2014年11月5日水曜日

たまにやる、乳酸のまとめ話

さて、年に数回だったり、数年に一回だったりで書き記してます乳酸の話。

世間での認識は未だに疲労物質という意見が多い感じはしますが、まぁ仕方がない。

取りあえずこれを読んで頂いた人からはそのような認識がなくなればよいかな、

そう思って書き記します。

まず乳酸とは何か?

簡単に言えば糖が分解された時に発生するものです。

乳酸菌というのがヨーグルトなどの発酵食品なんかに出てきますけど、

あれは糖を分解して乳酸を作り出す菌です。

で、人間の身体でも糖の分解というのが行われています。

例としては速筋というものが使われる時、食事で糖を摂取した時などがあります。

人間の筋肉は速筋と遅筋で構成されていますが、白筋とも呼ばれる速筋は、

エネルギーを作り出すためのミトコンドリアやエネルギーを輸送する毛細血管が少ないため、

分解によってエネルギーを作り出せる糖の利用がメインとなります。

遅筋の方は赤く見える事から分かるように、毛細血管が多く、

ミトコンドリアも多いために酸素を使って脂質を分解してエネルギーを作り出す能力が高いです。

人間の活動において速筋は最大で発揮出来る力の60%あたりの負荷を掛けると動員されます。

そうなると糖の分解によってエネルギーを作り出そうとします。

糖が分解されて使われる過程を解糖系と呼びますが、

この過程において糖はピルビン酸というものになってから取り込まれます。

しかし、ピルビン酸になる量は一定であるようでして、

それ以上の分解が行われた際には乳酸という形で保存されておきます。

一昔前は酸素が不足すると乳酸が作られると言われていましたが、

糖の分解が増えピルビン酸がたくさん作られる事が原因なのです。

なお、酸素が不足するという話ですが、

体内での酸素飽和度を測定すれば分かるように、

人間が運動をしている時に酸素が不足することはまず無いですね。

パルスオキシメーターで測定をしている光景なんかを現在でもたまに見かけますが、

酸素は十分にあるという結果になるかと思います。

で、一定量しか作られないピルビン酸から乳酸が出来る流れを理解してもらった所で、

この乳酸はどうなるのか。

当然ながら体内において酸素を用いてエネルギー源として利用されます。

老廃物やらなんやらと言われていた時代もありますが、

それは運動後に疲労した状態を測定すると乳酸がたくさんある、

そうした結果があったからです。

詳しくはこちらを


”生化夜話 第47回 美しすぎる相関性が生んだ思い込み - 乳酸と筋肉疲労”
http://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/chem_story/132.html


運動後に乳酸は安静にしていれば長くても1時間程度で利用されて通常の値に戻ります。

軽い運動で血流を高めていればもっと早く値は下がります。

激しい運動の翌日の疲労の原因は前日から溜まっている乳酸だ!!

そんな話は昔の考えです。

ということで、

「速筋を動員するような負荷の高い運動・糖質を多く含む食品の摂取」

これらが体内の乳酸を増加させます。

また、体内に乳酸があると筋肉の出力が高まるという研究結果もあります。

こうした乳酸の話が見直されていったのは


Lactic Acid--The Latest Performance-Enhancing Drug


サイエンス誌に2004年に掲載されたこの論文による所が大きいでしょう。


これ以降は乳酸が疲労物質であるというのが見直され、

むしろパフォーマンス向上のために大いに役立っているという研究がたくさん発表されました。

その一方で疲労の原因とは何か?

これが大きな謎になりました。

ただ、疲労の原因というのはあまりに要因が多過ぎて、

一つのものが理由であるということを断定できないという話になっています。

運動を制限する要因としては
1.エネルギー源の不足(糖質や脂質の減少)
2.エネルギー生産が追い付かない
3.体温上昇
4.筋線維に微細な傷がつく
5.カリウムやカルシウム、ナトリウムといったイオンのバランス変化、減少
6.腱の弾性変化
7.脳での感知
8.以下略

