid Incorporation into Muscle Tissue in Active Young Adults

Betz, Milan W et.al
Medicine & Science in Sports & Exercise(), April 18, 2025. 

運動後に冷たい水に浸かることは筋肉の回復を促す方法として広く利用されているが、近年の研究では長期的な適応を妨げる可能性が指摘されている。本研究では、冷却が栄養素(アミノ酸)の取り込みにどう影響するかを検討するため、若年男性を対象に超音波を用いて筋肉内微小血流とアミノ酸取り込み量を測定した。

・若年(24±4歳)の男性12名がレジスタンス運動後に片脚ずつ8°Cと30°Cの水に浸漬し、筋微小血流とアミノ酸取り込みを比較した
・運動直後と冷却後、20gのアミノ酸摂取後の時間経過に応じて血流と筋生検を実施。
・超音波により筋の微小血流(血流量・速度・容積)を定量的に測定。
・冷却脚では血流量が大きく低下し、その後も回復せず。
・アミノ酸の筋タンパク質への取り込み量は冷却脚で約30%低下。
・血流量とアミノ酸取り込みには中等度~強い相関があった。

discussion
・冷却による微小血流の低下は最大約68%で、180分後でも回復していなかった。
・血流の変化は主に微小血流量の減少によるもので、速度には影響なし。
・アミノ酸取り込み低下は、微小血流量との強い相関が示された。
・従来の冷却による回復効果は主観的・心理的要素が強く、筋適応には不利な可能性。
・トレーニング効果を最大化したい人は、冷水浸漬の利用を再考すべきである。
・女性や高齢者では皮下脂肪の影響で効果が異なる可能性もあり、今後の研究が必要。



長年指摘されていることではありますが、アイシングと呼ばれるものをやることでトレーニング効果は下がるよ、といった話です。8度で冷やすということをやっていない人も多いかと思いますが、その場合はアイシングの効果に対して疑問を持とう、となってしまうので、しっかり冷やすか、冷やさないかという点がまずは大事です。そして冷やした場合は3時間経ってもアミノ酸の取り込みは減少したままなので、トレーニング効果はほぼ期待できないといっても良いでしょう。そうなると、心理的な面では回復につながるけれど、トレーニング効果は期待が出来ないから、つらいことをやったけれど効果があるのは回復した感。強くはなりにくい。そうなってしまうので、トレーニングとアイシングの組み合わせはやめましょう、となるかと思います。痛みが出て肉離れのような状態ならばまだしも、翌日の筋肉痛を予防するためにアイシング、といった習慣はやめた方がよいでしょう。女性に関しても恐らくはそんなにデータの違いは無いと思いますので。被験者の男性群、身長が183㎝±7で体重が80.9±6.9、BMIが24.2±2.3、脂肪の量が10±2.2とそれなりにガッシリした身体ですから、違いはあるかもしれませんが、それなりに運動をしている女性であれば近い数字になってくると思いますので。

2024年2月18日日曜日

第20回乳酸研究会雑感

 第2回から参加をして今回が第20回。そして来年は八田先生の退官記念講演の会となるのかな、といった感じの第21回。長いですね。アスリートな人でも参加しやすいテーマを取り上げてくださるので、いろんな人が参加している研究会です。陸上競技の大会で遭遇した時に、次回のテーマの話を聞いたりお願いしたりといった感じのこともありましたが、来年以降はどうなるのか。そんなわけで感想です。

抄録のダウンロードはアークレイさんのサイトにありますので、
そちらをご覧ください。
【NEW!!】第20回乳酸研究会開催情報 抄録集UP | トップアスリートを支えるスポーツトレーナーのための科学的トレーニング塾 (arkrayathletesupport.com)

