2017年9月1日金曜日

継続して行うストレッチは筋腱の機械的な性質を変化させるか?

Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review



http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.12957/abstract



Scand J Med Sci Sports. Accepted manuscript online:


Freitas, S. R., Mendes, B., Le Sant, G., Andrade, R. J., Nordez, A. and Milanovic, Z.
Scand J Med Sci Sports. Accepted Author Manuscript. doi:10.1111/sms.12957


レジスタンストレーニングは筋の肥大や筋束の長さ、羽状角の変化などを引き起こして、


筋腱複合体の性質を変化させることは知られている。



これらの変化はケガの発生などにも影響を与えることが知られているが、


ストレッチによる変化の研究はほとんどない。


継続してストレッチを実施することで関節可動域が広くなることは知られている。

これらの変化に関しては二つの考えが提案されており、

一つは筋腱が伸ばされることによる耐性がつくこと、

もう一つは筋の長さや弾性が弱まるといった機能的な変化である。

2~8週間の短期間で実施された研究結果を見ると、

その結果は異なっている。

そこにはストレッチのやり方や介入期間、強度といったことが影響している。

2016年8月までに出された論文からそうしたストレッチの研究を分析したレビュー。

26の論文が抽出され、平均して5.1週間の介入が行われている(3~8週間の範囲)。

1週間あたり1165秒が平均して行われた(270~3150秒の範囲)。

結果からして、

この短期間の介入では筋腱複合体の機能的な変化は起こらないと推測される。

レジスタンストレーニングなどを行った際にも初期は神経系の適応が起こることと同様である。

論文の多くで強度についての設定が不明確になっている。

この強度設定が高くてrestが短いなどの場合、変化は観測されるかもしれない。






また、最近の研究では筋膜と末梢神経が関節可動域の制限に影響を与えると指摘している。

Non-Muscular Structures Can Limit the Maximal Joint Range of Motion during Stretching.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28255938

さらに股関節と頭の位置は足首の関節可動域に影響を与えるというものや、

Effects of hip and head position on ankle range of motion, ankle passive torque, and passive gastrocnemius tension.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25676048

坐骨神経は足首や膝の位置によって影響を受ける
Non-invasive assessment of sciatic nerve stiffness during human ankle motion using ultrasound shear wave elastography.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26725218

生体において腓腹筋の深部筋膜と骨盤の動きの関連
In vivo relationship between pelvis motion and deep fascia displacement of the medial gastrocnemius: anatomical and functional implications.

などなど、筋膜や神経での多くの新しい研究が出てきており、

今後大きく見直されていくことが考えられる。

また、ストレッチにおける評価の定量化が難しいことから結果にバラつきがあるが、

市橋らの研究ではせん断波エラストグラフィを用いて4週間の静的ストレッチによってハムストリングスの柔軟性の改善を報告している
The effects of a 4-week static stretching programme on the individual muscles comprising the hamstrings.
http://jspt.japanpt.or.jp/eibun/2017/1703_1.html
(リンク先は理学療法士協会のもので日本語の解説がありますので)

ように、様々な手法が登場している。

今回のレビューにおいては6~8週間でのストレッチによって、

筋腱の構造的な変化は観察されず、

感覚の変化が主に起こっていると言える。

しかし、研究データが少ないことから、

末梢神経や中枢神経が影響をしている可能性があると思われるが、

どうしてこのような感覚の変化が起こっているのかも不明確なままである。





ストレッチによって身体が柔らかくなると言われていますが、

2か月ほど毎日のように実施した結果として起こる変化は、

筋肉や腱が伸びるようになったのではなく身体が痛みに耐えられるようになることだ、

と現状では言えるようですね。

タイトルの答えつぃては変化させない、となります。

ただ、筋膜や神経など様々な要素も影響をしていると考えられるので、

今後の研究に期待、と。

むしろストレッチの根本的な所に関する研究って少ないんだなという印象すら受けました。

そんなわけで、

トレーニングしても筋肉が簡単に肥大しないのにストレッチで筋肉や腱の構造がそんな簡単に変わってたまるか、

というメッセージを受け取りました。

ただ、途中に挙げた例のように、ハムストリングスの弾性変化はケガの予防になりますので、

ストレッチはタイミングを考えて適度に実施するのは大事かと思います。

2017年8月25日金曜日

水分補給の歴史から学ぶ

紀要ではありますが、水分補給の歴史的な背景から書かれていましたので。

「運動時の水分補給に関する変遷ならびに日本における運動習慣のある若年成人の現状と課題」
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=22506&file_id=17&file_no=1


