Lactate as a fulcrum of metabolism
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213231720300422
George A.Brooks Redox Biology Volume 35, August 2020
・人間の心臓では、エネルギー源としてグルコースや脂肪酸よりも乳酸が好まれる
・脳においてもグルコースよりも好まれる
・神経細胞はグルコースの取り込みと乳酸の生成に必要な細胞成分を持っていて、細胞内乳酸シャトルによって動脈に直接乳酸を取り込み、利用することができる(74)
・解糖系による乳酸の生成が酸素不足時にのみ生じる考え方には実験的な裏付けがない
・完全な好気性条件下では、グルコースとグリコーゲンの異化が乳酸生成に進むというエビデンスがある(7,39,136,139)
・筋収縮が細胞の酸化還元に及ぼす以外に、L-乳酸は、酵素的および非酵素的に触媒される反応によって、活性酸素種(ROS)の細胞産生に影響を与える(ミトコンドリア呼吸の結果として活性酸素が生成される)
・ミトコンドリアの呼吸の主なエネルギー源は乳酸である
・乳酸は血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン-1(IL-1)、TGF-βの放出を促して血管新生と創傷治癒を促進するという好ましい結果が得られている(88)
・定期的な運動によりミトコンドリア質量が2倍になる可能性がある(42,82,94,137)
・ミトコンドリアタンパク質発現の増加のためのシグナル
・ミトコンドリア生合成の転写制御としてカルシウムイオン (119),AMP活性化プロテインキナーゼ (AMPK) (101,167])、サーチュイン1 (Sirt1) (46),低酸素誘導因子-1α (HIF-1α) (152)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター-1α (PGC-1α) (72)がある。PGC-1αがマスターレギュレーターとされる
・ミトコンドリア生合成の下流の調節因子はNRF-1およびNRF-2、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)(117)がある。これらに共通するのは、ATPのホメオスタシスが損なわれているという状況である
・乳酸にさらされると活性酸素が増加し、活性酸素やカルシウムイオンに反応することが知られている673の遺伝子が上昇
・乳酸は、脂肪酸の動員と酸化を阻害して制御する
・乳酸が脂肪酸を抑制するメカニズムは、乳酸が受容体結合を介して脂肪の脂肪分解を抑制すること(1,33,59,99)
・pHやナトリウムイオンとは無関係に、乳酸がヒドロキシカルボン酸受容体1(HCAR-1)の活性化を介して、脂肪細胞における脂肪分解を抑制する
・筋収縮時に解糖が促進されると、乳酸とピルビン酸の濃度が上昇し、ピルビン酸よりも乳酸への影響が相対的に大きくなる
・筋活動によりモノカルボン酸がミトコンドリアに取り込まれるとアセチル-CoAが生成され、それによってマロニル-CoAが生成されCPT1を阻害し、活性化された遊離脂肪酸がミトコンドリアマトリックスに侵入するのを抑制する(107,142)
トレーニング関連で個人的に気になる点をピックアップしただけですので、興味がある方は全文を読むことをオススメいたします。非常に興味深く読める内容でした。2000年代に乳酸が疲労物質ではなさそうであるという流れが進んできていますが、現実的にはまだそれを理解していない人も多く臨床の場などでは高い乳酸値が問題であると捉えてしまっているが、機能を改善するためには乳酸が高値になることが良い影響を与えている可能性なども指摘されてきています。ケガの回復に乳酸が役割を果たしているということですね。あとは持久的な運動をする時には乳酸が出ることが大事なのは引き続きですし、パワー系のトレーニングにおいても重要でしょう。腸脳の話ではまだ明確なものが多くは無いですが、今後さらにデータが出てくることが期待されます。あとは文中にも載せましたが、ミトコンドリアの呼吸による活性酸素が遺伝子発現において大事な役割を果たしているので、そこも意識して抗酸化作用のある食品、サプリの摂取を行うことも大事でしょう。