門口 智泰 | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)
最初は門口先生の酸化ストレスに関して「酸化ストレス応答の二面性、活性酸素種は善か悪か」というタイトルでの話。活性酸素種は生体の恒常性維持に必要ではあるが、それが過剰になると病気にもなっていくという話です。トレーニング効果を高めるかもとなってたくさん活性酸素種を作ろうと努力したら、病気になって運動が不能になる可能性があるわけですね。人間の身体は一定の状態を維持するようになっているわけで、一定の範囲で収まるようにするのが大事ということでしょう。

北岡 祐|神奈川大学 神大の先生 (kanagawa-u.ac.jp)
北岡先生は「健康スポーツにおける酸化ストレスの功罪」というタイトルで。活性酸素種(ROS)について、少なすぎても多過ぎてもダメといった感じの話で、門口先生と同じような感じ。いつもながらの早口でテンポがよく、聞きやすいと個人的には思う発表です。活性酸素はトレーニングにおいては必要だけれど試合の時にはいらない、バランスが大事という具合ですね。


The transcription factor NRF2 enhances melanoma malignancy by blocking differentiation and inducing COX2 expression | Oncogene (nature.com)

The effects of NRF2 modulation on the initiation and progression of chemically and genetically induced lung cancer - PubMed (nih.gov)


アークレイ株式会社 (arkray.co.jp)

商品紹介。ラクテートプロ2にはお世話になっております。

休憩

【研究者データ】小谷 鷹哉 | 日本の研究.com (research-er.jp)
小谷先生は「筋収縮による筋肥大メカニズムと抗酸化物質の摂取による影響」というタイトルで。筋タンパク質の合成量にはリボソームの増加も関係しているという話。酸化ストレスによってリボソームの翻訳活動が停止してしまうので、リボソームは増えるけれど合成が進まないという話が。1日に3回のトレーニングでリボソーム合成は最も高まったが、筋タンパク質合成は最も低かったとのこと。あとは抄録にもある通り、人間での抗酸化物質であるビタミンCの投与は筋肥大を促すことはなく、維持または減らすといったデータがあるということで。

株式会社メタジェン - 腸内環境に合ったヘルスケアをあたりまえに (metagen.co.jp)
福田先生は「腸内環境に基づく層別化医療・ヘルスケアがもたらす未来」というタイトルで腸内細菌の話を中心に。青山学院大学の駅伝部の腸内細菌のデータから、速い選手には多く存在している菌があるということ。
青学陸上部所属ランナーの腸内細菌を調査、「ある菌種」が走行タイムを改善 | カラダご医見番 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
人によって腸内細菌のタイプがいろいろあるし、薬の効く効かないといった個人差は腸内細菌によって影響するという興味深い話でした。一度は検査をして自分の身体はどういったものを摂取するのが良いのか、というのを調べてみるのは効果的な気がします。
ニュースリリース 『Body Granola』 | カルビー株式会社 (calbee.co.jp)
カルビーとのグラノーラも興味深いところです。

そんなわけで今年もアスリートにとって重要な情報がたくさん出てきたなと思うところですが、個人的にはもう10年くらいはこの分野に興味を持って論文を眺めてきたわけです。きっかけとなったのがアスタキサンチンですね。抗酸化作用によってトレーニング後の疲労を軽減するという文句で発売されていた商品に対して、抗酸化作用によってトレーニング効果は下がらないんですか?と質問したところ、害ではあるがトレーニング効果にはならないと言われて疑問をさらに持った辺りです。

抗酸化物質の補給は若い女性の筋力トレーニングによる効果を弱める
https://tf-ver3.blogspot.com/2023/04/blog-post.html

抗酸化サプリメントの摂取はSIRT1の活性を抑制する
https://tf-ver3.blogspot.com/2023/03/supplementation-hinders-role-of.html

ビタミンCとEの摂取は筋肥大に効果ないどころか
https://tf-ver3.blogspot.com/2020/12/blog-post_6.html

ポリフェノールを豊富に含むアイスクリームは酸化的ストレスを減少させる
https://tf-ver3.blogspot.com/2017/01/blog-post_28.html

