2020年11月8日日曜日

サッカーと陸上競技で走り方が違う?

 サッカーの指導者に対して陸上競技の指導者がそれでは速く走れないのでは、という指摘をしているのを眺め、サッカーの方が「陸上競技とサッカーでは競技特性が違うから」という返しをしておりまして、まぁそれはそうなんですけど、でも速く走るという技術に関してはどちらでも同じです。ですので、この案件において私がそれは違うのではと感じたのは陸上競技の指導者の方です。多分、その指導では速く走れないです。むしろサッカーの人の身体の使い方、陸上競技で言われるところの脚が流れるという動作の方が大事です。この点、20年ちょっと走りの指導をしてきましたがどうやっても理解が広まらないわけです。まぁ情報の発信力が弱いので当たり前ですが。で、陸上競技においては後ろに脚が残る、流れるという動作が良くないと言われ続けています。しかし、後ろに残したものを前に素早く移動させることによって前方への大きな力が生まれるわけで、適度に残すのは大事です。これが分からない人は、地面に力を加えることで走れているという認識の人が多いです。どれだけ地面に力を加えても前には進みません。地面に力を加えるという動作は、反対の脚を前へと素早く送り出すために大事な動作なので。

これと似たような現象が投球動作においても起こっています。小学生や中学生の投手が速い球を投げようとして腕を速く振ろうとしていますが、最後だけ速くしても速い球にはならないわけです。後ろにある物体を前へといかに速く移動させるか、という点が重要なわけで。この点を理解できると速い球を投げようとしてただ腕を速く振るのではダメだというのが分かります。

そんなわけで サッカーと陸上競技の走りにおいては違いは特に無いです。速く走るという点において必要な動作は同じです。ただ、競技特性という点に関しては確かにあります。速く走りたいのがどういう時なのか、という理解をして始まることがあるわけです。相手が求めている速く走りたいというのがサイドバックで速くトップスピードで駆け上がりたいのか、中盤の選手で反応を良く走り出したいのか、GKで一瞬の動きで走りジャンプしたいのか。この点における違いは少しありますが、基本は変わらないです。トップスピードでサイドバックの選手が駆け上がる時に10mや20mのダッシュの意識でやると確かに少し遅いですし、無駄にエネルギーを使ってしまうので試合中の持久力の低下につながります。ですので、どのような速く走る要素を高めたいのかという共通認識を持ってから指導は始まります。相手が提示している動画を見て「それは~」というのは簡単ですが、相手がどういう意図をもってそれをやってるのかを確認してこそ、共通の理解が生まれるので話がスタートできます。陸上競技においても速く走るという言葉だけで共通理解にはならないですからね。走幅跳の選手とマラソンの選手では言うこと、やってることはかなり違いますから。短距離選手の動きを真似てるマラソン選手なんてほとんどいないわけですから、速く走るというのがいかに曖昧とした言葉なのか、ということです。

