個人的な感想ですので参考までにお願い致します。
2016年7月23(土)と24(日)に熊本大学黒髪キャンパスにおきまして、
第24回日本運動生理学会大会が開催されました。
私は当日の朝一の飛行機にて熊本入りしましたので、
一番最初の大会長である井福裕俊先生(熊本大学教育学部生涯スポーツ福祉学科)の講演を見ておりません。
また、シンポジウムなども同時並行で別会場において実施されましたので、
興味あるものしか見られておりません。
見に行った他の人に話を聞いて把握はしておりますが、
ほぼ抄録に記載されている通りということですので、
そちらを参考にして頂ければ。
持っていないという人の方が多数と思いますが、
そこは何とも出来ません。
ご理解下さい。
さて、
初日の午前にはシンポジウム1、座長は緒方知徳先生(広島修道大学人間環境学部)で
「骨格筋の質的・量的変化を制御する分子メカニズムの探求」
が行われました。
河野史倫先生(松本大学健康科学研究科)による
「運動が引き起こすエピジェネティクスと骨格筋の適応性変化」
という題での講演です。
これも内容としましてはほぼ抄録に記載されている通りかと思います。
言葉の説明などを丁寧に進めて頂きましたが、
どれだけトレーニングしても速筋での糖利用は遅筋に勝てないといった話から、
速筋や遅筋におけるヒストン修飾の影響についてという話へ。
”1か月のover load なトレーニングで遅筋においてサイズが有意に増加”
”遅筋においては転写誘導は上昇しているのにヒストンのアセチル化は減少した”
などが示されました。
そしてこれらは胎児期の細胞が関わるのでは?
ということで再生筋での話に移っていきました。
胎児期の筋核がどうやって消失するのかという話や、
再生筋は肥大しにくいがその理由は何かといった話、
サテライト細胞が増殖していく過程で機能が無くなっていくのでは、
といったことが示されました。
2人目の小野悠介先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)は
「骨格筋の修復・再生の分子メカニズム」
というテーマでのお話しでした。
3人目は小笠原理紀先生(名古屋工業大学大学院工学研究科)は
「骨格筋量調節におけるリボソーム生合成の役割」
というテーマ。
このペースで書いていくと時間が掛かりますので、
皆様が知りたいであろう話を数点挙げていきますと、
・小野先生の筋再生に関する話として
「互いに抑制して制御をしているものがある。常に量を多くしていることが良いとは限らない」
・小笠原先生のリボソーム生合成の話として
「rRNAの増加が多い人は筋の肥大も大きい」
・昼の大塚製薬によるランチョンセミナー
「ポカリスエットは薄めずにそのまま飲んでください(個人的にお伺いした質問への答え)」
・午後の教育講演 丸山敦夫先生(新潟医療福祉大学健康科学部)の話として
「筋疲労による脱抑制が運動学習の成績を高める可能性がある。疲労している中での技術トレーニングは有用である」
シンポジウム3、座長は林直亨先生(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院)による進行。
まずは林先生から
”血液が不足すると人間には何が起こるか?何が問題か?”
という点について簡単な説明。
「脳や筋、眼では血流が不足すると意識を失ったり運動継続困難になったり、視野を失う。
これは狩猟の時代であったら狩られる」
・石井圭先生(産業技術総合研究所)
「自発的な運動をする時には運動開始前にセントラルコマンドの指令により血流は増加する」
「脚の運動を行うと上肢骨格筋のOxy・Hbが増加、上肢を行っても下肢では増えない」
・芝崎学先生(奈良女子大学研究員生活環境科学系)
「暑熱下で静脈還流量は低下するが一回拍出量は維持される」
「暑熱下では副交感神経支配が弱まることで心拍が増加する(交感神経系に関係なく)」
・池村司先生(早稲田大学スポーツ科学学術院)
「疲労困憊時では血圧が増加しても脈絡網血管の血流増加は抑制される」
・一之瀬真志先生(明治大学経営学部人間統合生理学研究室)
「運動時に生じる代謝物は血圧の低下や血管拡張の抑制に関わっている」
教育講演2は荻田太先生(鹿屋体育大学)
「運動強度という言葉がよく使われるが、どこからが高強度なのか明確ではない」
「Tabata Protocolには弱点もあるので新たなスプリントトレーニングを提案したい」
といった内容でした。
口頭発表やポスター発表で数点、私が興味深かったものを簡単にまとめますと、
・筋内脂肪が多い人に持久力が優れている傾向が見られる
・高頻度のレジスタンストレーニングはタンパク合成シグナルを活性化するが、骨格筋合成は活性化しない可能性がある(マウス実験)
・長期の高脂肪食(60%、マウス実験)摂取は速筋の筋機能低下を引き起こす(筋内脂肪は増加)
といったものです。
長時間の持久的な運動を行う人が著しく体脂肪を低くすることは、エネルギー源である(可能性がある)筋内脂肪を減らすことになるので、好ましくないことかと推測されます。また、高頻度のレジスタンストレーニングで筋肥大が引き起こしにくくなる可能性も提示されましたが、この辺りもなんとなく感覚的に理解できるものがあります。毎日やるのは筋力の向上を目的とするならば良いかもしれませんが、筋量の増加を目的とするならば止めておくべきでしょう。
以上、簡単にではありますが、まとめさせて頂きました。
突然のコメント失礼致します。
返信削除質問なのですがJ-shira様は陸上競技(特に長距離種目において)の指導者として理想的な姿はどのようなものと思いますか?