北岡先生や木谷先生、福田先生に休憩時間や懇親会でちょっと質問をしてみましたが、抗酸化のサプリメントを摂取する必要性は多分ないであろうという昔からの考えを変える必要性は特に無さげです。あとはビタミンCの摂取はどうなんですかねぇ、というのは長いこと言っていますが、これもやはりトレーニング効果を下げるからやめた方が良いと思います。多くて1日に1000mg程度でしょう。それを超える摂取はどうですかね。マイナス効果の方が大きいと思います。実際、トレーニング相談に来る人に対してビタミンCのサプリメントの使用をやめてもらうようにすると、皆様パフォーマンスが上がった、筋肉が増えたという人がほとんどでしたし、不要でしょう。ただ、仕事が忙しいとか食事が不十分であるという人にとっては大事でしょう。足りなくてもダメなので。十分に摂取出来ている場合は不要でしょう。練習直後にビタミンCを大量に摂るとかは愚の骨頂だと思うのでやめた方が良いと思いますし、トレーニーな人たちが大好きな鶏のササミとブロッコリーのセット、あれはブロッコリーを茹でてビタミンCを減らしているとは言え、食べてる量がそこそこ多かったりするのでダメでしょう。トレーニング効果を打ち消す食事ですよね、と長いこと指摘をしておりますがブームが消えません。今回の話でもブロッコリーに含まれるスルフォラファンという話がありましたが、ブロッコリーそのものを食べてビタミンCを摂取しすぎてはダメですので、難しいですね。まぁ朝食でしっかり摂取して夕方にトレーニング、といった分割ができれば良いのではと個人的には考えて説明・指導をしてきておりますが、この辺りは未だにエビデンスが出ておりませんので何とも言いきれません。腸内細菌の話に関しても、普段の食事でどれだけ整えられているかになるので、とにかくいろんなものを食べた方が良いですとのことでしたので、多分そのストイックな食事があなたのパフォーマンスを伸ばしてくれない原因ですよ、と言ってきたのは正解なのだろうと思います。なお、小谷先生は石井直方先生のところで学ばれていたので、久々に石井直方イズムを感じる話が聞けて楽しかったです。今から20年ほど前に学会の手伝いをして石井先生と一緒に電車で帰ったのが懐かしい記憶です。サプリメントの前にまずはしっかり食べろ、というのが基本ですね。それでも足りない分はサプリメントです。練習直後などで食欲が湧かないとか次の日も練習が高負荷といった場合は大事でしょうが、そうでない場合は思っている以上に不要なのがサプリメントです。まぁでも現実的には理想的な量やバランスを食べられないので、サプリメントを上手く使うのが大事になるかと思います。そんなわけで、本年はこの10年くらいの確認作業がしっかりできた、とても有意義な時間でした。また来年を楽しみにしております。

2023年8月19日土曜日

男性の自慰行為とホルモン応答

Hormonal response after masturbation in young healthy men - a randomized controlled cross-over pilot study
Basic Clin Androl. 2021 Dec 23;31(1):32. doi: 10.1186/s12610-021-00148-2.
Eduard Isenmann et.al

テストステロンの話を眺めていたら出てきた論文で興味深かったので読んでみましたが、テストステロンの数値が1日で上下するけれども、それをエロ動画を見ることで抑制することが可能なので、トレーニング効果を最大限に発揮するためにはトレーニングの何時間か前に動画を見ておくのが良いかもしれないということが示されています。今回の実験では14時に動画を見て、18時頃にテストステロンとコルチゾールのバランスが最も良くなった。分解が減って合成が高まるもっともよいタイミングですね。ただこれ、普通に仕事をしている人ですと仕事中にトイレで...といったことになるので難しい気もします。電車の中で東スポなどのエロページを眺めているおじいちゃんたちは、やはり下半身が元気なんだろうな、といったことも考えたりで何とも興味深いところです。ちなみに過去にはマスターベーションによる体への負荷といったものも眺めましたが、ブログにも書いてありますが、基本的にはほとんど悪影響はありません。体勢が悪いとか時間をかけすぎといった問題点くらいです。ですので、トレーニングをしっかりと考える場合はやはり動画やらで興奮をするのは大事、日常的に見られるものなら、ですね。プレワークアウトサプリメントとしてスマホの待ち受け画像なんかにしておくのは有りなのかな、と思いました。なお女性に関しても似たような論文があった記憶がするので、そちらも探してそのうちまとめようかと思います。


