2016年6月24日金曜日

陸上競技における指導言語”流れる”とは何か

陸上競技の指導において、

走っている選手に対して「脚が流れている」と声を掛ける光景はよく見られる。

では、この”脚が流れている”というものはどのように定義されているのか。

多くは個人の主観であり、定量化されたものは無い。

そこで、これだけ技術的な要素で大事と考えられているものなのだから、

きっと定量化されているのであろうと考えてインターネット上のデータを収集してみた。

以下がその一例である。

修士論文
スプリンターの疾走能力と下肢筋力および 体幹部筋形態の関係について 
-100m走の各疾走局面に着目して-

疾走速度が減速する原因は、接地時間と滞空時間の増加によるピッチの減少である。
このときの疾走動作の特徴は、離地時の大腿が身体の後方に残される
「脚が流れる状態になっていることと、支持期の脚のスイング速度が低下したことが挙げられる。」

この文中において、足が流れるという言葉はこれしか出てきておらず、何の定義も無い。

”離地時の大腿が身体の後方に残される”

とあるが、そのような状態なしに走れる人というのはいるのだろうか。

これでいくと、直立している姿勢よりも脚が後ろにある状態は流れているとなる。

つまり、直立した状態で腿上げのようなことをやらない限りは”脚が流れてる”ということになる。

次に卒業論文と思われるもの

疾走中の腕動作と速度の関連について

疾走速度と肩関節伸展最大角・肩関節屈曲最大 角との間に有意な相関がみられなかったことから, 多くの指導書で述べられている「前後に大きく振る」という一般論には結びつかないことがわかっ た。前後に大きく振るということはそれだけエネルギーを使うことになり,時間もその分長くかかる。前後に大きく振るために必要以上に時間がかかってしまうと脚を戻すのが遅くなり,その結果支持脚が後方に接地することになり,脚が流れることにつながってしまうと考えられる。脚が流れ てしまうと効率よく推進力を得られなくなってしまう。

”脚を戻すのが遅くなり,その結果支持脚が後方に接地することになり,脚が流れる ことにつながってしまうと考えられる。脚が流れてしまうと効率よく推進力を得られなくなってしまう”

これは脚が流れると効率よく推進力を得られなくなってしまう、と述べているが何の定義も無く参考文献の提示もないので完全なる主観で書かれており、参考に出来るレベルのものではない。この文から読み取れることとしては

”支持脚が後方に接地することになり,脚が流れることにつながってしまう”

というものである。脚が流れるとは何なのか分からないのに脚が流れることにつながるというのは、まったくもって文を成していない。よって、何も読み取ることが出来ない。一つ言えるとしたら、

”支持脚が後方に接地する”という点である。走っている時に支持脚が後方に接地する。これしか書いていないのでどこのなにより後ろに接地するのか不明である。上体と地面で構成される垂直な線よりも後ろなのか、前の脚より後ろなのか、頭の位置より後ろなのか、前の選手より後ろなのか。何より後ろなのかは不明である。感覚的には体幹部、上体と地面で構成される垂直な線のことだろうと思うが、そこで接地することは前方回転が強く、転倒しかねない動作であり非現実的である。もちろん、転倒を抑えるために回転数を上げるなど可能となるが。ダラダラ言っているが要するに、

何の役にも立たない、ということですね。


続きまして大学の先生が書かれた論文

短距離疾走における下肢動作の回復期について

この股関節伸筋群から股関節屈筋群の切り替えへの筋活動の遅れが,母指球鉛直最大値を高くし,いわゆる足が流れるということになるのではないかと考えられる

以上のことから,疾走速度の高い選手ほど拇 指球鉛直最大値は低い傾向がみられ,またそういった選手ほど接地中に股関節伸展動作から屈曲動作に素早く切り替わっていたことがみられた。これらのことが,必要以上に脚が流れることを防いでいると考えられる。

こちらも

”足が流れるということに”
”脚が流れることを防いで”

と触れていますが、そもそも足・脚が流れるとは何か、

という点の説明はありません。足と脚で最初と二回目で異なっていますが、別物なんでしょうかね。股関節伸筋から股関節屈曲群への切り替えの筋活動が遅れる状態は足が流れる、ということであると読み取れますが、そうなりますと筋電図を見ないと何も言えません。撮影したデータから言ってしまっていますが、まぁ推測の域を出ませんし、その足が流れるの定義は誰が決めてるんですか、と質問されると答えられません。やはり役に立たない論文です。

探した中ではこれで最後です。
これ以上、足が流れるについて書いている人は見当たっておりません。こんなにも指導言語として用いられているのに。

右足舟状骨疲労骨折を罹患した大学女子中距離ランナーの障害発生機序について

右足部を大きく後方で 踏み返す“足が流れた”動作になっていた
離地期に脚が流れる現象
離地期に脚が流れると、回復脚前半から中間において回復脚の延伸が起こり股関節の屈曲動作が大きくなる。
右足部を大きく後方で踏み返す“足が流れる”動作が観察された。これは、U 選手の「ストライド長を稼ぎたい」という意図的な骨盤の回転運動と腰椎前彎・骨盤前傾で、接地脚の後方移動距離が長くなった(足が後方へ流れる)