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2021年10月16日土曜日
代謝の支点となる乳酸
2021年9月12日日曜日
インスリン様成長因子とパフォーマンスの関連
Insulin-like Growth Factor Axis Genetic Score and Sports Excellence
Ben-Zaken et.al
Journal of Strength and Conditioning Research: September 2021
運動能力を向上させる可能性のある遺伝子を特定することは非常に難しく、将来のスポーツ選手の成功を予測するというのは推測の域を出ていない。プロスポーツ選手の遺伝子と運動能力に関する報告のほとんどが、IGF1の変動に焦点を当てていた。インスリン様成長因子(IGF)は筋肉の成長、分化、および機能に重要な役割を果たしており、高いIGF1レベルは短距離走に有利であり、エリートパフォーマンスに関係する可能性が示唆される。ランナーとは対照的に、IGF多型は水泳のパフォーマンスとは関連していなかった。
本研究では、イスラエルのエリートランナーと水泳選手を対象に、遺伝子スコアの高低を調査した。
優れた能力を発揮するには遺伝的要因が必要であることはよく知られているが、環境と遺伝との関係や相互作用から生じる様々な要因があることも知られている。パフォーマンスのばらつきに関連する遺伝子を特定しようとする場合、成功にわずかしか貢献しないことも理解しておく必要がある。エリートアスリートを見分けるために遺伝子スコアツールが開発されているが、これまでの研究では循環型IGF-Iもフィットネスと相関することが示されている。IGF遺伝子スコアは、国内レベルの陸上競技選手とトップレベルの陸上競技選手(国際大会、世界選手権、欧州選手権、オリンピックの優勝者)で比較。ランナーとは対照的に、IGF多型は水泳のパフォーマンス向上と関連していなかったため、ランナーと水泳選手の間で、IGF1遺伝子スコアを比較した。
・イスラエルのスポーツ選手では、対照群に比べてTT遺伝子型の頻度が高いことが示されました(4.8%)。TT多型保有者は持久系とパワー系の両方のアスリートであったが、持久系アスリートは国内レベルの選手であり、パワー系アスリートは国際大会やオリンピックのトップレベルの選手であった
・典型的なパワースポーツの中でも、IGF1多型はストレングス競技よりもむしろスピードスポーツ競技に重要である
・IGF2(rs680)GG遺伝子型は、重量挙げ選手と比較してスプリンターで有意に高く、スピードスポーツには有益だが、ストレングススポーツには有益ではないことが示唆される。IGF2(rs680)多型がスピードパフォーマンスに及ぼす可能性のある有益な影響は、必ずしも循環IGF2への影響からではなく、IGF1レベルへの影響を介している可能性がある
・MSTN(ミオスタチン)遺伝子は骨格筋細胞にほぼ独占的に発現しており、循環IGF1レベルの抑制効果を介して筋成長の負の制御因子として機能している
・ランニングと水泳は、生理学的・代謝的特性が似ているが異なる遺伝子多型を持っている可能性がある。特定のIGF1多型は、陸上の短距離系の種目に有利であると考えられ、特定のIGF軸遺伝子スコアは、トップレベルの短距離走者と国内レベルの短距離走者を区別する可能性がある
興味深い点としてはトップ選手であれば必ず高いIGFを誇るわけではなく、競技に応じて違いがあるというところですね。水泳と陸上競技では持久力という観点などで似ていると言われたりするわけですが、遺伝子的な面では異なっているかもと考えられるのであると、これまでに様々な研究で行われている持久力の測定といったものも分けて考える必要があるのでは、と思いました。水泳における持久力が高い選手、陸上競技における持久力が高い選手は異なると考えられるのであれば、水泳選手の走ったり自転車によるトレーニングでは効果が出にくい選手もいるのでは、といった感じです。
2021年7月24日土曜日
健康な若年男性のレジスタンストレーニングによる骨格筋肥大には筋アンドロゲン受容体の含有量が関係