時代の変化をご理解頂きたいと思いましてスライド化しました。

文字が多くて読みたくないとなるかもしれませんので7枚ほどにまとめました。

十分多いですかね…

夏の話という感じになりますが、



トレーニング中だけでなくトレーニング前にも水分補給が出来ているかの確認が必要である、

という点を理解をして頂ければ。




論文中に出てくるガイドブックなどのサイトは以下に示す通りです。

スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック
http://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid/661/pdid/48/Default.aspx

熱中症環境保健マニュアル
http://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php


Selecting and Effectively Using Hydration for Fitness
https://www.acsm.org/docs/brochures/selecting-and-effectively-using-hydration-for-fitness.pdf











スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック
http://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid/661/pdid/48/Default.aspx

part4の21ぺージより

5~15℃に冷やした、飲みやすい組成、胃にたまりにくい組成および量

などがすすめられます。

冷たいものを摂取しましょう。

2017年8月20日日曜日

ドーピング問題はいつ誰に起こるか分からない

つい先日、昨年起こりました一件の仲裁結果が出されまして、

自転車選手によるドーピング問題が伝えられました。

詳細は公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-DP-2016-001

http://www.jsaa.jp/award/DP-2016-001.html

こちらに記載されていますので全文を読んで頂くのがベストかと思います。


本件を簡単にまとめますと

・サプリメントの表記に禁止物質が書いていなくても混入しているケースはある(国内、国外問わず)
・過去に使って安全だった商品が次回も安全とは限らない(製造ラインで混入する可能性がある)
・有名なメーカーでも混入することはある
・他人が使っていて検出されなかった商品でも信用はできない

・過去に禁止物質を混入させた会社の商品は危険なので避ける 
・大会前後で使用したサプリメントその他はドーピング検査の結果が出るまで保管。使い切らずに少し残しておく(過失・過誤の程度を証明するため)
・選手は自ら過失が少ないことを証明しないといけない(企業その他に責任があるということを証明)

などなどあります。
 
ザックリと見ていきます。

まず、2016年10月の国体で検査を実施した結果、

体内から禁止物質が検出され、10月末に暫定的に資格停止となった。

12月に4年間の資格停止となったことで、スポーツ仲裁機構に訴えた、

という事案です。


12月に申し立てをして2017年2月から仲裁機構が活動し、

4月にSMRTL(アメリカの調査機関)にサプリメントを送るも税関を通過できず、

5月中頃に到着し、6月頭には検査結果が出て、8月に仲裁の判断が出された、

という流れですね。

この中でサプリメントの検査をしたら禁止物質が出てきたという話です。

この辺りの話を見ていくと、

2015年に購入したANAVITE(GASPARINUTRITION.COM製)を使用している時は検査に引っかかったことが無い。

2016年に8月と9月に購入したANAVITEからは禁止物質が検出された、

となっています。

14種類のサプリメントを使用していたが、

今回問題となるのは競技会参加前に使っていたANAVITEから禁止物質が出た点です。

それ以外は競技会前には使用していなかったもようです。

なお、競技会後の検査では検出されていませんが、

使用していたQH-Absorb(Jarrow FORMULAS製)を検査したらオキサンドロロンが出たとなっています。

この点に関しては、競技会の時に摂取していたボトルとは別のものを検査機関に提出したとなっているので、

こちらも汚染疑われるという事態ですね…

さて、ANAVITEには禁止物質が含まれているような表記はありません。

そのため摂取しても大丈夫と考えたようですが、

同社の製品であるSP250で2015年末に禁止物質が出ています。

この点に対して日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は調べ足りないと主張、指摘しています。

選手にミスが少ないほど資格停止期間は短くなりますが、

JADAの主張は本当にキツいです。


ところで、JADAの規定ってご存知ですか?