ということで挙げればキリがありません。

これよりも多くの原因があるのに一つに断定できるとしたら、

それは限りなく怪しすぎる情報となるでしょう。

複雑に絡み合う体内の活動が原因で疲労は起こるわけです。

また、筋肉の肥大に関係するという話もありますが、

その辺りも”乳酸値が高まるような状態はトレーニング効果が出る状態である”、

といった方が適切かと思われます。

そんなわけで、

乳酸が溜まっている状態は疲れている状態の事もありますが、

そうでない場合もあるという事をご理解頂ければ。

陸上競技や水泳などでは耐乳酸トレーニングという言葉がありますが、

あれは表現としてはおかしいわけです。

乳酸をたくさん作ってたくさん利用できるのが能力の高いアスリートです。

もちろん、

マラソンのような種目では乳酸をたくさん作らない方が理想的ですので、

種目に応じて異なるという事も言えますが。

正しい理解をして適切なトレーニングをする。

そうすることで自らの可能性がより高まるかと思います。

日本の企業であるアークレイさんもあれこれ情報を出してくれていますし、

正しい情報を見つけて頂ければ

”乳酸の基本 -乳酸は悪者なのか?”
https://biz.arkray.co.jp/lact/hatta/


2014年10月10日金曜日

長距離走における持久力

長距離走においては持久力というものが大事だと言われますが、

この持久力というのはスピードに付随していなければ意味がありません。

速く走りつつ、そのスピードを維持する。

そのために鍛えるべきは速筋のエネルギーを作り出す能力です。

速筋は遅筋よりも大きな力を発揮する事が出来ますが、

毛細血管やミトコンドリアが少ないために、

エネルギーを生産する能力が低いため持久力に乏しい。

そこで速筋に持久力を持たせるようなトレーニングを行うことが大事になります。

ここで大事になってくるのが乳酸であろうと言われています。

乳酸が溜まった状態でのトレーニングを続ける事により、

ミトコンドリアの発現が増えると考えられています。

これをトレーニングにおいて実現するためには、

高負荷でのトレーニングが求められます。

しかし、高負荷でのトレーニングによって追い込まれた感じを得る事で満足する、

それでは意味がありません。

高負荷によって乳酸が生成されるわけですが、

その状態をキープする事が大事になります。

それ以上のスピードに上げると負荷が向上してエネルギーの再生産が間に合わなくなります。

そうなると運動が続けられなくなるので、

負荷を下げる事が必要になります。

つまり、

運動の負荷を上げていくと追い込まれた感じは得られるが、

ミトコンドリアの発現を増やすような刺激としては不十分になりやすい。

なのでトレーニングとしては乳酸が生成されるような負荷を維持し続けるか、

最初に高い負荷を掛けて徐々に下げていくようなトレーニングが理想的となります。

2014年8月23日土曜日

牛乳を飲むと筋肉の合成が高まる


Milk ingestion stimulates net muscle protein synthesis following resistance exercise.



http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16679981

 2006 Apr;38(4):667-74.


アミノ酸の摂取などによるタンパク質合成の話はよくあるが、

レジスタンストレーニングをした後に牛乳を飲むのは効果があるのか?

そうした疑問を調べてみたのがこちらの実験。

効果があるに決まっているじゃないか、そう思う人も多いかもしれませんが、

そんな当然だと思われていることを調べるのが研究者の仕事です。

まぁ結果は当然のように合成を高めております。


2014年8月13日水曜日

筋グリコーゲンの含有量は筋小胞体からのカルシウムイオンの放出量を調整する


Muscle glycogen content modifies SR Ca2+ release rate in elite endurance athletes


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24091991

 2014 Mar;46(3):496-505.


持久的種目のエリート選手を対象とした実験となっていますが、

筋グリコーゲンの含有量は筋小胞体からのカルシウムイオンの放出量を調整する、

というのが結論です。

筋グリコーゲンの減少はカルシウムイオンの放出を減らすため、

疲労の原因となり、ピークパワーの回復も遅らせるといったことが示されています。

筋グリコーゲンの減少、それに伴うカルシウムイオンの放出が疲労の原因の一つである、

そうした点を理解して頂ければ。

2014年8月12日火曜日

ビタミンCの摂取はトレーニングによるミトコンドリアの生合成を阻害しない


Vitamin C supplementation does not alter high-intensity endurance training-induced mitochondrial biogenesis in rat epitrochlearis muscle



 2014 Mar;64(2):113-8.

近年、ビタミンの摂取によるトレーニング効果の減少が言われるようになっていますが、

ラットを使った高強度の持久的なトレーニング実験ではそれが観察されなかったと言っています。

ラットのepitrochlearis muscleですので、

このあたりは条件設定が変わると結果も異なってくる可能性はあります。

同様の実験に注目です。