2021年7月20日火曜日

給水不足な状態で暑い中での運動を開始した時の体温調整に関する男女差

Sex difference in initial thermoregulatory response to dehydrated exercise in the heat 
Gabrielle E. W. Giersch 2021 - Physiological Reports

・脱水の影響と生殖ホルモンの状態(生物学的性別も)の影響が、暑い中での運動時の体温調節に影響するのかという点は現在のところ明らかになっていない。

・水分を補給した状態で暑い中で運動する際の男女の体温調節の違いは、体格や形態の違いに起因するとされている。(Gagnon & Kenny, 2012; Jay, 2014; Shapiro et al., 1980)。

・運動強度を相対的な最大酸素摂取量(VO2max; Gagnon et al., 2009)に基づいて決定した場合、体格が体温調節反応の違いを説明することが示されてきた。しかし、熱産生に基づいて運動強度を規定した研究(Gagnonら、2008、2009;Gagnon & Kenny、2012)では、女性は主に性ホルモン濃度が周期の中で最も低い時期であるMC(月経周期)の初期である卵胞期に調査されてきた(Owen、1975)ので、エストラジオールやプロゲステロンが男女間の違いに与える影響を評価することができない

・女性ホルモンはMCを通して大きく変動し、体温調節機能に定量的な影響を与える(Charkoudian & Stachenfeld, 2014, 2016; Kolka & Stephenson, 1989, 1997a, 1997b; Owen, 1975)
女性は、卵胞期初期に比べて黄体期中期には、安静時、運動時、運動後のTre(直腸温)が増加する(Carpenter & Nunneley, 1988; Giersch, Morrissey, et al., 2020; Kolka & Stephenson, 1997b; Kuwahara et al., 2005; Lei et al., 2017)

・Treの増加は、プロゲステロン濃度の上昇によるものと考えられる(Charkoudian & Stachenfeld, 2016; Kolka & Stephenson, 1997b)

・ホルモンの影響があるので女性は男性と比べて暑さに対して反応が異なる可能性がある。しかし、このような疑問は、水分補給の状態を変化させた場合に関しては、解決されていない(Sawka et al., 1998)。

・性、生殖ホルモン、水分補給の状態によって、暑中での運動に対する体温調節反応が変化する可能性はあるが、メカニズムは十分に解明されていない。この研究では健康な若年男女を対象に、暑熱時の運動に対する体温調節反応に対する性の影響が、水分補給状態によって変化し、さらに生理周期によっても変化するかどうかを評価することを目的とした。

・女性では脱水に伴う運動中の体温上昇が、MC期とは無関係に悪化するという仮説を立てた。

・被験者は健康な20歳前後の男性12名と女性7名

・VO2maxの30%、40%、50%、60%、70%、80%の速度でそれぞれ4分、24分間の運動を実施。地形や風の抵抗を考慮してトレッドミルで2%の勾配をつけた。環境は~33°Cで相対湿度50%

・運動試験の直前に24時間の水分制限を実施。運動前の24時間は水分を摂取せず,水分含有量の少ない食品を摂取するよう指示

・運動前の脱水刺激として24時間の水分制限をしたのは、水分摂取量が少ない人や前日に脱水症状を伴う運動をして十分に回復しなかった人と同様の低レベルの脱水症状にするため(Cheuvront & Kenefick, 2014)

・比較的軽度の脱水状態であっても、女性は男性よりも暑い中での運動開始時のTreの上昇をより高める

・ホルモン状態による体温調節反応の違いは確認できなかった

・水分補給の状態は男女ともに発汗量に影響を与える。女性でも脱水は体温調節反応を損なうことが示唆された


雑感
運動する前にしっかりと水分摂取を実施してとは言うものの、前日の運動後に十分な給水ができていない場合というのはそれなりにあり、どうして調子が悪いのかとなったら給水不足というのはよくあることかと思われます。オシッコの色がほんのりと黄色い状態になるくらいまでの摂取が必要ですが、飲んでから体内で給水されて反映されるまでにもそれなりの時間を要しますし、運動後の喉の渇きに比べると、数時間も経ってしまうと水分を摂ろうという意識は減ってしまいます。そうした状態での運動において、女性は直腸温が上がりやすくなるので、パフォーマンスがすぐに落ちてしまう可能性が高い、ということですね。もちろん、給水が不十分な状態での運動は好ましくないわけですが、気づかずに運動を開始した場合に今日は何か動きが悪いなと思ったら、脱水の可能性も疑いましょうね、というのが言えるかと思います。生理周期での違いは特に無いようなので、しっかりと運動後や日常における給水を実施して、万全な状態で練習ができるようにすれば良さそう、ということで。