”2.1.1
禁止物質が体内に入らないようにすることは、各競技者が自ら取り組まなければならない責務である。自己の検体に禁止物質又はその代謝物若しくはマーカーが存在した場合には、競技者はその責任を負う。ゆえに、本第2.1項に基づくアンチ・ドーピング規則違反を証明するためには、競技者側に使用に関しての意図、過誤、過失又は使用を知っていたことが示される必要はない”

簡単に言えば、
体内から禁止物質(その代謝物質)が出たらアウト


となっています。

検査結果がおかしいということを主張するのは効果的ではありません。

この辺りはヤバい統計学という本でも書かれていた通りですね。

明らかに検出された場合は自信を持って摘発するが、

グレーなところの場合は見逃されていることが多い。

もし検査ミスだった場合には損害賠償や選手の信頼回復など、

失うものの方が大きいためです。

なので、検出されてクロと指摘された場合、何かから摂取してしまったと考えるしかありません。

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今回の案件では手元に残っていたサプリメントをアメリカの機関に送って検査した結果、

禁止物質が出たことからサプリメント(ANAVITE)が汚染されていたことが一要因と判断され、

資格停止期間が短縮されましたが、

ここから一つ覚えておかないといけないのは、

試合の一週間前から当日に摂取したサプリメントは覚えておく、手元に残しておく、

ということです。

全部使いきってしまって中身も無く容器も無くなっていたら、

自分に過失が無いことを明らかにすることが出来ません。

あまり意識したことが無い点かもしれませんが、

競技者は試合後も少し残しておくという習慣が無いとダメですね。

当日に摂取したものの一覧の中にモンスターエナジーがありますが、

これは検査対象外となっています。

多分、飲み干してそのまま捨ててしまったのだと思われますが、

ひょっとしたらこの中に入っていたかもしれないという可能性はあります。

JADAの考えだとサンプルを残していなかったのが過失になると思われます。

それだと食事なんかはどうしたら?食品が汚染されていたら、

と思う人もいるかと思いますが、

諦めるしかありません。

口の中に入れたものは全て自己責任での管理が必要です。

やはりサプリメントはダメだ、

という意見も散見されましたが、それは違います。

むしろ、食事の方が手元に残すことが無いので、

過失の有無を証明することが不可能になりますから救いようがありません。

こうなるともう何も食べられない、となってしまいますね。

ちなみに今回の検査には10点のサプリメントに対して60万円ほどかかっています(ほぼ全額が選手の負担)。

100%のドーピング違反を摘発するためには食事全てのチェックも必要になるので、

いかほどの金額が必要になるのか分からない、

となります。

100%のクリーンな状態が実現不可能だという話でもあります。

今回の案件では手元に残っていたサプリから検出されたので資格停止が短くなりましたが、

もし無かった場合は何も証明する方法が存在しないため、

4年間の資格停止になったと思われます。

まぁ不幸な一件という見方の方が適切かなという案件ですが、

これを書いていて「あぁこういう抜け道方法があるのか」というのに思い至りました。

真似される可能性があるので書きませんが、

ドーピング事案というのは本当に厄介なんだということがもっと理解されればな、

と思います。

過去にも同様の記事で書きましたけど、

他人からもらったものは食べられませんからね。

選手への差し入れで食べ物はやめてあげて下さい。

なお、今回検出されたからといってANAVITEが全てアウトというわけではなく、

この時期に同様の過程で製造されている商品を摂取した選手がいてもおかしくはありませんが、

もしいたとしても検出されていません。

競技に参加しない人が健康のために摂取している場合は問題ありません。

まぁそれなりの売れ行きの商品ですし、

その製造された日のこの容器だけ汚染されていた、

というのも考えにくい所ですね。

そうしたのもあるため、

過失が無くても処分はされるという形になってしまいます。

本当にクリーンな選手でも過去に傷がつくことになります。

そういうルールなので...

また、現在使用が認められているものでも、

著しくパフォーマンスを向上させる効果が認められた場合、

禁止物質に変更されます。

その辺りは過去に書いていますので、

https://tf-ver3.blogspot.jp/2017/03/blog-post_94.html

こちらを。

追記;選手はドーピングに引っかからないように気を付けており、

TSP承認プログラムやアンチドーピング品質管理プログラムなどがついているものを選び、

違反しないように気を付けていたと主張しています。

これに対してましてアンチ・ドーピング規律パネル(12月に処分を決定したところ)は、

TSP??禁止物質全てを調査していないと言ってるものを信じるとかバカなんじゃないの、

そんなので気を付けているとか言ってんの?は?(当然ながら意訳)

とぶった切っております。

また、14種類のサプリメントを摂取していたと選手が主張したのに対して、

3種類の検査だけをして検出されなかったから4年間の資格停止、

としている点は如何なものかな、

という気がします。

まぁ分析して出たとしても、体内から検出された事実は変わらないので、

安全じゃない製品を使った選手が悪いというのがJADAの立場ですので。

いやしかし、知れば知るほどドーピング関係の話というのは選手にとって不利な話しか無いと思えますね。

意図的にやった人は論外として、

意図的ではない人に対しての救いが無さすぎです。