Muscle Androgen Receptor Content but Not Systemic Hormones Is Associated With Resistance Training-Induced Skeletal Muscle Hypertrophy in Healthy, Young Men
Robert W. Morton et.al
Front. Physiol., 09 October 2018
・骨格筋肥大には個人差が大きい。運動後の循環している同化ホルモン(T、GH、IGF-1など)の上昇がレジスタンストレーニングによる骨格筋肥大を決定すると考えられている(Kraemerら、2017;Mangineら、2017)
・しかし、筋タンパク質合成量の増加(Westら、2009年)と肥大化(Westら、2010年、WestとPhillips、2012年、Mitchellら、2013年、Mortonら、2016年、Mobleyら、2018年)において、このようなホルモンが因果関係を持つかは疑わしい
・レジスタンストレーニングによる筋肉内アンドロゲン受容体量の増加は筋肥大と有意に相関している(Ahtiainenら、2011;Mitchellら、2013)ので、筋肉内アンドロゲンや受容体の増加が重要であると考えられる。
・被験者は49名平均23歳身長186cm±6、体重86kg±5で12週間のトレーニングを実施
・筋肉内アンドロゲン受容体量は介入前と介入後で変化がなかった
・高反応者と低反応者の間では筋横断面積と徐脂肪体重に有意な変化の差が見られた
考察
・高反応者は低反応者に比べて、12週間後に5αリダクターゼ含量が増加、アンドロゲン受容体含量が有意に高い(トレーニング前後での変化はない)ことから、骨格筋の肥大には全身性ホルモンと局所性ホルモンのどちらも影響しないと考える。骨格筋肥大の大きさは、筋肉内のアンドロゲン受容体の含有量やその他の筋肉内の変数によって調節されると考える
・アンドロゲン受容体の相関関係については、トレーニングに対する反応が高かった人と低かった人のみを測定するという選択をした値である
アンドロゲン受容体を狙ったドーピングがここ5年ほどで時代になっていまして、テストステロンなどのホルモンはやはり関係はあまり大きくなさそうであると指摘されています。一方で陸上競技においてはテストステロンの値が高いとパフォーマンスが高いというデータがあるため、女子選手は基準値を超えている場合は薬物を用いて数値を下げないことには400mや800mなどに出場することができないというルールも存在しています。この辺りは研究が追い付いていない、解析がおかしいのではという指摘も当然ながら存在しています。なかなか難しいところではありますが、取り合えずはアンドロゲン受容体を増やすようなことを狙った方が明らかに筋肥大の効果は出ると期待される、と言えるかと思います。
2021年7月22日木曜日
運動時および回復時のグリコーゲンの貯蔵量と骨格筋のタンパク質の合成、分解
Howarth KR, Phillips SM, MacDonald MJ, Richards D, Moreau NA, Gibala MJ.
J Appl Physiol (1985). 2010 Aug;109(2):431-8.
・運動により炭水化物の利用率が低下するとタンパク質の分解とアミノ酸の酸化が促進されることが示唆されている
Effect of initial muscle glycogen levels on protein catabolism during exercise
・被験者は平均年齢24±1歳、体重80±5kgの健康な適度に運動をしている男性6名
・自転車運動によって糖を枯渇させ両脚での膝伸展運動を実施
・低炭水化物条件では高炭水化物条件に比べて運動の後半にタンパク質の分解が増加し、合成が減少(運動の後半、炭水化物がより減ってくることで合成が減ることで、より分解が増したと考えられる)
・低炭水化物群は実験前の摂取カロリー条件を整えるためタンパク質摂取が多めとなっていたので、ロイシンの酸化が多かったと考えられるかもしれない