2020年11月4日水曜日

サッカー選手の持久力の大前提の話

 サッカー選手の持久力向上に関するご相談を頂いた時に、基本としてまず理解してもらっている話があります。それは90分動き続けられる能力は、90分の中でのペース配分によるものが大きく影響するということです。スプリント回数が多かったら途中で確実に動けなくなります。ずっと走り続けるのは無理です。この点が忘れられがちですので、まずはこの点を意識してもらいます。どれだけトレーニングを積んだところで、当然ながら限界というのはあるわけでして。無尽蔵のスタミナという言葉を試合中にずっと動ける能力だと思うのはどうかな、と。よく実況で、「この時間でもまだ動けるスタミナ」という表現が使われますが、これもその時間までほとんど動いていなかったら誰でも可能になります。時間が経つから疲れるのではなく、その時間分だけ運動をしているからエネルギー切れになっていき疲れるわけです。もちろん、何もしないで立っているだけでもエネルギーは使いますし疲れはしますが。ちなみにJリーグにおいては時速24㎞以上になるとスプリントとして記録されるわけですが、これは100mなら15秒で走るペースです。陸上競技ですとスプリントかと言われると、微妙な速度です。ちなみに1試合の90分を不動産表示での徒歩1分80mで考えると7.2㎞歩くことになります。試合中の走行距離が少ないという例によく出るメッシの距離がおよそ7~8km。つまりメッシはずっと歩いている。何なら歩きすらしない。それにより必要な時にしっかりとスプリントができています。もしこれが全力スプリントが増え、試合中にも走る距離が増えた場合、途中でガス欠になる可能性はかなりあると思われます。他の選手がカバーしてくれるから走らないで済んでいると指摘されたりもしていますが、そうした戦術が用いられているチームですので問題は無いのでしょう。なお、ボールは疲れないということも言われるわけですが、戦略としてボールを取れそうなところでパスを回して相手を走らせてエネルギーを減らせるのはかなり効果的な戦略だと思われます。サイドバックの選手を50m以上の全力スプリントを繰り返させれば、本数を重ねるうちに動きは悪くなるでしょう。スプリントの間のインターバルを短くして、とにかく一度にダッシュさせる距離を長くさせれば、よりダメージを与えられます。こうした試合中にエネルギーが減っていくという観点を忘れがちな人が多い気がします。チーム戦術もあるとは思いますが、選手個人のエネルギー量の限界はあり、持久力はどれだけスプリントをし、走り回ったかによって大きく影響されるということを忘れずにいただければ。なお、ちょっと遅めの1㎞6分ペースくらいでも90分止まらず走りまわっていれば15㎞。これであればそこまでキツくは無いと感じるくらいだと思いますので、単純に走行距離が多ければ良いかとなると、これまた話は別物になります。ですので、効果的なスプリントというのを指標として考えるのが大事だと思います。なお、スプリントにおいて、その他の走りにおいてフォームが悪くて無駄にエネルギーを消費していることもしばしば確認されます。これを改良することで持久力が向上するというのも見られます。地面をとにかく踏み込む走りをしてしまっている人が多いので、この点に関しては走りの指導を受けるのは大事かと思います。

 

繰り返しですが、どれだけ速い速度で多く走っているか、ダッシュを何本やったかも試合中の持久力の限界に大きく寄与します。食事とトレーニング、試合途中での補給により向上できる面はありますが、90分間でスプリントを繰り返し続ける限界はあります。この点をまずは理解してからトレーニングでのさらなる能力向上を考えて頂ければと思います。なお、多くのチームが90分以上の練習時間をかけているので、ほとんどの練習が持久面にフォーカスすることになっていると言えるかと思います。当たられても倒れない身体を作りたいと考えるのであれば、別でそれだけに専念した方が効果的になります。毎日練習してエネルギーが不足している中で筋肉を増やすトレーニングは効果的ではありませんので。もっとサイクルを意識して、練習時間を少なくして身体作りをやる日があっても、と思います。

2020年7月1日水曜日

インターバルトレーニングはスピードを高めるのか?

noteの方でこんな記事を書きまして、
有料ではございますがそこそこ買っていただきまして。

持久的な能力を向上させるトレーニングを考える
https://note.com/jshira/n/nba54879bf607

質問などはコメント欄に頂ければと思う所です。
具体的なトレーニング例などは特に書いていませんが、それに関しては別途料金をご相談の上となります。


さて、そんな記事の中でも取り上げました論文。

Brief intense interval exercise activates AMPK and p38 MAPK signaling and increases the expression of PGC-1α in human skeletal muscle


30秒の全力自転車運動を4set実施というもの。高負荷なトレーニングなのに筋肥大を刺激するような遺伝子発現、シグナル伝達はほとんど見られないことから、こうしたインターバルトレーニングは持久系トレーニングである、というのが最後の方に書いてあります。この点をもっと深く考えるべきだろうと思うわけです。