運動生理学を少しでも学んでいけば人体は複雑怪奇な部分が多く、誤った知識を覚えさせないために曖昧な表現を使わなければいけない部分が多くなります。
しかし学生を対象として指導していますと、曖昧な表現を使うと何を信じてトレーニングすればよか迷い、結果的にネット上の断言的に書かれている情報を鵜呑みにして突っ走ってしまいがちです。
これを防ぐために私自身が断言するように教えていけば、先ほど書いた運動生理学の考えを無視せざるを得ない場面も出てきてしまいます。
学生の意識を改革しようにも全ての子どもが理解力に溢れているわけではなく、あらゆる研究データを教えこんでも流れでてしまいますし、正しい情報の判断基準を与えても安易な情報に流れやすい傾向にあります。
また指導する相手も一人二人ではなく二桁以上になれば、人体は十人十色のため画一的指導はできず、私一人の手では対応しきれない選手も出てきます。甘えと言われれば何もいえませんけれど…。
とにかく私は指導者としてどうあるべきかを迷っています。研究データを尊重すべきか、生徒の理解を優先すべきか。この2つを両立できれば何も言うことはありませんが、できておりません。
指導者としてあるべき姿をご提示できれば幸いです。
基本的に競技スポーツにおいては理論どうこうよりも結果を残すのが指導者としてあるべき理想だと思っています。スポーツにおける目に見える結果は自分の能力の限界などによって決まります。しかし、どれだけ頑張っても活躍できない選手はいますので、個々人が最大限をやる尽くすことが出来るような指導や環境の整備をしていくのが求められるかと思います。
削除学生への指導も行っていますが、人間の身体の複雑さを理解してもらい、曖昧なものは曖昧であり、それを断言できてしまう人の方が胡散臭い、と説明しています。これが理解できない人はどうやっても指導が入っていかないので、諦めます。才能がどれだけあろうとも、伸ばすことが出来そうだと思っても諦めます。特に昨今はインターネットで情報収集して誤った方向に行く人が多いのは事実ですが、そうした時に話し相手、相談に乗れるような形が出来て入れば良いのかな、という気がします。インターネットで調べたら同じ情報が沢山出てきたから正しいわけではない、ということを理解できない人も多いですが、そうした指導、解説をするのも競技を遠した教育、指導の一環として捉えるべきかと。
なんとなく返事が曖昧な感じになっていますが、曖昧なものの中から”組み立てる”という作業を出来るようになれば良いと思います。研究データはあくまで限られた実験室の一定条件の中での話であり、応用をしたらそこにはエビデンスは無いことになります。
ですので、研究データとしてこういうものがあるから、こうしたことが考えられる。でも一方でこういうのもあるから、この可能性もある。ではどうしたらよいか、というのを考えられるような体制作りや指導を行えれば良いと思います。最適解をいくつか提示する。これが絶対というやり方を見つけようとしない、という姿勢ですかね。あとは競技や成長の段階に応じてやるべきことは異なってくる、という忘れやすい点も押さえることでしょうか。勿論、絶対に変化することがなさそうな話でありましたら、また別ですが。
長々となりましたが、何かのお役に立ちましたら幸いです。
貴重なご意見ありがとうございます。
削除今後は学生の理解力を高めることを念頭に置いた指導を目指していきたいなと感じました。
私個人の知識もまだまだ甘いものがありますので、少しでも正しい知識を見につけ指導に当たりたいと思います。
ご返答ありがとうございます、とても参考になりました。