かなり足・脚が流れるという言葉について使用しています。足と脚がやはり混在していますが、きっと足関節部分と大腿部でちゃんと識別しているということでしょう(文中からは明確に読み取れませんので、意識が特にないのだと思いますが、分かりません)。先の大学の先生が言っている

”股関節伸筋から股関節屈曲群への切り替えの筋活動が遅れる状態は足が流れる”という点が、

”離地期に脚が流れると、回復脚前半から中間において回復脚の延伸が起こり股関節の屈曲動作が大きくなる”

という形で同じように書いてあるように見えます。ただ、屈曲筋群の筋活動が遅れることで脚が流れるという主張に対し、”脚が流れることで回復客の延伸が起こり屈曲動作が大きくなる”としていますので、何で流れるのかという点に関しては触れていません。流れるとダメなんだ、とは言っていますが、流れているとは何か、という点はこの部分ではありません。次にいきますと

”右足部を大きく後方で踏み返す“足が流れる”動作”
”接地脚の後方移動距離が長くなった(足が後方へ流れる)”

という説明がありますが、

『上体に比べて下腿が後ろに残っている=流れている』

と読み取ってよいでしょう。

ここにきてやっと足が流れるという動作を定義しているものがありました。

『地面に力を加える動作をし、脚が後ろに残り続けているのが脚が流れるということ』

なんとなく納得いくものがあります。いろいろと眺めてきましたが、ちゃんと自ら定義を行っています。この定義が良いかどうかは別として、納得はできます。ということで、ネットで適当に探した論文(ciniiを見ても無いんですよね、脚が流れるを定義しているものが)をいくつか見た中で、脚が流れるというのは

『上体に比べて下腿が後ろに残って地面に力を加えている=流れている』

ということにさせて頂きます。

では、この動作が良いのか悪いのか。結論を言えば、

「悪い」ですね。

この定義での流れているですと、理想的な力の出力点は過ぎています。下腿が伸展しており地面へと力を加えられにくくなっています。力感は得られるが、それは足関節に無理があるからと言えます。ですので、この定義における脚が流れているはダメです。

基本的に脚に関しては、

前に持ってくる動作が出来なかったらダメ
後方にあっても筋力が高くて前に持ってこれるなら問題なし

となると思います。腸腰筋と呼ばれるものが外国人選手は発達してると言われますが、これによって後方にある脚を一気に前方へとスイングすることを可能にしていると考えられます。なお、この最後まで地面に力を加える動作をすることで、足関節の背屈や底屈が行われますが、これによってケツワレと呼ばれる現象が発生することは実験室において試したことがあります(論文化せず、n数は10未満)。力を加えている感はあっても、何の役にも立っていない動作をしていることになります。

ということで、脚が流れるというものをいろいろと検証してみましたが、統一した見解は特にない、見た目を皆様が適当に流れていると言っていることがよく分かりました。納得いくものは「足首をこねて地面に力を入れ続けているのは流れていると呼ぶ動作だ」、というものですが、これ以外にも見解はあると思います。何しろ定義が無いのですから。皆さまが好きに定義してお使いになってよいと思いますが、その際には

「私の脚が流れるの定義はこうです」

という説明が大事になります。共通理解は指導において重要ですので。

2016年4月29日金曜日

メモ

メモ


Preparing the leg for ground contact in running: the contribution of feed-forward and visual feedback


Dissociation between running economy and running performance in elite Kenyan distance runners










Anaerobic Conditioning: Training the Three Energy Systems





The Effects of High Intensity Short Rest Resistance Exercise on Muscle Damage Markers in Men and Women


Muscle Glycogen Content Modifies SR Ca2+ Release Rate in Elite Endurance Athletes

グリコーゲンの量が減るとカルシウムイオンの放出が減る→疲労の原因?

Effects of Compliance on Trunk and Hip Integrative Neuromuscular Training on Hip Abductor Strength in Female Athletes


Effect of custom-made and prefabricated insoles on plantar loading parameters during running with and without fatigue



Relationship between physiological parameters and performance during a half-ironman triathlon in the heat

暑熱環境下でのトライアスリート

Building Muscle: Molecular Regulation of Myogenesis



The effectiveness of extracorporeal shock wave therapy in lower limb tendinopathy: a systematic review.