筋肉を増やすことが目的である場合、炭水化物が減った状態でのトレーニングは好ましくないということですね。特に長時間運動をする場合は、運動中に糖質の補給をすることでタンパク質の分解を減らしていくことが大事になると考えられます。マラソンなどに向けてしっかりと走り込んで脚を作るということをしたいのであれば、運動前の炭水化物の補給、運動中の炭水化物の補給をしっかりと行うことが大事であろうと思われます
2021年7月21日水曜日
タンパク質摂取のメタアナリシス(2018年)
Robert W Morton et.al
British Journal of Sports Medicine 2018;52:376-384
・食事でのタンパク質の摂取がレジスタンストレーニングによる1RMと徐脂肪体重の増加を大きくさせる(年齢が高くなるにつれて効果が減少する)
・タンパク質の総摂取量と徐脂肪体重の変化に関して、タンパク質の補給はレジスタンストレーニングを行っている人でより効果的でありるが、1.6g/kg/日を超えても増加しなかった
・タンパク質の補給は、徐脂肪体重の増加を0.30kg(27%)、横断面積を310μm2(38%)、大腿骨中央部横断面積を7.2mm2(14%)増大させた
・運動後のタンパク質投与量は、レジスタンストレーニングによる徐脂肪体重の変化に影響しなかった。レジスタンストレーニングをしている人は、筋肉の成長の可能性が小さく、運動後の筋タンパク質の代謝が弱く、筋肉量の増加を見るためのタンパク質補給の必要性が高いのではないかと推測している
・高齢者は同化への抵抗性があり若い参加者と比較して、より多くのタンパク質量を必要とする。レジスタンストレーニングによる筋横断面積の変化に年齢は影響しなかったが、徐脂肪体重の変化に年齢が負の影響を与えたことから、高齢者が徐脂肪体重を増加させるためには、より多くのタンパク質を摂取する必要性が高まると推測される
・タンパク質摂取量(g/kg/day)が多くなるとレジスタンストレーニングによる徐脂肪体重の増加にプラスの影響を与えるという理論があるが、これは高齢者を対象とした研究において、ベースラインのタンパク質摂取量の平均値および1日のタンパク質摂取量の平均値が低かったことに起因していると考えられる。調整なしのメタ回帰分析では、若年者のベースラインのタンパク質摂取量が多いほど、実際には徐脂肪体重の変化が抑制された
・レジスタンストレーニングによる徐脂肪体重の増加を最大化したい人には、約2.2gのタンパク質/kg/日を推奨するのが賢明かもしれない(このアプローチには限界があるが、合理的な証拠と理論に基づいている)
・タンパク質補給の詳細(タイミング、運動後のタンパク質投与量またはタンパク質源など)は、レジスタンストレーニングによる数週間のF徐脂肪体重や筋力の増加ほとんど影響していない。むしろ、若い人たちは、1日あたりのタンパク質摂取量が1.6g/kg/日程度、0.25g/kg程度に分割して摂取することがレジスタンストレーニングの効果により大きな影響を与える
・レジスタンストレーニングの実施が大きな影響を与える
2018年のものですが、いろいろと言われている内容を3年前の段階ではしっかりと示しております。そこからまた新たな知見なども出てきてはいますが、大事なことはしっかりとトレーニングをしろ、朝昼晩の三回の食事で体重60㎏の人なら1回につき15gのタンパク質を必ず摂取しろ、三食にプラスして50gほど摂取しろ、ということですね。結局のところ、トレーニング後はある程度の時間が経っているから摂取するタイミングとしては理想的である、という感じなのではないでしょうか。あとは話をする機会がある時には触れている、摂取しすぎてもダメという点もお忘れなく、と。人によっては摂取量を増やすことで効果が出ている人もいるので2.2g程度でも良いのではというのがありますが、ダメな人はその摂取しすぎによって逆効果が出ている可能性もありますので、摂り過ぎを注意するということをやってみるのもありかと思います。とにもかくにも、トレーニングによる刺激の方が効果的であり、タンパク質の摂取による筋肥大の刺激~なんていうのは気にする必要はそんなに無いよ、ということは言えるかと思います。ただ、触れられているようにウエイトリフティングやパワーリフティングの選手などはキッチリと意識して10%程度のプラスを取りにいかないとダメということで。そうではない、1RMの向上よりも大事なことがある人は、タンパク質の摂取を考えるよりも練習をもっと考えろ、ということは言えるかと思います。