・テストステロンなどのホルモンは、パフォーマンスの向上と筋成長に大きな役割を果たすとされている[1]。テストステロンはタンパク質の生合成を刺激し、繊維含量を変化させることで骨格筋の同化作用を促進することが知られている[2]
・人間では総テストステロン(TT)の98%が性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンなどの輸送タンパク質と結合しており[3,4,5,6]、TTの最大2%が生物学的に活性な形態(遊離テストステロン、FT)で見られる。TTとは対照的に、FTとその代謝物であるジヒドロテストステロン(DHT)のみが細胞内のアンドロゲン受容体(AR)と相互作用することができ、同化作用を促進する
・テストステロンに加えてコルチゾール(C)もヒトの代謝に決定的な役割を果たしており、これは視床下部-下垂体-副腎軸によって調節されている[7, 8]。コルチゾール濃度の上昇はTT濃度に悪影響を及ぼすと考えられているが[9,10,11]、初期の研究では運動後のFTとCレベルの間には正の相関関係があることが示されている[11]
・興味深いことに、専門家の間やソーシャルメディアにおいてレジスタンストレーニングの数時間前に性行為を行うことでFT濃度やFTとCの比率が上昇し、それによりトレーニング適応、特に筋肉量の増加が改善されるのではないかという仮説が立てられ、議論されている。しかし、この仮定を支持する科学的証拠はない
・性交やマスターベーションがホルモン反応に及ぼす影響について分析すると、それらは主にエンドルフィン、ドーパミン、オキシトシン、プロラクチンの放出と関連している[12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22]。オーガズム後、プロラクチンレベルは増加し、オキシトシンとドーパミンレベルは有意に減少することが様々な研究で示されている [12,13,14,15,16,17,18,19,23] 。性行為がテストステロン(総テストステロンおよび遊離テストステロン)、エストロゲン、コルチゾールおよび黄体形成ホルモン(LH)のホルモン濃度に及ぼす影響についての調査は不十分である
・過去数十年の初期研究では、マスターベーションまたは性行為後60分間は、TT濃度に変化がないことが観察されている[15, 24]。さらに性的な禁欲の影響と射精後のテストステロン濃度の変化に焦点を当てた研究もある[25]。初期の調査や研究では、FT濃度は性行為と性的興奮の両方によって影響を受けることが示されている [26] 。さらに、視覚刺激によってTT濃度が急性的に上昇することを示す研究もある[27,28,29,30]が、性交後またはマスターベーション後のTT、FT、C濃度の詳細な動態に関する研究は不足している
・今回の研究ではマスターベーションと視覚刺激が、TT、FT、およびC濃度の動態ならびにそれらの比(TT/C;FT/TT;FT/C)に及ぼす影響を調査した

・8名の若い男性(年齢:27.1歳、身長:181.7cm、体重:87.7kg)が本研究への参加。参加者は健康な若者でドイツ体育大学ケルンでスカウトされた身体的、心理的、性的機能障害がなく、少なくとも3年間のトレーニング経験があり、バックスクワットで体重の150%以上、ベンチプレスで体重の120%以上のパフォーマンスを有し[31]、恋人がいる。ステロイドその他の薬物は使用しておらず、健康補助食品の摂取も制限された
・視覚刺激を伴うマスターベーション(AG)、マスターベーションを伴わない視覚刺激(VG)、視覚刺激とマスターベーションを伴わない受動的設定(PG)の3つに分けてホルモン濃度の変化を観察。実験の48時間前と検査日には性行為と身体活動、アルコールの摂取を禁止。12時間の絶食後に朝の8時から実験を開始、用意された食事を2回摂取し14時から自分の好むポルノ動画を鑑賞