Changes in Running Kinematics, Kinetics, and Spring-Mass Behavior over a 24-h Run


Exercise Training Improves Heart Rate Variability after Methamphetamine Dependency





Uphill running does not exacerbate collagenase-induced pathological changes in the Achilles tendon of rats selectively bred for high-capacity running






Preventive Effects of 10-Day Supplementation With Saffron and Indomethacin on the Delayed-Onset Muscle Soreness




Acute effects of a cluster-set protocol on hormonal, metabolic and performance measures in resistance-trained males




キネシオテープは一瞬での力発揮を必要とする競技には効果的


効果はありそうだけれども追加での実験がたくさん必要


Negative regulation of glucose metabolism in human myotubes by supraphysiological doses of 17β-estradiol or testosterone





Critical power derived from a 3-min all-out test predicts 16.1-km road time-trial performance


The differential effects of PNF versus passive stretch conditioning on neuromuscular performance


Stride frequency in relation to oxygen consumption in experienced and novice runners




Effect of concurrent strength and endurance training on skeletal muscle properties and hormone concentrations in humans

2016年3月22日火曜日

筋力と筋量の違いを簡単に

筋力と筋量を説明する時に混同していて、

????????????????????????????

という内容になってしまっているけれども、

まぁ気づいている人、

理解している人が少ないせいか、

なるほど!!

と思わせている話が多々散見されるので簡単に。

筋量とはそのものズバリで筋肉の量のことですね。

簡易な体脂肪計のようなもので計測することもできますが、

あれはあくまで推計値です。

筋横断面積(CSA)という言葉で示されるように、

ちゃんと計測したい人はMRIの輪切り画像や、

超音波で身体内をしっかりと分析しないと無理です。

体脂肪計は多くのサンプルから作られた推計式に当てはめていますので、

簡易な計測で示される筋肉量というものは参考値程度にしてください。

除脂肪体重という言葉もありますが、

これは脂肪を除いたものですので、

筋肉だけではなくて内臓などの重さも計測します。

その点をお間違えないように。

『筋量とは筋肉の量のことである』

よろしいでしょうか。

では筋力とは何か。

こちらは筋肉が発揮する力です。

この筋肉が発揮する力というものは、

筋肉の量と神経系の能力によります。

トレーニング初心者の人が少しトレーニングをすると、

数日で大きな力を発揮出来るようになりますが、

これは神経系が発達したことによるものです。

筋量の増加というのはそんなに簡単に起こりません。

その昔は2~3カ月で起こると言われていました。

これは計測する方法が難しく、

数ミリの肥大で筋肉の量が増えたと言えるのか、

水やら血管やらの影響じゃないのか?

というものがありまして、

明らかに肥大する2~3カ月が筋肉の量が増える(筋肥大)には必要とされていました。

最近ではMRIを徹底的に用いたりすることで、

2週間ほどでも筋肉の量が増える(筋肥大)ということが確認されています。

ということで、

『筋力=筋量×神経系のようなもの』

このように理解して頂ければよろしいかと思います。

ですので、

筋力の増加は筋肥大(筋量が増加)したのか神経系が発達したのかを見分けないと、

よくありがちな、

「短期間で筋肉がメッチャついた!!」

という勘違いにつながります。

まずは神経系の発達によって筋力が上昇。

その次に筋量の増加が起こりますので、

そこで筋力が上昇、

となります。

では筋量が増えると必ず筋力が上がるのか?

残念ながらこれは言い切ることが出来ません。

以下、小難しい話はどうでも良いという方に取りあえず



まとめ

筋量=筋肉の量
筋力=筋肉の量と神経系の能力に応じて発揮される力

筋量が増えたから筋力も上がるとは断言できない



以下、小難しい?話が少々。



加圧トレーニングの研究を見てみますと、

Combined effects of low-intensity blood flow restriction training and high-intensity resistance training on muscle strength and size.


低い負荷でトレーニングして筋肥大は確認されているが筋力は上がっていない、

というものがあります。

ベンチプレスを用い、大胸筋のデータを見ている結果ですので、

何かしら別の要因があるかもしれませんが、

神経系の適応が不足した結果、

伸びが無かったと推測されます。

実際、この後に高い負荷でのトレーニングを実施して試した所、

低負荷による肥大が起こったグループでも筋力の上昇が確認されています。

(論文があったような気もしますが、学会で筆頭著者への質問しました)

また、

近年では低負荷で継続不能になる運動を実施することで筋肥大が生じることも確認されています。

こうした点から考えると、

肥大をするためのトレーニングを実施し、

出力を高めるような高負荷を組み合わせて高める、

という段階を踏むことが合理的のようにも考えられます。

そこにはmTORやPGC、ppar、myostatinなどなど成長因子の話もありますが、

筋量と筋力といった関係の一つの話から見ますと、

低負荷も上手く取り入れるとケガのリスクを下げることなどが可能になるかもしれません。

筋量を増やす(筋肥大をさせる)ことをやってから、

神経系を鍛えて筋力を増やす。

筋量と筋力の話からやや脱線しましたが、

ご参考までにどうぞ。