インターバルトレーニングでスピードを出すことにより速く走れるようになる

これは多くのランナーの皆様が実感しているかと思いますが、何が起こって速く走れるようになっているのか。実感として多いのはスピードが上がるなのだろうと思いますが、この高負荷なインターバルトレーニングにおいては筋肉の増加は期待できません。短距離選手であればスピードアップには筋肉が必要と思う人が多いですが、一方で長距離選手はスピードアップに筋肉を必要という考えを持っている人が多くないと思われます。じゃあ筋肉が増えないのにスピードアップって何で?という疑問に行き着くかと思います。この点は難しい話ではないのに意外と考えている人が少ない気がします。

100mを速いペースで走れる距離が長くなる

というのがスピードアップにつながるわけです。100mを15秒が限界の選手が60秒で400mを走れるかとなると、まぁ無理と答える人が圧倒的多数になると思います。スピードに余裕が無いから途中で維持の限界が来るためですが、この維持できる距離を長くするのがインターバルトレーニングの本質になると思います。100mが15秒の選手が200mを34秒かかっていたのが、持久力が向上して100m15秒ペースをより長く維持できた結果、150m まで同じ速度で走れたので、という具合です。400mであれば、70秒かかっていたのが66秒で走れるようになりました、というのも同じように100mの速度をより長く維持できるようになったからです。

100m15秒→15秒
200m32秒→31秒
300m50秒→48秒
400m70秒→66秒

こんな感じですね。最大速度が高まるというのも神経系の刺激によって生じるとは思いますが、速い速度をより維持できるようになったから、持久力が高まったから、というのがスピードアップの要因としてあることを忘れていませんか、と。ですので、400mなど短い距離をより速く走ろうという話になってくると、筋肉を増やさないとダメだとなります。最高速度を高めることで8~9割の速度に余裕を出すのは大事です。当然ながら、心理的に大事とかいう話では無いですので。トップスピード、最大速度が速いと余裕があるから心理的に楽になるという理屈でいくと、世界記録を持っているU.BOLTが世界で最も速度に余裕がある選手となりますが、残念ながら400m以上の距離で速く走ることはあまり期待できません。やはり速い速度をどれだけ維持できるか、という話になりますので。
なお、

800mランナーとjog
https://note.com/jshira/n/n4ffadd93663c


800mのみならず長距離選手の皆様におかれましては、jogと一言で言いますが、そのペースによってはトレーニング効果は大きく変わりまして、筋肉を増やしたりすることもできるんですよ、という話はちょっとお高いお値段ですが書いてありますので。長距離を速く走れるようになりたければ、筋肉を増やす事や回復を促すことも考えて、ゆったりとしたペースで走ることも大事ですからね、と。インターバルばかり毎日やってたら、むしろ弱くなるし故障のリスクが高まるだけになってしまいますから、という具合です。

そんなわけで、スピードと簡単に言ってしまっていると思いますが、その中身をもっと考えてみると良いと思います。

2020年6月26日金曜日

30分で2時間のトレーニング効果って?

巷で話題となるあんなトレーニングやこんなトレーニングがあるわけですけれども、この忙しい時代ですので短時間でトレーニング効果が高いということを売り文句にしている商品が多いなぁと思う所です。そんな中で気になったのが、

30分で2時間のトレーニング効果!!

という謳い文句です。これって何をもってして30分で2時間分のトレーニング効果となっているのかなぁ、というのが気になりまして。で、簡単に調べてみましたところ、多分こういうことだな、と。


通常のトレーニングを30分しました。その60分後に血液などの採取をしましたという実験がよく用いられるわけですが、それをグラフ化するとこんな感じになります。
 












続きまして120分運動をし、60分後の血液を見たものをグラフ化するとこんな感じです。
 

まぁ実際には運動直後、1時間後、3時間後といった採血をしますが、分かりやすくするために30分の運動と120分の運動後に採血というグラフにします。さて、この2つのグラフですが、確かに運動後60分での数値が50となっているので、30分の運動が120分の運動と同様に50まで高まったから同じ効果だ!!と言える気がします。

本当にそう言えますか?? 