・マスターベーションと視覚刺激はFT濃度のみに影響を及ぼすと仮定できる。マスターベーションを伴った場合が最も数値は上昇した。概日リズムでのFTの減少を抑制することが可能
・筋力トレーニングの過程でマスターベーションを繰り返すことにも潜在的な効果がある可能性がある
・レジスタンストレーニングの前にマスターベーションという形で1回性行為を行うだけで、テストステロンによる強い適応を引き起こす可能性があるとは言えないが、筋力トレーニングと組み合わせてFTの分泌を増やすことで、筋の成長や筋線維含量の変化により強力な適応をもたらす可能性はある
・マスターベーションとは別に調査されたホルモンの概日リズム、トレーニングの時間帯は、筋成長の潜在的な調節因子と考えられるが、今回の研究結果からするとレジスタンストレーニングは、FTとCの比率が最も高くなる夕方(この研究では18:15)に行うのが最も効果的であるが、モチベーションのような他の生理学的・心理学的要因も重要な役割を果たすので、その点の考慮も必要である。特に、ストレスレベルの上昇はコルチゾール放出の増加 [7] と関連しており、テストステロン濃度とFT/C比に悪影響を及ぼす [9, 34]

2023年8月16日水曜日

クレアチンは筋肥大に影響するのか

The Effects of Creatine Supplementation Combined with Resistance Training on Regional Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review with Meta-Analysis

Nutrients. 2023 May; 15(9): 2116.Published online 2023 Apr 28. doi: 10.3390/nu15092116
Ryan Burke, Alec Piñero, Max Coleman, Adam Mohan, Max Sapuppo, Francesca Augustin, Alan A. Aragon, Darren G. Candow, Scott C. Forbes, Paul Swinton, and Brad J. Schoenfeld

・クレアチンはレジスタンストレーニング(RT)の適応を増強するための数少ない有効な栄養補助食品の1つと考えられている[1]。クレアチンサプリメントの摂取により、骨格筋の総クレアチン(遊離クレアチンとホスホクレアチン)が増加し、アデノシン三リン酸を素早く再合成する能力が高まり、高強度運動が可能となる[1]
・クレアチンはインスリン様成長因子-1(IGF-1)、筋原性調節因子、衛星細胞、細胞水分補給、カルシウムおよびタンパク質の動態、グリコーゲン含量、炎症、酸化ストレスに影響を及ぼし[2]、長期にわたる筋の肥大に影響を与える可能性がある[3]。筋力[4,5]、パワー[6]、無酸素性代謝に関連するパフォーマンスは向上することが示されている[7]
・クレアチンサプリメントとRTの併用は、RTとプラセボと比較して除脂肪体重の増加が大きいが、除脂肪体重は体水分を含むすべての非脂肪組織から構成されるため、骨格筋量を示すものとしては不正確である。実際、除脂肪量の標準的な指標とされることの多いDXAは、筋肉の大きさを評価するための指標とされる部位特異的画像法 [13,14] による縦断的な肥大変化との相関が比較的低い
・クレアチンサプリメントを摂取すると全身の水分が増加することが示されている[16]。クレアチンは浸透溶媒として作用することから、その水分補給効果の大部分は細胞内にあると考えられている[17] 。しかし、クレアチンサプリメントによる除脂肪体重増加の一部は、おそらく尿量の減少を介した水分貯留に起因すると考えられる[18]

・対象とした研究は (1)クレアチン補給とRTの併用と、クレアチン補給なしでRTの効果を検討したもの、(2)期間が6週間以上、(3)18歳以上を対象としたもの、(4)英語の査読付き学術誌で発表されたもの、(5)磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影法(CT)や超音波など画像により変化を調査したもの。血流制限が行われているものは排除した