2021年6月12日土曜日

高負荷なトレーニング後はミトコンドリアの呼吸が減少する

Short term intensified training temporarily impairs mitochondrial respiratory capacity in elite endurance athletes

https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/japplphysiol.00829.2020Journal of Applied Physiology 10 JUN 2021
Daniele A. Cardinale et.al
27人のエリートの持久的な種目の選手に適度なトレーニングを3日の後に高負荷なインターバルトレーニングを4週間続けて実施した。ミトコンドリアの呼吸量は20%ほど減少した。ミトコンドリアの密度は増加していることから、機能が減少していると考えられる。そしてアコニターゼの不活性化が確認された。

そのうち本文はしっかりと読むとして、ミトコンドリアの機能が低下するというのは経験や他の論文などからも予想していた通り。気になる点はアコニターゼの不活性化。クエン酸回路の機能が弱まるという点や鉄イオン濃度の調整がうまくいかなくなるという点。追い込んだ練習はあまりやり過ぎても意味が無いというのをまた裏付けるデータかなと言えるかと思います。

2021年4月1日木曜日

朝食を食べないことは夕方のトレーニングのパフォーマンスに悪影響

Omission of a carbohydrate-rich breakfast impairs evening endurance exercise performance despite complete dietary compensation at lunch
Richard S. Metcalfe, Matthew Thomas , Christopher Lamb & Enhad A. Chowdhury

European Journal of Sport Science 
Accepted author version posted online: 16 Jul 2020, Published online: 27 Aug 2020

朝食で炭水化物を多く含む食事をせずに昼に自由に食べると夕方のパフォーマンスが下がるのが分かっているので、朝食を摂取しなかった場合を実験してみたもの。
・被験者はトレーニングをしている自転車選手。
・朝食と昼食、昼食だけのグループに分けて両者のカロリーやタンパク質などを統一。
・結果、朝食を抜いた群は夕方の20㎞トライアルで3%ほど平均出力が低かった
・トライアル開始時から明らかに出力は低下
・しかし、この差は心理的な要因の可能性が高い
・問題点は前日の食事管理をしていない、朝食を食べる習慣がある人を被験者にしたこと

細かい点は無料で読めるのでお読みください。
取りあえず言えそうな事は、朝食をしっかりと食べることは大事である。これですね。かねてから説明している通りですが、学生の皆様は夏休みなどの長期休業以外では、土日を除いて夕方に練習をすることがほとんどだと思われますので、しっかりと朝食を摂取することでパフォーマンスをしっかりと発揮できる、質の高いトレーニングができる状態を作って臨みましょう。そして食事は翌日のトレーニングを万全に行うためにも、素早くエネルギーや身体を回復させるためにも、練習直後の意識は当然ながら、練習中から次の練習への回復を始める意識をもっと持つべきだろうな、と思います。あとは心理的な要因についても触れられているように、ルーティン化している作業が途切れることでパフォーマンスが落ちてしまった可能性もあるので、自分の置かれた状態で100%を発揮すればよいだけ、という開き直るメンタルの強さを持てるようになるのも大事なのかな、と思います。

2021年2月25日木曜日

セット間は長い方が筋肥大には効果的

Short inter-set rest blunts resistance exercise-induced increases in myofibrillar protein synthesis and intracellular signalling in young males
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27126459/
James McKendry et.al,
Exp Physiol . 2016 Jul 1;101(7):866-82. doi: 10.1113/EP085647.