グラフを見て疑問に思う点があると思います。

運動中の変化って起きないの?

という点です。 実験デザインにおいて、負荷を掛けて走ったりしている最中に血液を採取するのは難しいです。10数年前に私はとある大学病院で予備実験の被験者をやりまして、大腿部にチューブを差し込み血液を採取されながら、心拍数や酸素摂取量の変動をモニターで見ながらずっと自転車運動をするという経験をしたことがあります。運動中の心拍出量や血圧を眺め、1桁ってすごいなぁ、心臓すごいわ、と思いつつ迷走神経反射でダウンしました。懐かしい。その際の血液のデータなども後日眺めましたが、当然ながら運動開始時から様々な反応が生じて代謝物質が作られています。ですので、実際の身体で起きている反応として近いのはこんなグラフになると思います。
 

運動開始から青いトレーニングが数値を上回り、30分やった後の1時間後の測定で50という最大値に達します。この最大値は120分をやった後の1時間後の測定と同じ数値なので、最大値だけで比較したら30分と120分が同じ効果となるかもしれません。ただ、オレンジの線も下回っていますが90分の間にずっと体内で何かしらの反応が生じており、トレーニング効果を生んでいると考えられます。適当なグラフですが、合計値で比較しますと青の線の30分運動は140、オレンジの線の120分運動は190となっています。最大値だけで見たら確かに同じ負荷、効果と言えるかもしれませんが、実際には継続時間が長い方がより効果が高いということもあると思います。もちろん、長すぎると効果が下がるトレーニングなどもありますので一概に比較するのは難しいですが、多くの場合で30分の短時間トレーニングの最大値と120分のトレーニングの最大値しか比較してない場合が多そうだな、と思ったのでこんな記事を書きました。昨今話題の高負荷なトレーニングが必ずしも効果が高いわけでは無い、時間が掛かる中で効果が上回っていく練習もあるから、という点をご理解頂ければ。

2020年5月1日金曜日

一酸化炭素の摂取と持久的トレーニングの効果

A New Method to Improve Running Economy and Maximal Aerobic Power in Athletes: Endurance Training With Periodic Carbon Monoxide Inhalation.

. 2019; 10: 701.
Published online 2019 Jun 6. doi: 10.3389/fphys.2019.00701

Jun Wang, Yunhui Ji, Li Zhou, Yang Xiang, Ilkka Heinonen, and Peng Zhang

高地トレーニングでは酸素が薄い環境により腎臓からエリスロポエチン(EPO)が分泌され、これが持久的なパフォーマンスを向上させる。一酸化炭素はヘモグロビンにおいて酸素よりも結合が強いため、これを体内に取り入れることは血中の酸素を減らし低酸素環境を作り出せる。適切な一酸化炭素の摂取は高地トレーニングと同様の反応を引き起こせると考えられる。
 
被験者は12人の喫煙をしていない低地で生活をしている大学のサッカー選手。10年以上のトレーニング経験を有する。
 
被験者は2分間、体重当たり1mL/kgを摂取、4週間の実験を実施

結果、結論
1回の一酸化炭素の摂取によりEPOの数値は40%ほど上昇、4時間後にピークを迎えた。
tHb (3.7%), plasma (6.8%), and whole blood volume (6.2%), VO2max (2.7%), and running economy (4%)と数値が向上した。

一酸化炭素は強く結びつくので管理された環境下以外での実施は死ぬ可能性が非常に高いからな!!
 
 倫理的な問題も考えられるので、今後も研究が必要である。
 
FREE
 
細かい内容は無料で読める論文ですので、google翻訳にでも放り込んで読まれると良いと思います。下手に高地トレーニングするよりも圧倒的な効果が見込める可能性があるし、禁止物質ではないので検査でも問題がない。最高のパフォーマンスアップのアイテムですね。吸い過ぎることで死ぬ可能性が圧倒的に高いですけれど。