・合計10本の論文が基準を満たした。研究期間は6~52週間。4つの研究は若年成人(21~26歳)を対象とし[33,34,35,36]、6つの研究は高齢者(57~72歳)を対象とした[37,38,39,40]。4つの研究は男性のみを対象とし[35,37,38,39]、1つの研究は女性のみを対象とし[40]、5つの研究は男女両方を対象とした[33,34,36,41,42]。2つの研究では、トレーニング経験者が用いられ[34,36]、他の研究では未経験者が用いられた。すべてのRTセッションは週に2~5回行われた。1つの研究は肘関節屈筋のトレーニングのみに焦点を当てたものであり [35]、他の研究はすべて全身トレーニングプロトコルを実施。1つの研究ではクレアチンのローディングがあり、これは5日間連続して20g/日のクレアチンを摂取した後、残りの期間5g/日のクレアチンを摂取するというものであった[35]

・クレアチンサプリメントとRTの組み合わせによる筋肥大の部位変化を検討した最初のメタ分析であり、このレビューに含まれるサプリメントとレジスタンスプロトコルのプール解析では、クレアチンサプリメントをRTと組み合わせると、局所的な骨格筋肥大が促進されることが示された。しかし、プラセボと比較して、この効果はかなり小さなものである
・以前のメタアナリシスでは全身の除脂肪体重が有意に増加し(1.1~1.4kg)[2,9,10,11]たことが示されているが、これはクレアチンによる体水分総量の増加に関連していると考えられ、細胞外液の蓄積などを反映している可能性がある。また、除脂肪量での測定は全身の非脂肪組織を考慮に入れていることから、画像診断では評価されなかった部位や他の組織(例えば、骨[42])での肥大が起こったことも考えられる。これらの仮説については、さらなる調査が必要である
・身体の部位、年齢、調査期間についてサブ解析を行った。クレアチンサプリメントの摂取は、体の部位に関係なく同様の効果を示すことが明らかになった。これは、レジスタンストレーニングを行った男性において、上半身の除脂肪体重が下半身に比べて増加した(上半身:7.1%対下半身:3.2%)というDXA由来の研究とは対照的である [43]
・個々の筋群の効果の大きさも小さく、プラセボに対する改善幅の中央値は0.10~0.16cmであった
・期間が長い研究はすべて参加者が高齢であり、研究期間ではなく年齢により変化している可能性がある
・研究の限界としては
1、女性のみで調査した研究は1件であった
2、RTを行っている人を対象とした研究が2つしかなく、よりハードなトレーニングができる人たちの方がクレアチンサプリメントから大きな利益を得られる可能性がある
3、クレアチンサプリメントに対する反応にはかなりの個人差があり、Greenhaffら[47]は、被験者の約20~30%が「非反応者、ノンレスポンダー」であると報告している。この特徴としては、初期の筋クレアチンレベルが高いこと、II型線維の割合が低いこと、筋線維CSAが低いこと、および除脂肪体重が低いことなどが挙げられる[44]


クレアチンが筋肥大に影響を与えるのかっていう話に関しては、一般の人でも効果は出ない人が20~30%ほどいて、そうした人は筋横断面積が少ない、速筋が少ない、脂肪量が多い、クレアチンが十分にあるといった状態なので、まずは普通にトレーニングをしていくのが良さそうですね。そしてある程度の段階になったら筋力を高めるためにクレアチンを摂取する。それによってパフォーマンスは向上するが、じゃあそれが筋肥大につながるかと言われるとデータからはよく分からんとなっているのがクレアチン。筋肥大はさせるけど細胞が蓄えられる水を増やしているだけであり、純粋に筋肉を増やすという観点では不要かもしれないですね。筋力が高い方が筋肥大しやすいのか、という謎も残っているので、その辺りも眺めたいところです。