レジスタンストレーニングにおいて1分と5分のrestではどちらが筋肉の合成に効果的かを調べたもの。
1年以上に渡り週に1回以上の下半身のレジスタンストレーニングを実施している若い男性を被験者とした。1RMび75%の負荷で1秒間のレッグプレスとニーエクステンションを4setずつ実施して疲労が確認されたら1分または5分のrestを導入。

結果、1分間のrestによるトレーニングは回復初期の筋タンパク合成を減衰させた。一方でテストステロンの数値は上がっていた。運動により生じるテストステロン値の上昇や成長ホルモンの分泌が筋タンパク合成と関連しないデータは増えている(West et al. 2009; West & Phillips, 2012; Mitchell et al. 2013)。循環内と筋肉内のテストステロン値は関連性が低い可能性はあること、アンドロゲン受容体が作られることが筋肥大に重要な役割を果たしている可能性を考えるべき(Bamman et al. 2001; Mitchell et al. 2013)。
運動後の筋タンパク合成の上昇は長期的な筋肥大を予測するのには役立たない(Mitchell et al. 2014)という近年の論文からして、

以下略

細かいことは無料で読めるので後はご確認ください。トレーニング初期にはエネルギーの必要性が高くて持久的な要素を伸ばすことが大事、その結果としてパワーも自然と上がるという話を最近しておりますが、こういった背景があるわけで。当然ながら、rest時間を長くして回数を増やす事による影響というものも考えられますが、それによって刺激に慣れてしまい伸びが弱まるということも起こります。ですので、トレーニング刺激は様々なものを入れるのが大事である、となるかと思います。筋肉を収縮させることそのものが肥大の刺激である、という考えも大事ですから。

2021年2月13日土曜日

第17回乳酸研究会(オンライン開催)

 ●短時間で実施可能なアスリート向けの低酸素トレーニング方法
~living low-training low+training highという発想~
山本正嘉(鹿屋体育大学)

・自転車選手は最大運動、陸上競技の長距離選手は150bmp程度での運動を実施、どちらも乳酸値の変動に大きな効果。主観的なキツさが低下しやすい
・高所トレーニング単独の効果ではなく、普段のトレーニングの中に組み込むことでトレーニング効果を高めるのがよいのでは
・個人に応じて身体応答が大きく変化するので、最適な負荷をかけるのが大事
・科学の作法に則した研究のやり方ではアスリートレベルのトレーニングに追い付かないので、事例研究として蓄積してヒントとしていくのが大事

八田先生の質問「体内での使い方の変化が起こった、効率に使えるようになったのでは?」

感想としましては、食事の摂取に応じて酸素摂取量も乳酸値も変動するので、疲労によって食事摂取が変動することで数値は簡単に変動します。低酸素環境においては糖の分解がより高まると考えられるので、事前の食事、糖質(炭水化物)の摂取が統一されないと研究として数値を一定にしていくのは難しいと思います。乳酸値も簡易な測定ができるようになりましたが、食事での変動が大きいことがあまり知られていないので、食事が不足している結果として数値が下がっているのに改善したと思ってしまっている案件もある、と思います。

●低酸素環境下でのスプリントインターバル運動時の乳酸代謝に対する急性の応答とトレーニングによる適応
竹井尚也(東京大学大学院総合文化研究科)

・高強度運動時に遅筋線維よりも速筋において酸素分圧の低下が顕著に起こる
・標高3000m相当の低酸素環境において自転車運動を実施、30秒のスプリントと4分程度の休憩をはさんで実施。糖の分解を中心としたエネルギー代謝の変化なし。呼吸のしづらさが感覚的に少し高くなる程度。疲労度などは変化無し。低酸素環境でのスプリント運動では中枢疲労は起こらない、条件間での差も無い。心拍数は上がる。絶対運動強度は低酸素環境での低下は無いので、低酸素環境において大きな生理学的ストレスをかけることが可能になる(実験2へ)
・短距離選手において実施、3×30秒のスプリントを週に3回2週間を実施。トレーニング効果は差が無かった。運動後の乳酸値は低酸素の方がやや低くなる傾向。
・運動後の乳酸濃度の減少傾向は乳酸を作るよりも利用が高まったと考えられる。
・先行研究でも乳酸値が減少している。
Exercise Performance, Muscle Oxygen Extraction and Blood Cell Mitochondrial Respiration after Repeated-Sprint and Sprint Interval Training in Hypoxia: A Pilot Study
なので、ミトコンドリアの機能改善が起こっているのでは?乳酸の酸化、利用が高まる可能性が考えられる

八田先生の質問「常酸素では酸欠にはならないが、低酸素環境では酸欠になってると解釈する?」 竹井「10~20%下がっても運動ができなくなるわけではない」

感想としましては、普通のトレーニングで良くないか?という数値しか出てこなかったので、血液的な変化をもっと見て欲しい、出して欲しいところです。あとは短距離選手のトレーニングとしてその本数、負荷が適切だったのかという点も疑問です。どの時期において実施したのか、これで強くなると言える負荷だったのかというところですね。あれで強くなるならば、と思ってしまえる負荷ですし。この辺りは最初の山本先生が言われていたように、実験として比較条件を明確にしないとダメだから仕方がない部分でもあるので、何とも言えない面もありますが。

●簡単・迅速に血中の乳酸濃度測定が可能!
~ラクテートプロ2 LT-1730のご紹介~
寺尾優人(アークレイマーケティング株式会社)

アークレイによる商品紹介。

ラクテートプロ2にはお世話になっております。薬剤師さんのいる薬局に行き、商品の画像を見せて説明するとスムーズに購入できます。

●軽度な高気圧酸素の効果
~生活習慣病の改善やトレーニングへの応用~
竹村藍(国立スポーツ科学センター)

・高気圧酸素の機械の使用には医師免許が必要
・メタボリックシンドロームに対して軽度な高気圧酸素での滞在により糖代謝異常の改善が起きる。ラットにおいてヒラメ筋重量の減少も抑制され、PGC-1αの減少も抑制される。組織や細胞に十分な酸素が供給されることが影響していると考えられる。
・ヒトにおける今後の研究が必要
・60%酸素環境下でのトレーイングは酸化ストレスの増大は生じなかった(Kon et.al, 2019)
・高酸素環境のため血中酸素飽和度がほぼ100%を維持。心拍数の上昇抑制や血中乳酸濃度の上昇抑制(stellingwerff T et.al 2006)が見られる。発揮パワーの上昇(Chrisopher GRP A et.al, 2007)も見られる
・高濃度酸素環境下でのトレーニングにより血中乳酸濃度の上昇が抑制され、最大運動における平均パワーが増大。神経系の適応の可能性がある。一方で短距離や中距離走においては酸素の利用が高まる結果としてパフォーマンスが下がる可能性がある。

八田先生の質問「酸素濃度を上昇させるのと気圧を上昇させることでの違いは?」「骨粗しょう症に関して。」

感想としましては、トレーニング効果は運動をどれだけ実施できたかという点だけではなく、代謝物質をどれだけ生成できたかという点も大きく影響するので、これだけだと何とも言えない内容かな、という感じです。より長い時間運動を継続できたからといって、トレーニングという観点からすると疑問が残るということです。

●腸内細菌由来乳酸・ピルビン酸を介した腸管免疫の制御
森田直樹(東京大学定量生命科学研究所)
・説明が難しいのでこちらこちらこちらなどを見ていただくのが早いと思われます。
八田先生の質問「運動による血中乳酸濃度の上昇は免疫を高めるのに効果的か?運動による」「腸内細菌の存在は大腸がメインだが?乳酸菌を生成する腸内細菌は小腸に多い」「低炭水化物な食事は免疫の観点からは悪影響?菌によってエサとなる糖が違うが、それが無くなると腸内細菌が乱れてもおかしくない」

感想としましては、最近注目されてる分野であり楽しいお話でしたが、多分基本的なところの知識が無いと難しく感じてしまう内容だろうな、というものでした。やはり炭水化物が大事なんだろうな、ヨーグルトを毎日食べようと言ってますがこれはやはり大事だな、と思いました。

総合討論で思ったこと。
・リカバリーが低酸素環境で悪くなると言うが、ケニアのアスリートなんかはずっと滞在、生活をしているわけで、順応できているかどうかの問題が大きいのでは?個人差が大きいという点は順応力が人によって違うからというのはあるわけで。この辺りがなんとも微妙でして、回復しきれない高負荷を与えてしまったのが問題であるので、トレーニングの設計を見直すべきではという案件なんだろうと思います。なので研究における実験計画通りにやるのは反応の違いが予測できないので本当に難しい。